高齢者や生活習慣病予備軍にとって、「むくみ」は気になりやすい身体のサインのひとつです。そして、その原因の一つとして見落とされがちなのが「塩分の摂りすぎ」です。本記事では、「塩分」と「むくみ」の関係をわかりやすく解説し、日々の生活で実践できる予防法をご紹介します。1. むくみとは?むくみとは、体内の余分な水分が細胞の外側にたまり、皮膚の下に水が溜まった状態を指します。特に高齢者は血液循環や腎機能が低下していることが多く、むくみやすくなります。むくみは一時的なものから慢性的なものまで様々で、立ち仕事の多い人や運動不足の人にもよく見られます。朝よりも夕方に症状が強く出る傾向があり、これは重力によって体液が下半身にたまりやすくなるためです。また、心臓や腎臓の疾患が隠れている場合もあるため、軽視はできません。むくみの主な症状症状説明足の腫れ特に夕方になると足首やふくらはぎが膨らむ指のむくみ指輪がきつくなるなどの変化体重増加数日で1~2kg増えることも出典:厚生労働省「慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル(腎疾患重症化予防実践事業)」2. 塩分とむくみの関係塩分(ナトリウム)は水分を体内に保持する性質があります。そのため、塩分を摂りすぎると、身体が塩分濃度を薄めようとして水分をため込み、むくみにつながります。体内の塩分濃度を一定に保つために、腎臓はナトリウムとともに水分の排出を調整します。しかし、塩分摂取量が多すぎるとその調整機能が追いつかなくなり、水分が体内に溜まることになります。特に腎臓機能が低下している高齢者では、むくみの発生リスクが高まります。メカニズムの簡単な解説要素内容塩分の摂取加工食品・漬物・外食に多く含まれる血中ナトリウム濃度上昇体が濃度を一定に保とうとする水分保持腎臓が水分の排出を抑えるむくみ水分が細胞外に滞留する出典:WHO「Sodium reduction」3. 高齢者がむくみやすい理由高齢者は以下のような理由で塩分の影響を受けやすく、むくみが生じやすくなります。腎機能の低下:ナトリウム排出力の低下により、塩分の影響を受けやすくなります。運動量の低下:血液やリンパの流れが悪くなり、末端に水分がたまりやすくなります。薬の影響:降圧剤や糖尿病治療薬の中には、水分バランスに影響を与えるものがあります。加えて、栄養バランスの偏りや脱水症状もむくみを悪化させる要因です。例えば、タンパク質の不足は血液中の浸透圧を低下させ、水分が血管外に漏れやすくなります。出典:厚生労働省「高齢者の健康支援の手引き」4. 生活習慣病との関連性高血圧や糖尿病、心不全などの生活習慣病は、むくみと深い関係があります。むくみはこれらの病気の症状のひとつとして現れることがあり、早期の気づきが大切です。特に心不全では、心臓のポンプ機能が低下するため血液の循環が滞り、水分が下肢などに溜まってむくみを生じます。糖尿病による腎機能障害も同様に、塩分・水分代謝が悪くなる原因となります。薬物治療を行っている方は、医師と相談しながら食事管理や塩分摂取の見直しを行うことが大切です。関連疾患とむくみの関係疾患むくみとの関係高血圧血管が固くなり、血流が滞る心不全心臓のポンプ機能が低下し、血液が戻りにくい腎不全水分・塩分をうまく排出できない出典:厚生労働省「高血圧の基礎知識」5. 食生活での注意点減塩を意識することが、むくみ予防の第一歩です。日本人の平均塩分摂取量は1日あたり約10gとされており、これはWHOが推奨する5g未満という基準を大きく上回っています。特に高齢者の場合、味覚の変化によって濃い味を好む傾向が強まるため、知らず知らずのうちに塩分摂取量が増えてしまうことがあります。減塩のポイントは「意識的な選択」と「代替調味料の活用」です。だしや香辛料、酢などの酸味を活かすことで、塩分を減らしても満足感のある味付けが可能です。出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」6. 塩分を減らす工夫減塩は難しくありません。身近な習慣の見直しで、無理なく減塩生活が可能です。方法具体例調味料を変える減塩醤油、ポン酢、レモン汁などの使用香辛料を活用胡椒や生姜、にんにくで風味アップ減塩食品を選ぶコンビニでも手に入る減塩商品を活用また、食品表示を確認する習慣をつけることも大切です。「ナトリウム」や「食塩相当量」の項目をチェックし、1食あたりの塩分量を把握することが減塩の第一歩になります。飲み物にも注意が必要で、スポーツドリンクや清涼飲料水にもナトリウムが含まれている場合があります。出典:キッコーマン「適塩生活のススメ」7. むくみを改善する生活習慣以下の生活習慣も、むくみ改善に効果的です。適度な運動:ウォーキングやストレッチなど、日常に取り入れやすい軽い運動を継続することで、血流とリンパの流れを改善します。足を高くして寝る:クッションや枕を使って足を心臓より高く保つことで、下肢に滞った水分を戻しやすくなります。十分な水分補給:脱水を避け、代謝を促すためにも、こまめな水分補給が必要です。水分を摂ることで、かえって体内の水分バランスが整いやすくなります。これらの生活習慣を取り入れることで、むくみだけでなく、全身の健康維持にもつながります。体調に合わせて無理のない範囲で続けることがポイントです。出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」むくみが慢性的に続く場合や、生活習慣病を抱えていて自己管理が難しい場合には、訪問看護の活用が有効です。訪問看護では、看護師が自宅を訪問し、症状の観察・記録、食事や運動のアドバイス、服薬管理、必要に応じた医師への報告などを行います。訪問看護で受けられる主なサービスサービス内容説明健康チェック血圧測定や体重測定、むくみの程度確認など生活指導減塩食のアドバイスや運動方法の提案服薬管理薬の整理、飲み忘れ防止の工夫医療連携主治医への報告や必要な医療機関紹介特に高齢者の場合、**定期的な健康チェックと生活指導を受けることで、むくみの悪化を防ぎ、早期発見につなげることができます。**また、ご家族への介護方法の指導やサポートも行われるため、在宅での安心感が高まります。利用の流れステップ内容1. 主治医に相談訪問看護が必要かどうかを相談2. ケアプラン作成医師の指示書に基づき訪問内容を決定3. 訪問開始看護師が定期的に訪問しケアを実施訪問看護は医療保険や介護保険で利用でき、主治医の指示に基づいて計画的に提供されます。むくみが気になる方や生活習慣病の管理に不安がある方は、地域の訪問看護ステーションに相談してみるとよいでしょう。出典:厚生労働省「訪問看護について」まとめむくみは一過性のものから重大な病気のサインまで、幅広い原因が隠れている可能性があります。特に高齢者や生活習慣病のリスクがある方は、日頃の食生活や運動習慣を見直すことが重要です。塩分の摂りすぎはむくみの大きな要因であり、意識的に減塩を心がけることが健康維持への第一歩です。ご自分やご家族にむくみの症状が見られた際には、自己判断で済ませず、必要に応じて医療機関や専門職に相談することをおすすめします。お身体に気になるむくみが続く方や食事の見直しをご希望の方は、ぜひピース訪問看護ステーションにご相談ください。関連記事高齢者の食欲不振に潜むリスクとその対策法高齢者の熱中症対策完全ガイド、予防・症状・室内での注意点まで高齢者の水分摂取量ガイド:健康維持のために必要な知識と実践法を紹介本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。