はじめに「訪問看護」とは、自宅で療養する方のもとに看護師などの医療専門職が訪問し、必要な医療的ケアや生活支援を行うサービスのことです。高齢化社会が進む中、病院ではなく自宅で療養を希望する人が増えており、訪問看護はそのニーズに応える重要な存在となっています。たとえば、退院後のリハビリを自宅で続けたい方や、末期がんなどで自宅での看取りを望む方、慢性的な病気を抱える高齢者などが利用対象になります。しかし、「訪問看護って何ができるの?」「介護とは何が違うの?」といった疑問を持つ方も多いのが実情です。本記事では、訪問看護でできることとできないことを具体的にわかりやすく解説しながら、訪問介護との違いや、実際にサービスを利用する流れについても紹介していきます。これから訪問看護の利用を検討している方や、家族のために情報を集めている方にとって、少しでも参考になれば幸いです。第1章:訪問看護で「できること」訪問看護では、医療の知識と経験を持つ看護師が利用者の自宅を訪れ、主に以下のような医療的ケアを行います。これらは、医師の「訪問看護指示書」に基づいて実施されるもので、病院と同等レベルのケアを在宅で受けることができます。1. 健康状態の観察・管理血圧、体温、脈拍、呼吸などのバイタルチェック症状の変化や悪化の早期発見医師への報告・相談による早期対応看護師が定期的に状態をチェックすることで、病気の悪化を未然に防ぎ、入院のリスクを減らすことができます。2. 医療処置の実施点滴、注射、褥瘡(じょくそう:床ずれ)の処置人工肛門(ストーマ)の管理カテーテル(導尿や胃ろうなど)の交換・管理酸素療法の補助これらの処置は医療機関でなければ難しいと考えがちですが、訪問看護では自宅で安全に受けることが可能です。3. 服薬管理と指導薬の飲み忘れや副作用のチェック飲み方の説明や整理整頓のサポート家族への説明や服薬支援特に高齢者では、薬の管理が難しくなりがちです。看護師が関わることで、服薬ミスを防ぐことができます。4. リハビリテーション支援寝たきり防止のための機能訓練関節の拘縮予防(動きが固まらないようにするケア)歩行訓練や移動の練習作業療法士や理学療法士との連携訪問看護では、簡単なリハビリも実施できます。専門職と連携することで、より本格的な支援も可能です。5. ターミナルケア(終末期の看護)痛みや苦痛の緩和(緩和ケア)精神的なケア、家族への支援看取りの支援(自宅で最期を迎えるための体制づくり)「最期は住み慣れた家で」と願う方にとって、訪問看護は大きな支えとなります。看護師が寄り添い、 dignified(尊厳ある)な最期をサポートします。6. 精神的なケアと家族支援不安や孤独を抱える患者への傾聴介護者(家族)のストレスケアや相談対応医療・介護の制度についての助言在宅療養は、本人だけでなく家族にも大きな負担がかかります。訪問看護師は、精神的なサポート役も担っています。7. 他職種との連携医師、ケアマネジャー、訪問介護、薬剤師などとの情報共有多職種チームの一員としての役割訪問看護は単独ではなく、多職種と連携しながら利用者を支える「チームケア」の一部です。このように、訪問看護では自宅にいながら幅広い医療的支援を受けることが可能です。特に「医療が必要だけど入院は避けたい」という方にとって、大きな助けとなります。第2章:訪問看護で「できないこと」訪問看護は、医療的な専門ケアを提供するサービスですが、すべてのニーズに応えられるわけではありません。ここでは、制度上・専門上の理由から「訪問看護では対応できないこと」について整理します。1. 医師の診断や処方行為訪問看護師は医療従事者ではありますが、「医師」ではありません。そのため、以下のような医師固有の業務はできません。病名の診断薬の処方や変更手術の判断訪問看護師は、医師の指示書に基づいて医療行為を行います。看護師の判断で治療内容を決めたり、診断を下したりすることは法律で禁止されています。2. 家事や生活援助(訪問介護の範囲)訪問看護は「医療サービス」です。したがって、次のような日常生活の支援業務は基本的に行えません。掃除、洗濯、調理、買い物などの家事代行排泄介助や入浴介助(※医療的な必要性がない場合)これらは、介護保険サービスである訪問介護(ホームヘルパー)の範囲になります。訪問看護と訪問介護はよく併用されるため、役割分担を理解しておくことが大切です。3. 24時間の常駐や夜間滞在訪問看護は「定期的な訪問」によるサービスであり、以下のような対応は原則できません。24時間の常駐看護長時間の見守りや泊まり込み緊急時以外の夜間訪問ただし、緊急時対応体制(24時間連絡が取れる体制)を整えている事業所もあり、必要に応じて夜間や休日の訪問ができるケースもあります。4. 高度な医療機器の操作訪問看護では、多くの医療処置に対応できますが、以下のような高度で専門的な医療機器の操作は対象外になることがあります。人工心肺装置(ECMOなど)高度な集中治療機器特定の高度管理医療機器(取り扱いに資格が必要なもの)こうした処置が必要な場合は、在宅ではなく医療機関での管理が基本となります。5. 保険外サービス(自由診療的なもの)訪問看護は、医療保険または介護保険による制度サービスです。そのため、次のような目的では利用できません。美容目的の施術(美顔マッサージなど)自費の健康相談のみ保険外リラクゼーションや慰安マッサージただし、一部の訪問看護ステーションでは「自費訪問看護サービス」として、制度外のオプションを提供している場合もあります(要確認)。訪問看護は非常に頼りになるサービスですが、「何でもやってもらえる」というわけではありません。制度の枠組みと専門領域を理解して、他サービスとの併用も視野に入れて活用することが重要です。第3章:訪問看護と訪問介護の違い在宅医療や介護の現場では「訪問看護」と「訪問介護」が混同されやすいですが、この2つは目的・サービス内容・提供者が大きく異なります。ここではその違いを明確にしていきましょう。1. サービスの目的の違い種類主な目的訪問看護医療的ケア(治療・症状の管理)訪問介護生活支援(介助・日常生活のサポート)2. 提供者(スタッフ)の違い種類担当者(資格)訪問看護看護師・保健師・理学療法士など訪問介護介護福祉士・ホームヘルパー(初任者研修修了者など)訪問看護では医療従事者が訪問し、医療処置やリハビリ、健康管理を行います。訪問介護では、介護の専門職が食事・入浴・排泄などの生活援助を提供します。3. サービス内容の違い分類訪問看護で対応訪問介護で対応点滴、カテーテル管理○×血圧や体調の観察○△(簡易な見守りのみ)排泄・入浴の介助△(医療的理由がある場合)○食事の準備・配膳×○リハビリ支援○×認知症ケア○(医療的側面)○(生活支援側面)このように、訪問看護=医療中心、訪問介護=生活支援中心という明確な棲み分けがあります。4. 利用シーンの違い利用者の状態適切なサービス退院直後で医療処置が必要訪問看護高齢で一人暮らし、生活が不安訪問介護末期がんで在宅療養中訪問看護+訪問介護の併用医療と生活の両面から支援が必要なケースでは、両方のサービスを併用することが多くあります。ケアマネジャーと相談しながら、最適な組み合わせを考えることが大切です。5. 費用負担や制度の違い訪問看護:医療保険または介護保険(要支援・要介護認定者)訪問介護:基本的に介護保険(要介護認定が必要)どちらのサービスも保険が適用されるため、自己負担は一部に抑えられます。ただし、利用時間や回数、内容によっては追加料金がかかることもあります。まとめ:どう使い分けるべき?こんな時は…おすすめサービス医療処置が必要、退院直後訪問看護日常生活の介助がほしい訪問介護両方必要な場合両サービスの併用第4章:訪問看護を利用するには?訪問看護を利用したいと思っても、どこに相談すればよいのか、費用はどのくらいかかるのか、不安に感じる方も多いと思います。この章では、訪問看護の利用開始までの流れや保険制度のしくみ、対象者の条件について、わかりやすく説明します。1. 利用開始までの流れ訪問看護の利用には、いくつかのステップがあります。以下のような流れで進むのが一般的です。ステップ1:主治医またはケアマネジャーに相談すでに医療機関にかかっている場合は、主治医に相談しましょう。介護保険を利用している方は、ケアマネジャーに相談するのがスムーズです。ステップ2:訪問看護指示書の発行(医師の役割)訪問看護を始めるには、医師が発行する「訪問看護指示書」が必要です。この書類がないと、看護師は訪問して医療行為を行うことができません。ステップ3:訪問看護ステーションの選定地域の訪問看護ステーションを選びます。ケアマネジャーが紹介してくれることも多いです。ステーションによっては24時間対応やリハビリ専門の看護師がいる場合もあります。ステップ4:初回訪問・契約・サービス開始初回訪問時に、看護師が状態を確認し、利用契約を交わします。サービス内容・頻度・時間帯などが話し合われ、その後本格的にスタートします。2. 保険制度と費用訪問看護には、医療保険または介護保険が適用されます。どちらが適用されるかは、利用者の状態によって異なります。【医療保険が適用される例】40歳未満の方要介護認定がなくても訪問看護が必要な方難病や末期がんなどで医療的管理が必要な場合→ 1~3割の自己負担(年齢や所得による)【介護保険が適用される例】65歳以上で要介護・要支援認定を受けている方40~64歳で特定疾病により介護保険が利用できる方→ 介護保険の支給限度額内で利用(超過分は自費)※同じ人でも状況に応じて医療保険と介護保険を切り替えることがあります。3. 利用できる人の具体例訪問看護を利用できる人は、以下のようなケースが想定されます。状況利用可否解説退院後、自宅で療養が必要な方○点滴、傷の処置など対応可高齢で日常的な健康管理が必要○介護保険で対応可能難病やがんで自宅での看取り希望○ターミナルケアに対応医師の診断が必要な方×診断は医師で対応が必要単に見守りだけ希望△看護が必要な場合は可能利用には「医療的ニーズ」があることが前提です。単なる生活支援や話し相手目的では利用できない点に注意が必要です。4. 利用時の注意点とアドバイスケアマネジャーとの連携が重要 訪問看護だけでなく、介護サービス全体を組み合わせるためにもケアマネとの相談が不可欠です。夜間・緊急対応の有無を確認する 24時間対応の訪問看護ステーションを選べば、万が一の時も安心です。自己負担分の金額を事前に把握する 定期的な訪問が必要になるため、費用は前もって確認しておきましょう。まとめ:まずは相談から始めよう訪問看護は、在宅で安心して療養生活を送るための心強い味方です。「これって訪問看護でお願いできるの?」と迷ったときは、まずは主治医やケアマネジャー、地域包括支援センターに相談するのが第一歩です。まとめ:訪問看護を正しく理解して、安心の在宅療養を訪問看護は、医療機関での入院に代わる「在宅での医療支援」として、多くの方にとって重要な選択肢となっています。高齢者や慢性疾患の患者さん、ターミナルケアを希望する方など、自宅で療養したいという希望に寄り添いながら、専門性の高い看護サービスを提供します。訪問看護で「できること」は…バイタルチェックや病状の観察点滴や医療処置、カテーテル管理服薬管理やリハビリ支援看取り・ターミナルケア精神的ケア、家族への支援医師・他職種との連携によるチームケアなど、医療的ニーズの高い利用者に対して幅広いサポートが可能です。一方で、「できないこと」もあります医師のような診断・処方掃除や買い物といった生活支援(訪問介護の範囲)24時間の付き添いや泊まり込み高度医療機器の操作美容やリラクゼーションなどの自由診療的なサービス訪問看護には明確な制度上の制限があるため、必要に応じて訪問介護などの他サービスと上手に組み合わせて利用することが大切です。サービスの利用には「医師の指示書」が必要訪問看護は、医師の指示のもとに提供される医療サービスです。利用には、主治医への相談訪問看護指示書の発行ケアマネジャーとの連携といった準備が必要です。費用についても、医療保険・介護保険の制度を活用すれば、自己負担を抑えて利用できます。最後に:不安なときこそ、専門職に相談を訪問看護を利用するかどうか迷っているときや、どのサービスが自分(家族)に合っているのかわからないときは、ケアマネジャー、医師、地域包括支援センターなどに相談してみましょう。正しい情報を得ることで、自宅でも安心して療養できる環境を整えることができます。