「心臓の状態を考えると、手術はおすすめできません」。あるいは「本人が、もう手術は受けたくないと言っている」。高齢の家族が大腿骨を骨折し、手術をしない・できない道を前にしたとき、多くのご家族は「このまま寝たきりになるのでは」「家で本当に看られるのか」という不安を抱えます。大腿骨骨折の治療は手術が基本ですが、全身状態やご本人の意思によっては、手術を見送る判断もあります。そのとき大切なのは、あきらめることではなく、痛みを抑え、寝たきりや褥瘡(じょくそう、床ずれ)、肺炎を防ぎながら自宅での生活を組み立てることです。この記事では、町田市・相模原市で訪問看護・訪問リハビリを提供している立場から、大腿骨骨折で手術しない選択をした高齢者の在宅生活について、保存療法の見通し、痛みのケア、合併症の予防、家族の判断の考え方を整理しました。この記事でわかること大腿骨骨折で手術しない・できないと判断される理由と、在宅生活で変わること保存療法の内容と期間、予後についてガイドラインが示していること自宅でできる痛みのケアと、連絡・受診を急ぐべきサイン寝たきり・褥瘡・誤嚥性肺炎を防ぐ具体的な方法家族が手術しない選択をするときの判断材料と、訪問看護の使い方大腿骨骨折で手術しない・できない選択をしたときの在宅生活とは高齢者の大腿骨骨折で手術しない選択をした場合、在宅生活は痛みが落ち着くまでベッド中心となり、寝たきりを防ぐ介護と医療の支えが欠かせません。日本整形外科学会は、大腿骨頚部骨折ではほとんどの場合に立つことも歩くこともできなくなり、骨折をきっかけに寝たきりや閉じこもりになる方が多いと説明しています。安静中に認知症や廃用萎縮(はいよういしゅく、使わないことで筋肉がやせること)が進むのを防ぐため、手術を考えることが増えているとも述べています(出典:日本整形外科学会「大腿骨頚部骨折」)。裏を返せば手術しない選択では、寝たきりを防ぐ役割を、手術ではなく日々のケアが担うことになります。手術しない・できないと判断される主な理由手術を見送る理由は、大きく「体が手術に耐えにくい」「手術の利点が小さい」「本人が望まない」の3つに分かれます。判断の理由具体的な状況の例家族が確認したいこと全身状態のリスク重い心臓病や肺の病気で麻酔の危険が高いどの病気がどの程度のリスクか手術の利点が小さい骨折前から歩いておらず、骨のずれも小さい手術で痛みや介護のしやすさが変わるか本人の意思以前から大きな手術は受けたくないと話していた本人の今の考えと、元気な頃の言葉認知機能と体力認知症が進み、入院やリハビリの負担が大きい入院による混乱と自宅療養の負担の比較全身状態が手術に耐えられる方には、保存療法は基本的に選ばれません。大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021でも、保存治療は偽関節(骨がつかずに不安定なまま残る状態)の発生率が高いため、手術に耐えうる方には行わないほうがよいとされています(出典:日本整形外科学会・日本骨折治療学会「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)」)。骨折前から歩いていなかった方でも、痛みを減らして座れるようにする目的で手術が勧められることがあります。「もう歩かないから手術はいらない」と家族だけで結論を出さないでください。手術しない在宅生活で変わること手術しない在宅生活では、寝る・食べる・排泄するといった毎日の動作の多くが、ベッドの上とその周りで行われるようになります。生活の場面骨折前手術しない在宅生活寝る場所布団や普通のベッド介護用ベッドと体圧分散マットレス排泄トイレまで歩くおむつ、差し込み便器、ポータブルトイレ食事食卓に座って食べるベッドの背を起こして、または車いすで通院自分で、または付き添いで移動が難しく訪問診療を検討最も変化が大きいのは排泄。痛みが強い時期はトイレまで移動できず、おむつ交換で腰を持ち上げる動作が骨折部に響くため、介助の方法が痛みの強さを左右します。介護用ベッドは背上げと高さ調整ができ、食事や排泄の介助を楽にします。介護保険では特殊寝台や床ずれ防止用具、体位変換器が福祉用具貸与の対象ですが、要支援と要介護1の方は原則として給付の対象外です(出典:厚生労働省「福祉用具・住宅改修」)。骨折で状態が変わったときは、要介護認定の区分変更を早めにケアマネジャーへ相談してください。通院が難しくなるため、訪問診療との併用も視野に入ります。町田市の在宅医療の仕組みは【町田市の在宅医療】訪問診療と訪問看護の連携とは?で紹介しています。保存療法の見通しと経過|どのくらいで動けるようになるか大腿骨骨折の保存療法は数週間から数か月単位の経過をたどり、手術しない高齢者が在宅でどこまで動けるかは骨折の場所と骨折前の歩行能力で変わります。保存療法とはどんな治療か、期間の目安保存療法は「何もしない治療」ではありません。手術で骨を固定する代わりに、骨折部が落ち着くのを待ちながら痛みの管理と合併症の予防を続け、動く範囲を少しずつ広げていきます。段階主な内容ガイドラインで紹介された研究の例初期安静、痛み止め、体位の工夫痛みが軽くなるまで安静にする回復期起き上がりと座る時間を増やす体重を一部だけかける部分荷重を始める安定期車いすや歩行器での移動を検討8週で全荷重を開始した例がある期間の目安として、ガイドラインには次のような研究が紹介されています。ずれの少ない頚部骨折で、痛みが軽くなるまで安静にしてから部分荷重を始め、8週で全荷重に進めた例。約10日間の牽引(けんいん、脚を引っぱって骨の位置を保つ処置)の後、3か月間の部分荷重を続けた例です(出典:日本整形外科学会・日本骨折治療学会「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)」)。どちらも研究として行われた治療で、自宅に同じ期間を当てはめられるとは限りません。在宅では主治医の許可の範囲で、起き上がりや座る時間を少しずつ増やします。どこまで体重をかけてよいかは、レントゲンを見た主治医の指示に従ってください。受診のたびに家族が確かめたいのは、「いつ歩けるか」よりも「今の段階で何をしてよいか」です。大腿骨骨折の場所で見通しが変わる大腿骨の付け根の骨折は、関節の内側で起きる骨折と外側で起きる骨折(転子部骨折など)に分かれ、骨のつきやすさが大きく違います。骨折の場所骨のつきやすさ保存療法での注意点関節の内側(頚部の内側骨折)血液の流れが悪く骨がつきにくいずれの進行と骨頭壊死に注意関節の外側(転子部骨折など)骨はつきやすい内出血が多く、腫れやあざの変化を観察内側の骨折は血液の流れが悪いため骨がつきにくく、後に骨がつぶれる骨頭壊死(こっとうえし)にも注意が要ります。外側の骨折は骨がつきやすい反面、内出血が多いのが特徴です(出典:日本整形外科学会「大腿骨頚部骨折」)。ずれのない骨折でも油断はできません。ガイドラインでは、ずれのない頚部骨折に保存治療を行った報告で14〜46%に転位(骨のずれ)が生じ、手術が必要になったとされています(出典:日本整形外科学会・日本骨折治療学会「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)」)。骨折の場所は退院時の書類などで確認し、訪問看護やケアマネジャーと共有しておくとよいでしょう。手術しない場合の予後と余命手術しない選択が予後や余命にどう影響するかは、家族が最も知りたく、同時に聞きにくいことの一つです。ガイドラインの記載家族にとっての意味日本の頚部骨折後1年以内の死亡率は10%前後(海外は10〜30%)骨折そのものが命に関わる出来事である予後には性別、年齢、受傷前の歩行能力、認知症などが影響骨折前の状態が見通しを左右する早期手術は合併症が少なく、生存率が高い手術しない場合は合併症予防がより重要手術ができなかった患者の死亡率が最も高かったとする報告手術しない選択には相応の覚悟が要る表はガイドラインの記載をもとに整理したもの(出典:日本整形外科学会・日本骨折治療学会「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)」)。1年以内の死亡率10%前後は骨折した方全体の数字で、保存療法だけの成績ではありません。手術ができなかった方はもともと全身状態が悪いことが多く、手術をしなかったことだけが原因とは言い切れません。数字は「合併症を防げるかで経過が変わる」という意味で受け取ってください。主治医には「この状態で手術しない場合、起こりやすいことは何か」と聞くと、具体的な答えを得やすいでしょう。痛みのケアの方法|自宅でできる工夫と受診の目安手術しない高齢者の大腿骨骨折の痛みは、動かし方の工夫と痛み止めの時間の合わせ方で和らげられ、急な悪化は在宅でも早めの連絡が必要です。保存療法中の痛みは動かすと強くなりやすく、介助のたびに痛むと、ご本人は動くこと自体を怖がるようになります。痛みのケアは寝たきりを防ぐ入り口でもあります。自宅でできる痛みを和らげる工夫痛みを減らす工夫の中心は、骨折した脚をねじらず、体と脚を一体にして動かすこと。場面痛みが出やすい動き和らげる工夫横向きにする脚だけが遅れてねじれる膝の間にクッションを挟み、体と脚を同時に回すおむつ交換腰を高く持ち上げる2人で行い、横向きの姿勢で交換する背上げ体がずり落ちて脚が引っ張られる先に膝側を少し上げてから背を上げる寝ている姿勢脚が外側に倒れたまま固まる脚の外側にクッションを当てて向きを保つ「市販の痛み止めを足してもいいですか」。訪問先でご家族からよく受ける質問ですが、答えは「自己判断では足さない」です。高齢の方は胃や腎臓への影響が出やすいためです。痛み止めは、主治医から処方されたものを指示どおりに使います。ガイドラインでも、アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は疼痛管理に有用とされています(出典:日本整形外科学会・日本骨折治療学会「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)」)。効き始めの時間を薬剤師か訪問看護師に確認し、おむつ交換や清拭をその時間に合わせると、介助の痛みを減らせます。痛みは0から10の数字で聞くと、日ごとの変化を比べやすくなります。言葉で答えにくい方は、表情や体のこわばりを記録して主治医に伝えてください。大腿骨骨折の保存療法中に受診を急ぐサイン保存療法中は骨のずれや合併症で状態が急に変わることがあり、次のサインは様子を見ずに連絡してください。緊急度サイン連絡先すぐに救急要請息苦しさ、胸の痛み、呼びかけへの反応が鈍い119番当日中に連絡痛みが急に強くなった、脚の向きや長さが変わって見える主治医、訪問看護当日中に連絡発熱、咳や痰の増加、片方の脚だけのむくみ主治医、訪問看護早めに相談食事や水分がとれない、急に落ち着かなくなった訪問看護、ケアマネジャー痛みの急な悪化や脚の向きの変化は、骨のずれが進んだ疑いがあります。片方の脚だけのむくみは血栓症(血の塊が血管をふさぐ病気)のことがあり、息苦しさを伴えばすぐに救急要請が必要です。肺炎や血栓症は、ガイドラインで大腿骨近位部骨折の術後合併症として挙げられているもの(出典:日本整形外科学会・日本骨折治療学会「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)」)。寝ている時間が長い保存療法でも、同じ注意が要ります。「急に落ち着かない」「つじつまの合わないことを言う」という変化は、せん妄(一時的な意識の混乱)のことがあります。痛みや脱水、発熱がきっかけになることもあるため、認知症の進行と決めつけずに伝えてください。夜間に迷わないよう、主治医と訪問看護の連絡先を1枚の紙にまとめ、ベッドの近くに貼っておきましょう。寝たきり・褥瘡・肺炎を防ぐための在宅ケア手術しない大腿骨骨折の高齢者が在宅療養を続けるには、褥瘡・誤嚥性肺炎・筋力低下の3つを同時に防ぐことが、寝たきりを防ぐ要になります。動けない時間が長いと褥瘡ができやすく、寝たままの姿勢で食べると誤嚥が起こりやすく、どちらも体力を奪ってさらに動けなくなります。この悪循環を断つことが在宅ケアの目的です。褥瘡(床ずれ)を防ぐ体位変換と寝具褥瘡予防の基本は、同じ場所に長く体重がかからないよう体位変換を行い、体圧を分散する寝具を使うことです。予防のポイント日本褥瘡学会が示す内容在宅での工夫体位変換基本は2時間以内、寝具によっては4時間以内でもよい食事や排泄の介助に合わせて行う姿勢お尻の筋肉で体重を受ける30度側臥位クッションで背中と脚を支えるスキンケア洗浄後に皮膚保護のクリームなどを塗るおむつ内の蒸れと汚れを早めに除く栄養高エネルギー・高たんぱく質の補給食事量が減ったら栄養補助食品を相談体位変換の間隔は、基本的に2時間以内。使う体圧分散寝具によっては4時間以内でもよいとされ、自力で向きを変えられない方には圧切替型エアマットレスが勧められています(出典:日本褥瘡学会「褥瘡の予防について」)。初期のサインは皮膚の赤み。指で軽く押して、押しても赤みが消えずに残る場合は初期の褥瘡と考えます(出典:日本褥瘡学会「褥瘡について」)。訪問で私たちが真っ先に確かめるのは、かかとです。脚の向きを保つクッションを当てていても、かかとがマットレスに押しつけられたまま赤くなっていることが少なくありません。お尻の中央とあわせて毎日見てください。痛みの出にくい向きの組み合わせを訪問看護と決めておくと安心です。手順は褥瘡(床ずれ)の在宅予防|体位変換とスキンケアの正しい方法でも紹介しています。誤嚥性肺炎を防ぐ食事の姿勢と口腔ケア寝ている時間が長くなると、飲み込む力の低下と食事姿勢の崩れから、誤嚥性肺炎が起こりやすくなります。対策具体的な方法気をつける点食事の姿勢ベッドの背を十分に起こし、あごを軽く引く体がずり落ちたまま食べさせない口腔ケア毎食後と寝る前に歯と舌、入れ歯を清掃する口の中の細菌を減らす食後しばらく背を起こしたままにする食後すぐに平らに寝かせない誤嚥性肺炎は、唾液や食べ物と一緒に細菌を気道に吸い込むことで起こり、飲み込む力が落ちた高齢者や寝たきりの方に多い病気。予防の柱は口腔ケアと、食事の際に十分に上体を起こし、ゆっくり噛んで飲み込むことです(出典:日本呼吸器学会「誤嚥性肺炎」)。同学会によると、誤嚥性肺炎は発熱や咳が目立たず、なんとなく元気がない、食欲がない、のどがゴロゴロ鳴るといった症状だけのことが多いとされています。令和6年の人口動態統計でも誤嚥性肺炎は死因の第6位です(出典:厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」)。熱がないからと安心せず、いつもと違う様子を訪問看護に伝えてください。痛みで背を起こせない時期は、背上げの角度を少しずつ上げることから始めます。詳しくは誤嚥性肺炎の在宅予防|繰り返さないための家族の対応ガイドも参考にしてください。筋力低下と寝たきりを防ぐ離床の進め方寝たきりを防ぐ鍵は、痛みの許す範囲で起きている時間を毎日少しずつ延ばし、骨折していない部分の筋力を保つこと。段階目標家族ができることベッド上骨折していない脚と両腕を動かす足首の曲げ伸ばしや手を握る運動を一緒に背上げ背を起こして過ごす時間を延ばす食事や会話を背を起こした姿勢で端座位ベッドの端に腰かける両足を床につけ、体を横から支える車いす車いすで食卓や窓辺へ移る移乗は訪問リハビリで方法を習ってから寝ている時間が長い保存療法中は、筋肉の衰えが特に進みやすい時期です。サルコペニア(加齢などによる筋肉量と筋力の低下)の診療ガイドラインでも、運動や栄養で発症を予防・抑制できるかが検討項目に挙げられています(出典:日本サルコペニア・フレイル学会/国立長寿医療研究センター「サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂」)。どの段階まで進めるかは主治医が判断します。骨折した脚に自己判断で体重をかけさせるのは避けつつ、骨折していない側の手足はリハビリ職と相談しながら動かしましょう。座ってテレビを見る、家族と食卓を囲むといった「起きる理由」も離床の意欲につながります。生活の工夫は廃用症候群を防ぐために、寝たきりを防ぐ訪問リハビリと生活の工夫でも紹介しています。体位変換や食事介助を、ご家族だけで抱える必要はありません。ピース訪問看護ステーションでは、看護師とリハビリ職が自宅に伺い、痛みと体の状態に合わせた介助方法を一緒に考えます。不安を感じたら早めにお問い合わせください。家族が手術しない選択をするときの考え方大腿骨骨折で手術しない選択は、高齢者本人の意思と骨折前の暮らし、全身状態を主治医と整理して決め、在宅で支える体制まで考えておくのが基本です。町田市・相模原市のご家庭に伺うと、「手術しないと決めたのは私だから」と、決断を一人で背負い込んでいる娘さんや息子さんに出会うことがあります。どちらを選んでも不安が残る判断だからこそ、材料を整理し、家族で納得して決めましょう。判断に使う5つの視点手術するかどうかは、医学的なリスクだけでなく、ご本人の暮らしと価値観を含めた5つの視点で整理すると判断しやすくなります。視点確認すること主治医への質問の例全身状態手術と麻酔の危険の程度「手術で命に関わる危険はどのくらいですか」骨折前の生活歩けていたか、どこまで自立していたか「手術したらどこまで戻る見込みですか」本人の意思本人が今、または以前どう話していたか「本人の希望をどう治療に反映できますか」痛みと介護手術しない場合の痛みと介護の負担「手術しないと痛みはどのくらい続きますか」在宅の体制家族の人数、介護サービス、住まい「自宅で療養するには何が必要ですか」「何を基準に決めればいいのか」と迷ったときの手がかりが、高齢者総合機能評価(CGA)です。病気だけでなく、日常生活動作(ADL)や認知機能、生活の質(QOL)、社会的な要素まで多面的にみる考え方。骨折の管理に役立つかという問いも、ガイドラインで取り上げられています(出典:日本老年医学会/国立長寿医療研究センター「高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024」)。「歩けるようになるか」だけで考えると、手術のリスクや本人の意思が見えにくくなります。表の5つを家族で書き出し、主治医の説明と照らし合わせてください。中でも軸になるのは本人の意思です。今の意思を確かめにくい場合は、元気だった頃の言葉や大切にしてきた暮らし方が手がかりになります。本人ならどう選ぶかを話し合うことは、家族だけが決断を背負わないための方法でもあります。話し合いの進め方と、決めたあとに見直す視点手術しない判断は一度決めたら終わりではなく、経過に応じて見直してよいものです。時期話し合うこと関わる人治療方針を決める前手術した場合としない場合の見通し主治医、本人、家族在宅移行の前在宅での医療と介護の体制病院の相談員、ケアマネジャー、訪問看護在宅療養の開始後痛み・食事・皮膚の状態、家族の負担訪問診療医、訪問看護、ケアマネジャー状態が変わったとき治療方針の見直し、入院の必要性主治医、本人、家族説明の場にはできるだけ複数の家族で参加し、内容をメモに残しましょう。一人で聞いた説明を伝え直すと内容が変わり、意見が割れる原因になります。迷うときは別の医師の意見を聞くセカンドオピニオンも選択肢です。保存療法の途中で骨のずれが進んだり痛みが続いたりして、改めて手術が検討されることもあります。「一度断ったから頼めない」と考えず、状態が変わったら主治医に相談してください。決めたあとに「本当にこれでよかったのか」と悩むご家族は少なくありません。本人の意思とその時の情報をもとに真剣に考えて決めたこと自体が、ご本人を大切にした証です。訪問看護がサポートできること|町田・相模原での関わり方訪問看護は、大腿骨骨折で手術しない高齢者の在宅生活を、痛みと合併症の観察、介助方法の指導、医師やケアマネジャーとの連携で支えます。手術しない高齢者に訪問看護が行う主なケア訪問看護では、看護師と理学療法士・作業療法士が自宅に伺い、医療的な観察と生活の介助方法の両面から在宅療養を支えます。支援の内容具体的に行うこと家族にとっての利点状態の観察痛み・皮膚・呼吸の変化を記録し主治医へ報告痛み止めの調整や早めの対応につながる合併症の予防褥瘡の処置、寝具や食事姿勢の助言褥瘡や誤嚥性肺炎を防ぐリハビリ関節を動かす運動、起き上がりと移乗の練習寝たきりを防ぐ服薬の確認痛み止めや骨粗鬆症の薬の飲み忘れ確認痛みの管理と次の骨折の予防介助方法の指導体位変換・おむつ交換・移乗のコツ痛みと家族の腰の負担を減らす退院後もリハビリを続ける意味はあるのか。ガイドラインは急性期病院の退院後もリハビリテーションを続けることを提案し、セラピストが家庭を訪問して指導した研究で、筋力の回復や歩行速度の向上、転倒リスクの減少がみられたと紹介しています(出典:日本整形外科学会・日本骨折治療学会「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)」)。保存療法に限った研究ではないものの、生活の場でリハビリを続ける考え方は参考になります。大腿骨の付け根を骨折した方は次の骨折のリスクが高く、同じガイドラインでは骨粗鬆症の治療や転倒予防が推奨されています。骨粗鬆症の治療には、2025年に公表された最新のガイドラインがあります(出典:日本骨粗鬆症学会/日本骨代謝学会/骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」)。私たちが訪問するときは、ベッドの高さや家族の介助の癖まで確かめ、その家に合った方法を一緒に考えます。生活の場で状態を見られるのが、訪問看護の強みです。町田・相模原での関わりと利用開始までの流れ訪問看護の利用には主治医の訪問看護指示書が必要で、ケアマネジャーや病院の相談員を通じて申し込むのが一般的です。手順内容相談先1. 相談訪問看護を使いたいと伝えるケアマネジャー、病院の相談員、訪問看護ステーション2. 指示書主治医が訪問看護指示書を作成する主治医3. 初回訪問自宅の環境と体の状態を確認する訪問看護ステーション4. 計画と見直し訪問の回数と内容を決め、状態に合わせて変える主治医、ケアマネジャー、訪問看護町田市・相模原市で訪問看護を提供する中で、手術を見送って自宅に戻られたご家庭からよく聞くのが「動かすと痛がるので、触るのが怖い」という声です。私たちはまず、痛み止めの効いている時間にケアを合わせ、2人で体と脚を一緒に横向きにする方法をご家族と練習します。合う方法は一人ひとり違うため、これはあくまで一例です。町田市や相模原市は坂道の多い住宅地も多く、骨折後は通院そのものが大きな負担になります。訪問診療の医師と訪問看護が連携すれば、自宅にいながら痛み止めの調整や皮膚の処置を受けられます。介護保険の認定を受けている方は原則として介護保険で訪問看護を利用し、状態が急に悪くなったときは、主治医の特別な指示書により一時的に医療保険での訪問になります。よくある質問(FAQ)Q1. 高齢者の大腿骨骨折は、手術しない選択をしても大丈夫ですか。手術が基本で、ガイドラインでは全身状態が手術に耐えうる方には保存治療を行わないほうがよいとされています。手術の危険が高い方や本人が望まない方では保存療法を選ぶこともあり、その場合は痛みの管理と褥瘡・肺炎の予防を在宅で続けることが前提です。Q2. 大腿骨骨折で手術しない場合、予後や余命への影響はどうですか。ガイドラインでは、日本の大腿骨頚部骨折後1年以内の死亡率は10%前後とされ、年齢や受傷前の歩行能力、認知症などが予後に影響します。個人差が大きいため、主治医に「この状態で起こりやすいこと」を具体的に尋ねてください。Q3. 保存療法とはどのような治療で、期間はどのくらいですか。安静と痛み止めで骨折部が落ち着くのを待ち、動く範囲を少しずつ広げる治療です。ガイドラインで紹介された研究には8週で全荷重を始めた例や3か月間部分荷重を続けた例がありますが、骨折の場所やずれの有無で変わるため、主治医の指示を確認してください。Q4. 手術しない場合、痛みはどのように和らげますか。痛み止めが効いている時間にケアを合わせ、体と脚をねじらず一体で動かします。横向きやおむつ交換は2人で行い、クッションで脚の向きを保つのも効果的です。急に痛みが強くなったら骨のずれの疑いがあるため、主治医へ連絡してください。Q5. 大腿骨骨折で手術をしないと寝たきりになる確率はどのくらいですか。手術しない場合に限った寝たきりの確率を一律に示せるデータは多くありません。骨折前の歩行能力や認知症の有無で大きく変わりますが、動かない時間が長いほど筋力低下や褥瘡、肺炎が起こりやすくなります。痛みの許す範囲で、起きている時間を少しずつ延ばしてください。Q6. 家族が手術をしない・できない選択をするときの判断基準は何ですか。全身状態のリスク、骨折前の生活、本人の意思、痛みと介護の負担、在宅の体制の5つで整理します。本人の意思を確かめにくい場合は元気な頃の言葉を手がかりにし、家族だけで結論を出さず、主治医やケアマネジャーと一緒に考えてください。Q7. 訪問看護は、手術しない選択をした高齢者にどう関わってくれますか。痛みや皮膚、呼吸の状態を観察して主治医へ報告し、褥瘡や誤嚥性肺炎の予防、リハビリ、介助方法の指導を行います。利用には主治医の指示書が必要なので、まずケアマネジャーか訪問看護ステーションに相談してください。Q8. 大腿骨骨折で入院せず、自宅で療養することはできますか。骨折の診断には画像検査が必要なため、まず医療機関の受診が欠かせません。そのうえで主治医が入院の必要はないと判断し、訪問診療や訪問看護、介護用ベッドなどの体制を整えられれば、自宅での療養も選べます。まとめ高齢者の大腿骨骨折は手術が基本ですが、全身状態や本人の意思によっては手術しない選択もあり、その場合は日々の在宅ケアが寝たきりを防ぐ役割を担います。痛みはねじらない動かし方と痛み止めの時間の合わせ方で和らげ、褥瘡・誤嚥性肺炎・筋力低下を同時に防いでください。方針は状態に合わせて見直して構いません。まずは次の受診で「この状態で手術しない場合、自宅で気をつけることは何か」を主治医に聞き、訪問看護を使いたいとケアマネジャーに伝えるところから始めてください。ピース訪問看護ステーションにご相談くださいこんな方はぜひご相談ください:大腿骨骨折で手術しない選択をし、自宅でどう看ればよいか不安な方おむつ交換や体位変換のたびに痛がる様子を見て、介助が怖くなっているご家族ピース訪問看護ステーションができること:看護師が痛み・皮膚・呼吸の状態を観察し、変化を主治医へつなぎます理学療法士・作業療法士が、痛みの少ない体位変換や離床の方法をご家族と練習します東京都町田市・多摩市、神奈川県相模原市・大和市・川崎市麻生区を中心に対応しています。まずはお気軽にお問い合わせください。関連記事【専門家監修】高齢者の大腿骨骨折の原因・治療・リハビリ・予防法まで徹底解説大腿骨骨折の術後、自宅に戻ってからの生活と再骨折の予防褥瘡(床ずれ)の在宅予防|体位変換とスキンケアの正しい方法誤嚥性肺炎の在宅予防|繰り返さないための家族の対応ガイド廃用症候群を防ぐために、寝たきりを防ぐ訪問リハビリと生活の工夫骨粗鬆症の圧迫骨折、在宅生活での注意点と家族が支える回復のコツ参考文献一覧出典:日本整形外科学会・日本骨折治療学会「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)」2021年https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00625/出典:日本整形外科学会「大腿骨頚部骨折」https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/femoral_neck_fracture.html出典:日本骨粗鬆症学会/日本骨代謝学会/骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」2025年https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00891/出典:日本褥瘡学会「褥瘡の予防について」https://www.jspu.org/general/prevention/出典:日本褥瘡学会「褥瘡について」https://www.jspu.org/general/about/出典:日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン 第5版」2022年https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00726/出典:日本呼吸器学会「誤嚥性肺炎」https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-12.html出典:厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei24/index.html出典:日本老年医学会/国立長寿医療研究センター「高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024」2024年https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00874/出典:日本サルコペニア・フレイル学会/国立長寿医療研究センター「サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂」2020年https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00426/出典:厚生労働省「福祉用具・住宅改修」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理、地域医療連携、在宅看取り支援に積極的に取り組んでいる。island-piece.jp 株式会社isLand|訪問看護・居宅介護支援・訪問介護|町田市