パーキンソン病は運動症状だけでなく、睡眠障害や精神症状などの非運動症状によって「寝てばかりいる」と家族に映ることが少なくありません。本記事では、その背景や改善のための工夫、医療機関の受診目安、町田市で利用できる在宅支援について解説します。患者と家族の両方に役立つ情報をまとめました。1. パーキンソン病とはどんな病気か日本における有病率・年代別の特徴地域・国有病率(人口10万人あたり)傾向日本約100〜180人、65歳以上は約1%高齢化に伴い増加欧米約100〜200人日本とほぼ同等発症年齢50歳代以降が多い若年発症は少数(40歳未満は2%前後)日本におけるパーキンソン病の推定有病率は人口10万人あたり100〜180人であり、65歳以上では約1%に達します(出典:厚生労働省・難病情報センター)。高齢化に伴い患者数は増加し、2020年の厚労省「患者調査」では約29万人と報告されています。発症は50〜70歳代が中心ですが、50歳未満の若年発症も5〜10%、40歳未満は2%前後とされています(出典:日本神経学会)。これらの背景を踏まえると、社会全体で疾患への理解と支援を深める必要があることがわかります。運動症状と非運動症状の二面性分類主な症状日常生活への影響運動症状振戦、筋固縮、動作緩慢、姿勢反射障害歩行障害、転倒リスク増加非運動症状睡眠障害、便秘、嗅覚障害、認知症、精神症状疲労、過眠、介護負担増大パーキンソン病は「手が震える」「歩きにくい」といった運動症状に注目が集まりやすい一方で、睡眠障害、便秘、嗅覚障害、精神症状などの非運動症状も大きな負担となります。特に睡眠障害は、患者本人の疲労だけでなく、家族が「寝てばかりいる」と誤解する要因にもなります。非運動症状は病気の進行に伴い目立つこともあり、医師との相談やケアが欠かせません。社会的理解が不足しているため、正しい知識を持つことが生活支援の第一歩となります。パーキンソン病における日常生活の困難さ領域困難の内容睡眠夜眠れず、昼寝てばかりになる活動外出や趣味の継続が難しい介護家族が「怠けている」と誤解することも日常生活においては「眠りすぎ」「活動不足」といった誤解を招きやすいのがパーキンソン病の特徴です。睡眠の乱れや活動性の低下は、単なる老化や怠けではなく病気の症状によるものです。患者が自分の意思とは関係なく長時間眠ってしまうこともあり、本人もつらさを感じています。家族が適切に理解し、医療者と協力することで生活の質を守ることが可能になります。2. 「寝てばかりいる」と感じる背景日中の過度な眠気(EDS)の実態項目内容頻度患者の約30〜40%に出現原因睡眠の質低下、薬剤の副作用、病変そのもの影響転倒リスク、事故、家族の不安EDS(日中過度の眠気)は患者の3〜4割に見られる代表的な非運動症状です。夜間に眠れないことで昼間に眠気が集中するだけでなく、薬剤の副作用や神経変性そのものも関係しています。強い眠気は転倒事故や運転時の危険につながり、家族に「寝てばかりいる」という印象を与えやすい要因です。EDSは本人の生活の質を著しく下げるため、医師に相談し治療や環境調整を行うことが重要です。睡眠の分断:夜間覚醒と昼間過眠夜間の問題日中の影響頻尿・筋固縮日中に眠気が強まるレム睡眠行動障害熟睡感が得られない睡眠時無呼吸症候群(OSA)昼間の居眠り増加夜間に頻尿や筋固縮で覚醒が繰り返されると、深い睡眠が得られず日中に強い眠気を感じます。レム睡眠行動障害やOSAが重なると、さらに睡眠が分断され、生活リズムが乱れます。その結果、昼夜逆転の生活となり、家族には「昼間ばかり眠っている」と誤解されやすくなります。このような症状は医療的な評価が必要であり、適切な介入によって改善する可能性があります。家族が感じる「怠けているのでは?」という誤解観点家族の受け止め患者の実態日中の居眠り意欲がない夜眠れず疲労が蓄積家事・外出手を抜いている筋固縮や疲労で困難会話無関心に見える眠気や集中力低下患者が日中に眠っている姿は、周囲には「怠けている」と映りがちです。しかし実際には、夜間の不眠や薬剤の副作用、筋肉の固縮などによる疲労が原因となっていることがほとんどです。この誤解が続くと患者の自尊心が損なわれ、うつ症状が悪化する可能性もあります。家族が病気の特性を理解することで、支援の方法が変わり、患者との関係性も改善されます。3. 睡眠障害の種類と特徴レム睡眠行動障害(RBD)特徴内容発生夢を体で表現、大声や暴れる行動リスク転倒・骨折、家族への危険頻度患者の20〜50%に合併RBDは、睡眠中に夢を体で表現してしまう障害で、暴れる・叫ぶ・ベッドから落ちるなどの行動が特徴です。パーキンソン病患者の20〜50%に合併するとされ、時には診断前に出現することもあります。放置すると転倒や骨折など重大な事故につながり、患者本人だけでなく同居家族にも危険が及びます。医療者による評価や生活環境の安全対策(ベッド柵や床の片付けなど)が必須です。むずむず脚症候群(RLS)と周期性四肢運動障害症状内容RLS足のむずむず感、動かしたい衝動PLMS睡眠中に周期的に足が動く頻度パーキンソン病患者の14〜20%RLSは就寝時に足に不快感が生じて眠れなくなる障害で、周期性四肢運動障害(PLMS)は睡眠中に無意識で足が動く症状です。パーキンソン病患者の14〜20%に合併するとされ、夜間の覚醒を増やす原因になります。これらの障害は日中の過度な眠気を悪化させ、活動量の低下にもつながります。薬物療法や生活習慣の見直しで改善する場合があるため、早めの相談が勧められます。睡眠時無呼吸症候群(OSA)症状内容特徴いびき、呼吸停止、日中の強い眠気検査ポリソムノグラフィー治療CPAP/PAP療法が標準OSAは睡眠中に呼吸が繰り返し止まる病気で、高齢者や神経疾患の患者に多く見られます。パーキンソン病患者でも合併することがあり、眠気や集中力低下を引き起こします。診断にはポリソムノグラフィーが必要で、治療にはCPAPが有効です。適切に治療すれば、睡眠の質改善だけでなく心血管リスクの低減にもつながります。4. 薬の副作用と治療調整ドパミン作動薬とレボドパによる眠気薬剤特徴主な副作用注意点レボドパ標準治療薬稀に眠気・睡眠発作症状出現時は主治医へドパミン作動薬若年患者に使用強い眠気・突発的睡眠・幻覚運転禁止パーキンソン病治療の中心となるレボドパやドパミン作動薬は、症状改善に大きく寄与する一方で、副作用として眠気や突発的な睡眠発作を引き起こすことがあります。特にドパミン作動薬では、日中の活動中に突然眠ってしまう「突発的睡眠」が報告されており、運転や機械操作を伴う作業には重大なリスクがあります。また、薬剤によっては幻覚や妄想など精神症状を悪化させる可能性もあるため、生活全般に影響を及ぼす点が特徴です。眠気や睡眠発作がある間の運転は控え、必ず主治医の許可が出るまで再開しないようにしましょう。症状が現れた場合には、自己判断で服薬を中止するのではなく、必ず主治医に相談し調整を受けることが重要です。5. 生活習慣と睡眠環境の工夫睡眠衛生の基本項目工夫例環境部屋を暗く静かに、快適な温度規則正しい生活毎日同じ時間に起床・就寝刺激の制限就寝前のカフェイン・スマホを控える睡眠環境を整えることは、パーキンソン病患者の睡眠障害改善に直結します。就寝前にカフェインやアルコールを避ける、部屋の温度や明るさを調整する、スマートフォンやテレビなどの強い光刺激を控えるなどが基本的な工夫です。また、毎日同じ時間に寝起きすることで体内時計が安定し、夜間の入眠がスムーズになります。小さな工夫の積み重ねが睡眠の質を大きく改善する可能性があり、薬に頼らない自然なアプローチとして有効です。昼寝と活動リズム推奨内容時間帯午後3時まで時間20〜30分程度注意点長すぎる昼寝は夜間不眠の原因日中の眠気を解消するために昼寝を取り入れることは有効ですが、時間や方法を工夫する必要があります。午後の早い時間に20〜30分程度の短い昼寝を行うと、夜の睡眠を妨げることなく日中の集中力を回復できます。逆に長時間の昼寝は夜間の不眠を悪化させる恐れがあり、生活リズム全体を乱す可能性があるため注意が必要です。昼寝の工夫はEDS(過度の眠気)の改善にも有効であり、リハビリや社会活動とのバランスを取りながら導入することが望ましいです。6. リハビリと運動療法運動療法が睡眠に与える効果種類効果注意点有酸素運動睡眠の質改善が期待できる転倒予防を徹底ストレッチ筋緊張の緩和、入眠促進軽度に行うバランス訓練姿勢安定、転倒予防支えを活用運動療法は、パーキンソン病の運動機能維持に欠かせないだけでなく、睡眠の質改善が期待できると報告されています。有酸素運動は日中の活動量を増やし、夜間の熟睡感を高める効果があるとされます。ストレッチや柔軟運動は筋肉の固縮を和らげ、寝付きやすさを改善することが可能です。さらに、バランス訓練を取り入れることで転倒予防につながり、日常生活の自立度も高まります。ただし、無理な運動は逆効果になる場合があるため、専門職による指導を受けながら安全に実施することが大切です。7. 認知症・精神症状との関連認知機能低下と眠気項目内容頻度患者の20〜40%に合併影響集中力低下により居眠り増加パーキンソン病の進行に伴い、20〜40%の患者に認知症が合併するとされます。認知症は記憶力や集中力の低下を引き起こし、活動意欲の低下や昼夜逆転の原因となります。結果として「寝てばかりいる」と周囲に見られる状況が増え、家族が誤解しやすくなります。さらに認知症が進行すると、睡眠リズムが崩れ、夜間の徘徊や日中の過眠が目立つこともあります。こうした症状は家族の介護負担を増加させるため、早期からの医師相談と支援体制づくりが重要です。うつ・不安との関係症状睡眠への影響うつ活動意欲低下、過眠が増える不安入眠困難、夜間覚醒うつ病や不安障害はパーキンソン病患者に高頻度で合併し、睡眠障害を悪化させます。うつは活動意欲を低下させ、長時間横になって過ごす要因になります。不安は夜間の入眠困難や覚醒を増やし、日中の眠気をさらに強めます。これらの精神症状は病気自体や薬剤の副作用が関与している場合もあり、専門的な治療が必要です。精神科との連携やカウンセリングにより、睡眠と生活の質を改善することができます。幻覚・妄想と睡眠障害項目内容原因ドパミン作動薬、進行期の認知症症状夜間の幻覚、不眠、昼間の疲労対策薬剤調整、精神科的サポート進行期パーキンソン病や薬剤の副作用により、幻覚や妄想が出現することがあります。夜間に強く表れると不眠を招き、翌日の過度な眠気や疲労感の原因となります。患者本人だけでなく家族にとっても精神的な負担が大きく、介護の継続が困難になることもあります。主治医の判断による薬剤調整や、精神科医との連携による支援が欠かせません。安全で安心できる生活のためには、早期の対応が望まれます。8. 医療機関への受診の目安睡眠障害が強いとき状況推奨される対応突発的な眠気すぐに主治医へ相談夜間の転倒・暴れる行動睡眠専門医や神経内科を受診突発的な眠気や夜間の転倒リスクを伴う行動は、重大な事故につながる危険があります。これらの症状が出た場合は早急に受診し、薬の調整や専門的な治療を受ける必要があります。安全確保のためには、家族の早めの気づきと行動が欠かせません。精神症状を伴うとき症状推奨対応幻覚や妄想精神科や専門医へ相談うつ症状薬物療法やカウンセリング幻覚や妄想、うつなどの精神症状が出現した場合も受診が必要です。放置すると生活リズムが乱れ、患者本人だけでなく家族の負担も大きくなります。適切な治療を受けることで、安定した生活を取り戻せます。家族が支えきれないと感じるとき状況推奨対応介護疲れ在宅医療・訪問看護の導入生活全般の困難ケアマネジャーへ相談介護負担が大きく、家族が「支えきれない」と感じることは自然なことです。その場合は訪問看護や在宅医療の導入が推奨されます。ケアマネジャーと連携することで適切なサービスを利用でき、患者と家族双方の生活の質が守られます。9. 在宅支援と地域資源訪問看護の役割サービス内容訪問看護病状管理、服薬管理、睡眠状況の確認訪問リハ運動機能維持、日中活動のサポート訪問看護は、医師の指示に基づいて自宅で医療的なサポートを提供します。服薬管理や睡眠のモニタリングに加え、訪問リハビリを通じて活動量を維持する支援も可能です。専門職が定期的に関与することで、病状の悪化を防ぎ、安心して生活できる環境を整えることができます。デイサービスと生活リズムサービス期待できる効果デイサービス日中活動を促進、孤立感の軽減通所リハ運動療法、社会参加の機会デイサービスや通所リハビリは、日中の活動性を高め、夜間の睡眠リズムを改善する効果があります。また、社会的交流の機会を得ることで孤立を防ぎ、精神的な安定につながります。これにより家族の介護負担も軽減されます。家族支援とレスパイトケアサービス内容レスパイト入院介護者の休養を目的とした短期入院家族教室病気理解と介護技術の習得家族に対する支援も欠かせません。レスパイト入院は介護者が休養を取るために短期的に利用できる仕組みで、家族の心身の健康を守ります。また、家族教室では病気に関する正しい知識を学び、介護技術を習得することができます。家族の支援体制を強化することが、患者を支える力となります。10. 町田市在住の方にピース訪問看護ステーションのご案内ピース訪問看護ステーションの特徴特徴内容専門性神経疾患に強いスタッフチーム体制看護師とリハビリが連携サポート服薬・睡眠管理、生活支援町田市のピース訪問看護ステーションは、神経疾患の患者支援に強みを持つ専門スタッフが在籍しています。看護師とリハビリスタッフが連携し、服薬や睡眠状態の管理、生活全般のサポートを提供します。地域に根差した専門性により、安心して在宅生活を継続するための支援が可能です。ご利用の流れステップ内容相談電話・Webフォームで受付訪問看護師が評価に訪問プラン作成医師・ケアマネと連携初めて訪問看護を利用する方でも、相談から支援開始まで丁寧にサポートします。医師やケアマネジャーとの連携により、患者一人ひとりに合わせた支援プランが作成されるため安心です。町田市在住の方へ町田市および近隣の方は、ぜひピース訪問看護ステーションにご相談ください。専門性の高い在宅支援で、患者と家族の生活を支えます。11. まとめパーキンソン病における「寝てばかりいる」状態は、睡眠障害、薬の副作用、認知症や精神症状など複数の要因が関係しています。生活習慣の工夫や運動療法、医療機関の適切な受診、在宅支援の活用により改善が可能です。町田市および近隣にお住まいの方は、ピース訪問看護ステーションにご相談ください。専門スタッフによる包括的なサポートが、安心できる在宅生活を実現します。実現します。関連記事パーキンソン病とパーキンソン症候群の違いを徹底解説、症状・診断・治療・生活支援までパーキンソン病の原因を徹底解説、遺伝・環境・生活習慣との関係パーキンソン病のヤール分類とは?重症度の目安と在宅ケア・リハビリとの関係パーキンソン病のウェアリングオフ現象とは?症状と対応策を解説パーキンソン病リハビリ徹底ガイド、訪問看護と在宅支援で生活機能を守る最新実践参考文献一覧厚生労働省「患者調査 2020」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/index.html難病情報センター「パーキンソン病」https://www.nanbyou.or.jp/entry/169日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/AASM(American Academy of Sleep Medicine)Clinical Practice Guidelineshttps://aasm.org/clinical-resources/practice-standards/practice-guidelines/厚生労働省「訪問看護の利用対象」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000661085.pdfHögl B, Stefani A, Videnovic A. "Idiopathic REM sleep behaviour disorder and neurodegeneration — an update." Nature Reviews Neurology. 2018;14(1):40-55.Trenkwalder C, Allen R, Högl B, Paulus W, Winkelmann J. "Restless legs syndrome associated with major diseases: A systematic review and new concept." Neurology. 2016;86(14):1336-1343.Arnulf I. "Excessive daytime sleepiness in parkinsonism." Sleep Medicine Reviews. 2005;9(3):185-200.American Academy of Sleep Medicine. "Clinical Guideline for the Evaluation, Management and Long-term Care of Obstructive Sleep Apnea in Adults." J Clin Sleep Med. 2009;5(3):263–276.本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。