「モルヒネと聞いて、家族で顔を見合わせてしまいました」。がんの痛みの相談で、ご家族からこう打ち明けられることがあります。薬の名前を聞いた瞬間に、余命や中毒という言葉が頭をよぎる。そのためらいは、決して珍しいものではありません。けれど、痛みを我慢して過ごした時間は戻ってきません。がんの痛みは在宅でも緩和できますし、医療用麻薬への不安の多くは、公的機関の資料が否定している誤解です。この記事では、依存症の心配、量が増えることの意味、レスキュー薬の使い方、家族が主治医や訪問看護師に何を伝えればよいのかを、町田市・相模原市で訪問看護を提供する立場から整理します。この記事でわかることがんの痛みを在宅でも和らげられる理由と、我慢することで失われるもの医療用麻薬(オピオイド)が効く仕組みと、末期に限らず使える理由依存症・中毒・寿命に関する不安に公的資料がどう答えているか薬の量が増えることの意味と、増量・減量が決まる流れレスキュー薬を使うタイミングと、副作用への備え方痛みの伝え方、服薬記録の付け方、すぐ連絡すべきサイン在宅でもがんの痛みはしっかり和らげられる理由在宅でもがんの痛みは緩和でき、病院で始めた鎮痛薬は原則としてそのまま自宅で続けられるため、医療用麻薬への不安から我慢して過ごす必要はありません。痛みを我慢していると日常生活に響くだけでなく体力を消耗し、がんの治療に耐えられなくなることもある。国立がん研究センターの資料は、そう説明しています。十分な量の鎮痛薬を適切に使うことが治療を続ける助けになるとも案内されています(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「痛み」)。痛みを我慢したときに失われるもの痛みの我慢は体力と生活の質を削るだけで、治療上の得はありません。我慢を続けると起きること痛みを抑えると戻るもの夜間に何度も目が覚めるまとまった睡眠動くのが怖くて寝て過ごす食卓やトイレまで歩く力食欲が落ちて体重が減る食事の量と体力治療の副作用に耐えられない治療を続ける余力痛みは本来、体を守る警報です。ところが、がんの痛みは原因が取り除かれるまで鳴り続け、鳴らしても状況は良くなりません。眠れない夜が続けば活動量が落ちて筋力も落ち、家で過ごせる範囲は狭まっていきます。「薬に頼りたくない」という気持ちは尊重されるべきものです。ただ、その選択で何が失われるのかを一度書き出してみてください。がんの終末期を自宅で過ごす全体像は癌末期の安心自宅ケアとは?訪問看護の現場から解説でも扱っています。病院で使っていた薬は自宅でも同じように続けられます医療用麻薬には複数の剤形があり、飲み込む力や生活に合わせて在宅でも選べます。剤形在宅での使われ方飲み薬(徐放製剤)決まった時刻に定期的に飲む飲み薬(速放製剤・内服液)痛みが出たときのレスキュー薬貼り薬1日または3日ごとに貼り替える坐薬飲み込みにくいときの定期薬やレスキュー薬注射(持続皮下注・持続静注)内服が難しくなった段階で使う通常の投与間隔は、モルヒネの飲み薬なら速放製剤が4時間ごと、徐放製剤が12時間または24時間ごと。厚生労働省のガイダンスにそう示されています(出典:厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス」)。在宅では、訪問診療の医師が処方し、保険薬局が自宅へ届け、訪問看護師が効き方と副作用を確認します。錠剤が飲みにくくなれば貼り薬や坐薬へ、それも難しくなれば注射へと形を変えられます。この役割分担は【町田市の在宅医療】訪問診療と訪問看護の連携とは?でも整理しています。在宅療養の要点として同じガイダンスが挙げるのが、夜間休日の緊急対応体制を準備し、連絡できる窓口を明確にしておくことです。町田・相模原の訪問現場で聞く「痛みを言えない」理由痛みを申告できない背景には、医学的な理由より遠慮や思い込みがある印象です。訪問先でよく聞く言葉お伝えしていること「先生が忙しそうで言えなかった」痛みの報告は診療に必要な情報です「これくらいは我慢しないと」我慢の程度は評価の材料になりません「薬を増やすと弱く見える」量と病状の重さは別のものです「家族が心配するから黙っていた」黙っているほうが家族は不安になります相模原市で在宅のがん療養に伺うと、痛みを訴えないご本人と、痛そうに見えると感じるご家族が、同じ部屋で別々に我慢している場面に出会います。この行き違いが数週間続き、訪問時にそれぞれ別に話を聞いて初めてほどけたご家庭もありました。間に入るときに使うのは「昨夜は何時に目が覚めましたか」「その痛みは0から10でいくつでしたか」という答えやすい質問です。痛みの申告は弱音ではなく、薬の量を決めるためのデータです。がんの痛みが起こる仕組みと医療用麻薬(オピオイド)の役割がんの痛みは腫瘍以外に治療や生活動作からも生じ、医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)は中等度から強い痛みを抑える中心的な薬です。がん疼痛があるのは、がんの診断時で20から50パーセント、進行がんの患者全体では70から80パーセント。厚生労働省のガイダンスはそう示しています。痛みがある方の8割は身体の2か所以上に痛みがあり、6割は原因が複数だとも記されています(出典:厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス」)。がんの痛みは4種類に分かれますがんの痛みは腫瘍が直接の原因になるものだけでなく、治療や療養生活に伴うものも含まれます。分類具体例がん自体が直接の原因となる痛み腫瘍の浸潤・増大・転移による痛みがん治療に伴って生じる痛み術後の痛み、抗がん剤による神経の痛みがんに関連した痛み長期の臥床による腰痛、リンパ浮腫、褥瘡併発したがんに関連しない疾患の痛み変形性脊椎症、片頭痛などこの分類も同じガイダンスによります。痛みが強くなったからといって、がんが進んだとは限りません。痛みはがん以外の原因でも起こるため、必ずしもがんの進行とは関係しない。国立がん研究センターの資料にも、そう明記されています(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「痛み」)。在宅では「先週から腰が痛い」という訴えの原因が、寝ている時間が延びたことによる腰痛だった場面もあります。持続痛と突出痛、2つのパターンがありますがんの痛みには一日中続く持続痛と、一時的に強くなる突出痛があり、使う薬が分かれます。種類定義対応する薬持続痛24時間のうち12時間以上経験される平均的な痛み定時に飲む徐放製剤など突出痛一過性に起こる痛み、または痛みの増強レスキュー薬(速放製剤など)この定義と役割分担も厚生労働省のガイダンスによります。同ガイダンスには、突出痛はがん患者の約70パーセントにみられ、進行がんで発生頻度が高くなると記載されています。家庭の中では、持続痛は「ずっと重い感じ」、突出痛は「体を起こした瞬間にズキンとくる」という形で現れます。定時薬で土台を作り、レスキュー薬で山を削るという考え方です。順番も決まっていて、まず持続痛を抑えたうえで残る突出痛に対処します。土台が不十分なまま頓服だけで乗り切ろうとすると、レスキュー薬を手放せなくなります。鎮痛薬は痛みの強さに応じて段階的に選びます鎮痛薬は病期ではなく痛みの強さで選ばれ、医療用麻薬は末期の方だけの薬ではありません。段階主に使う薬第1段階非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)第2段階軽度から中等度の痛みに用いるオピオイド鎮痛薬第3段階中等度から高度の痛みに用いるオピオイド鎮痛薬これはWHO方式3段階鎮痛ラダーと呼ばれる考え方で、厚生労働省のガイダンスにも図として掲載されています。同方式では70から90パーセントの患者で効果的に痛みの軽減が得られると記されています。特に強調したいのが、オピオイド鎮痛薬を開始する時期は痛みの軽減にその薬が必要な時期であって、がんの進行度や生命予後で決めるものではないという一文です。医療用麻薬は最後の手段ではなく、痛みの強さに見合った薬です。なお日本国内では、日本緩和医療学会が2020年7月に「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」(第3版)を発行しており、在宅の主治医もこうした指針に沿って処方を組み立てています(出典:日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」、日本緩和医療学会のガイドライン一覧)。「依存症・中毒になるのでは」という不安への答えがんの痛みに対して医師の指示どおりに使う限り、医療用麻薬で依存症になる心配はほとんどないと公的機関の資料が示しています。医療用麻薬の成分は、痛みがある状態で使うと痛みにのみ働き、精神や身体の依存はほとんど問題にならない。国立がん研究センターの資料はそう説明したうえで、医師の指示に従って正しく使えば依存症の心配はないと記しています(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「痛み」)。医療用麻薬と違法薬物は目的も使い方も違います同じ「麻薬」という言葉でも、医療用麻薬と違法薬物では目的も入手経路も働き方も異なります。比べる点医療用麻薬違法薬物としての麻薬目的痛みを抑えて生活を保つ快感を得る使う相手痛みのある患者痛みのない人入手医師の処方と薬局の交付違法な取引量の決め方痛みに合わせて医師が調整制限がない厚生労働省のガイダンスは、通常、がん疼痛患者においてオピオイド鎮痛薬による精神依存が生じることはないと記しています。早期から開始することが麻薬中毒の原因になることはないとも明記されています(出典:厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス」)。一方で、処方された医療用麻薬を家族や友人に譲り渡すことは、医学的に危険なうえ麻薬及び向精神薬取締法に違反すると同ガイダンスは注意を促しています。痛そうだからと自分の薬をあげることは認められません。保管と残薬の扱いには決まりがあります医療用麻薬は自宅でも保管の決まりがあり、守ることが安心につながります。場面家庭での扱い保管場所小児やペットの手が届かない場所に置く他人への譲渡絶対にしない誤って他人が服用速やかに医師・看護師・薬剤師へ連絡使用済みの貼り薬家庭のごみ箱に入れず回収用の袋にまとめる残った薬処方元の医療機関または調剤薬局へ返却いずれも厚生労働省のガイダンスに、自宅における患者・家族による管理として示されています。特に使用済みの貼り薬は成分が残るため、小児やペットが口に含まないよう注意が必要です。在宅では、飲み残しが引き出しにたまっているのをときどき見かけます。飲み方や剤形が変わったときに残薬が出やすく、訪問時に確認する習慣をつけると安全です。置き場所は家族で1か所に決めておきましょう。「寿命が縮む」という心配について医療用麻薬を使うと寿命が縮むという理由で、痛み止めを控える必要はありません。よくある心配公的資料から言えること使い始めたら余命が短い開始時期は進行度や生命予後で決めるものではない早く使うと中毒になる早期の開始が麻薬中毒の原因になることはない一度使ったらやめられない痛みが軽減すれば減量や中止も可能我慢したほうが体にやさしい我慢は体力を消耗させ治療の継続を難しくする表の右側はいずれも、厚生労働省のガイダンスと国立がん研究センターの資料にある内容です。がん治療や神経ブロック、放射線治療などで痛みが軽減した場合には、減量や中止も可能。同ガイダンスはそう述べています。始めたら増え続ける一方通行の薬ではありません。在宅で実感するのは、痛みが取れた翌週にご本人の表情と会話量が変わることです。庭に出た、孫と電話をした、食事を居間でとれた。痛みを抱えたままでは起こりにくい変化です。医療用麻薬を増やすことは深刻化のサインではない、増量の考え方医療用麻薬の量が増えても、必要量には大きな個人差があるため、それだけで病状が深刻になったとは判断できません。オピオイド鎮痛薬の投与量は、腫瘍の大きさや転移部位、病期などによって決めることはできない。厚生労働省のガイダンスはそう明記し、必要量は症例ごとの差が大きいため効果を見ながら増量するとしています(出典:厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス」)。必要量は病期ではなく体質と痛みで決まります同じ進行度でも必要な量は人によって違うため、量の多い少ないを他人と比べる意味はありません。誤解実際量が多い=がんが進んでいる量は病期では決まらない少ない量で済む人ほど軽症必要量には大きな個人差がある量が増えたら効かなくなった痛みに量を合わせている途中薬の代謝の速さ、痛みの性質、体格、腎臓や肝臓の働き。この違いで、同じ痛みでも必要な量は変わります。同ガイダンスには、モルヒネで1日120ミリグラム以上、オキシコドンで80ミリグラム以上を要する場合があると記されています。数字だけ見ると多く感じますが、必要量に幅があること自体が想定されています。ご家族から「知り合いはもっと少ない量だった」と聞くことがあります。見るべきは他人の処方箋ではなく、ご本人が夜眠れているか、食卓まで歩けているかという生活の状態です。増量は痛みに量を合わせる調整作業です増量は病状の悪化に合わせた処置ではなく、その人に合う量を探す調整の一部です。状況次に行われる調整持続痛が残っている前日のレスキュー使用量を定時薬に上乗せする持続痛が続く前日の定時薬を20から50パーセント増量する突出痛が1日2、3回以下になったその量を維持する副作用が強い別のオピオイドへ変更を検討するこの調整はタイトレーションと呼ばれます。厚生労働省のガイダンスでは、持続痛がなく突出痛が1日2、3回以下となるまで徐放性製剤を増量すると示されています。増量には目的地があり、際限なく増やすものではありません。在宅では、この調整が数日から1、2週間かけて進みます。訪問看護師が痛みの強さとレスキュー薬の使用回数を確認して医師へ報告し、処方が変わる。この往復が滑らかなほど、痛みは早く落ち着きます。ご家族には「増えた」ではなく「合ってきた」と受け取ってほしいと伝えています。痛みが強くなったときの対応は末期がんが急に悪化する理由と対応策、在宅でできる支援とはでも解説しています。量が変わらない時期も、減らせる時期もあります医療用麻薬は増える一方の薬ではなく、同じ量が長く続くことも減量に至ることもあります。場面起こること痛みが十分に抑えられている同じ量で数週間から数か月以上効果が続くことがある放射線治療で痛みが軽くなった減量や中止を検討する副作用が生活を妨げている別の薬へ切り替える十分な鎮痛が得られている患者では、同じ量の鎮痛薬で数週間から数か月以上にわたり効果が持続されることがある。厚生労働省のガイダンスはそう述べています。在宅で痛みが安定すると、処方はしばらく動かなくなります。その期間に訪問看護師が見ているのは、痛みの数字だけでなく便通や眠気、食事量といった生活の指標です。食事が細くなってきたときの考え方は終末期に食べられない時、点滴や胃ろうの判断と自然な経過で扱っています。レスキュー薬(頓服薬)の正しい使い方レスキュー薬は、痛みが出たときや痛みが強くなりそうなときに、ためらわず早めに使う薬です。頓服薬は急に痛みが出てきたときや痛みが強くなりそうなときに我慢せず早めに使う。国立がん研究センターの資料はそう案内し、それで痛みが強くなるのを防げると説明しています(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「痛み」)。定時薬とレスキュー薬は役割が違います定時薬は痛みの土台を抑える薬、レスキュー薬はそこから飛び出す痛みを抑える薬です。比べる点定時薬レスキュー薬目的持続痛を抑える突出痛を抑えるタイミング時刻を決めて規則正しく痛いとき、痛くなりそうなとき主な剤形徐放製剤、貼り薬速放製剤、内服液、坐薬1回量の目安医師が決めた定時量徐放製剤1日量(内服換算)の6分の1厚生労働省のガイダンスは、レスキュー薬の1回量を徐放性製剤の1日量の6分の1を目安に設定すると示しています。ここでいう1日量は内服量に換算した値なので、貼り薬を使っている方は換算表をもとに医師が量を決めます。成分は定時に用いている徐放性製剤と同じものを用い、フェンタニル貼付剤の場合は速放性のモルヒネまたはオキシコドン製剤が使われます。つまりレスキュー薬は別枠の薬ではなく、定時薬と同じ成分を効きの速い形にしたものです。処方を受けるときは、1回に何錠まで、1日に何回まで使えるかを必ず確認してください。同ガイダンスは、患者や家族が不安を感じずに過ごせる数量を処方すると述べています。使うタイミングと効き方の確かめ方レスキュー薬は痛みの山が来る前に使うのが基本で、効き方は時計で確認します。場面使い方動くと痛むと分かっている入浴や通院の前に使う急に痛みが出てきたその場で我慢せず使う痛みが強くなりそうな気配強くなる前に使う使ったが効かない1時間後に効き方を確かめる。追加の可否は事前に医師へ聞いておく内服の速放性製剤は投与後30分から1時間後に効果が最大となるため、1時間後に効果を確認する。厚生労働省のガイダンスにはそう書かれています。同ガイダンスはさらに、内服なら30分ほどで効果が現れるが、60分しても改善が得られない場合には同じ量を追加できることをあらかじめ伝えておく、と示しています。追加してよいか、どれだけ間隔をあけるかは薬によって違います。処方時に主治医へ確認しておいてください。在宅では、入浴やおむつ交換、通院といった決まった動作の前に使う予防的な使い方が役に立ちます。町田市内で訪問しているご家庭では、訪問入浴の30分前にレスキュー薬を使い、入浴中の痛みを避けられるようになった例がありました。痛みが出てから飲むより、出ると分かっている動作の前に飲むほうが、少ない回数で済むこともあります。それでも回数が増えるなら、定時薬の見直し時期です。同ガイダンスは、1日に4回以上使う場合は定期投与量の増量が必要なこともあるため、担当の医師・看護師・薬剤師に相談するよう示しています。1日4回以上使う日が続いたら、使った回数を隠さずに伝えてください。副作用(便秘・吐き気・眠気)への備え医療用麻薬の主な副作用は便秘・吐き気・眠気で、いずれもあらかじめ対策を立てておけます。副作用経過対処便秘使用中は続きやすい開始時から予防的に下剤を併用する吐き気多くは1、2週間で落ち着く吐き気止めを処方してもらう眠気多くは1週間ほどで落ち着く経過を見て医師へ報告する便秘になったら早めに医師・看護師・薬剤師に伝えて下剤を処方してもらうこと。水分や食物繊維を十分にとり、腹部をマッサージするのもよいこと。国立がん研究センターの資料はそう紹介しています。吐き気は多くの場合1、2週間ほどで、眠気は1週間ほどで落ち着くとも記されています。厚生労働省のガイダンスも、投与開始時から対策を要する主な副作用として悪心と便秘を挙げ、便秘には緩下剤の継続的な併用や腹部マッサージ、温熱による方法を考慮すると示しています。在宅で最も生活に響くのは便秘です。吐き気や眠気は落ち着くことが多い一方、便秘は薬を使っている間ずっと付き合います。排便の回数と便の硬さを記録して訪問看護師に見せ、自己判断で薬を減らす前に相談を挟みましょう。レスキュー薬の使いどきや副作用の相談は、訪問看護でも受けています。判断に迷ったらお問い合わせからご相談ください。家族が主治医・訪問看護師に伝えるべきこと痛みは本人にしか分からないため、いつ・どこが・どのくらい痛むのかを言葉と数字で伝えることが、薬の調整の出発点になります。国立がん研究センターの資料は「痛みは本人にしか分かりません」と述べ、我慢せずに担当の医師・看護師・薬剤師に伝えることが大切だと繰り返し案内しています(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「痛み」)。痛みの伝え方には型があります伝える項目をあらかじめ決めておくと、短い診察時間でも必要な情報が渡せます。伝える項目具体例いつから3日前の夜からどこが右の腰から太ももにかけてどのくらい0から10で言うと7どんなとき寝返りを打つときと立ち上がるときどう対処したか頓服を飲んだら30分ほどで4に下がった生活への支障痛みで夜中に2回目が覚める同資料が紹介しているのが、痛みが全くない状態を0、これ以上考えられないほどつらい痛みを10として数字で伝えるヌーメリカル・レイティング・スケール(NRS)です。鈍い、ズキズキする、電気が走るようなビリビリするといった表現例も添えられています。ビリビリするという表現から神経の痛みが疑われ、使う薬が変わることもあります。数字と言葉に加えて、生活への支障も必ず添えてください。療養の準備全般は末期癌の在宅看取りで後悔しないために、訪問看護・リハビリと準備のすべてでも扱っています。服薬記録をつけると調整が早くなります服薬記録は、痛みの治療状況を医師と共有するための最も確実な材料です。記録する項目書き方の例定時薬を飲んだ時刻8時、20時レスキュー薬を使った時刻14時、23時そのときの痛みの強さ使う前7、1時間後3副作用排便2日なし、日中うとうとする生活の様子食事は半分、居間まで歩けた服薬記録表の使用は服薬の管理や副作用への対応に有用で、訪問診療や訪問看護の際に確認することは痛みの治療状況の把握に役立つ。厚生労働省のガイダンスはそう述べています。記録には定時薬とレスキュー薬の内服時間、副作用、痛みの程度、食欲などを記載してもらうとされています。記憶に頼った報告ほど当てになりません。「だいたい3回くらい」と「14時と19時と23時」では、医師が読み取れる情報量が違います。きれいなノートである必要はなく、カレンダーの余白でも薬袋の裏でもかまいません。すぐに連絡したほうがよいサインいつもと違う痛みや、強い眠気を伴う変化があるときは、次の受診日を待たずに連絡してください。サインどう考えるかこれまでと違う痛みが出た原因の評価が必要鎮痛薬を使っても効かない処方の見直しが必要痛みが急に強くなったその日のうちに相談呼びかけても目を開けないすぐに医師・看護師へ連絡息の回数が明らかに少ない同上国立がん研究センターの資料は、これまでと違う痛みを感じる、鎮痛薬を使っても効かない、痛みが強くなったときは担当の医師に相談するよう案内しています。眠気については、呼びかけても目を開けないなど反応しない場合は周りの人がすぐに医師や看護師へ連絡するようにと明記されています。厚生労働省のガイダンスは、麻薬の過量状態の観察指標として、瞳孔がピンホール状に縮小すること、声がけや刺激で覚醒しにくい傾眠、安静時の呼吸数が1分間に10回未満になることを挙げています。同じ表には、通常の安静時の呼吸数は1分間に15から16回以上と添えたうえで、その方の安静時や睡眠時の呼吸数をふだんから観察して比較対照にするよう書かれています。数値そのものより、いつもと比べて明らかに少ないかどうかが手がかりです。一方で、レスキュー薬を使った後は血中濃度が急に上がるため一過性の眠気が出ることがある、と同ガイダンスは記しています。同じ表の脚注には、オピオイドの投与中は睡眠時の呼吸数が1分間に8回程度に低下する場合があり、声がけなどの刺激で覚醒して呼吸数が回復するなら臨床上問題となる可能性は少ないと添えられています。レスキュー薬のあとにうとうとしていても、声をかけて目を開け、呼吸が戻るなら過度に心配は要りません。刺激しても目を開けないときが連絡のサインです。同ガイダンスは、緊急の連絡先として、かかりつけ医、かかりつけ薬剤師、訪問看護ステーション、介護支援専門員を明らかにしておくことも求めています。連絡先を冷蔵庫に貼るご家庭が多く、実際に役立っています。よくある質問(FAQ)Q. 医療用麻薬を使うと依存症や中毒になりますか。A. 医師の指示どおりに使う限り、心配はほとんどありません。国立がん研究センターの資料は、医療用麻薬の成分は痛みがある状態で使うと痛みにのみ働き、精神や身体の依存はほとんど問題にならないと説明しています。厚生労働省のガイダンスも同じ内容を明記しています。Q. 医療用麻薬は末期がんの人しか使えないのですか。A. そうではありません。厚生労働省のガイダンスは、オピオイド鎮痛薬を開始する時期は痛みの軽減にその薬が必要な時期であって、がんの進行度や生命予後で決めるものではないと記しています。中等度以上の痛みがあれば選択肢になります。Q. 医療用麻薬を増やすと病状が深刻という意味ですか。A. 量と病状の重さは対応しません。厚生労働省のガイダンスは、投与量は腫瘍の大きさや転移部位、病期では決められないと述べています。増量は痛みに量を合わせる調整の途中で、持続痛がなく突出痛が1日2、3回以下になるまで続きます。Q. 医療用麻薬を使うと寿命が縮まりますか。A. 寿命を理由に痛み止めを控える必要はありません。がん治療や放射線治療で痛みが軽くなれば減量や中止も可能と公的資料にあります。むしろ我慢が体力を消耗させます。Q. レスキュー薬(頓服薬)とはどう使えばいいですか。A. 急に痛みが出たとき、また痛みが強くなりそうなときに我慢せず早めに使ってください。厚生労働省のガイダンスでは1回量を徐放製剤の1日量(内服換算)の6分の1が目安とし、定時薬と同じ成分の効きの速い薬を使うとされます。内服では30分から1時間後に効果が最大になるため、1時間後に効き方を確認します。Q. 医療用麻薬の副作用(便秘・吐き気・眠気)にはどう対処しますか。A. 便秘は開始時から予防的に下剤を併用し、水分と食物繊維、腹部マッサージを組み合わせます。国立がん研究センターの資料では、吐き気は多くの場合1、2週間、眠気は1週間ほどで落ち着くとされ、つらい時期は吐き気止めで乗り切ります。自己判断で減らす前に相談してください。Q. 医療用麻薬と違法薬物の麻薬は何が違うのですか。A. 目的と使う相手が違います。医療用麻薬は痛みのある人に医師の処方で使われ、痛みにのみ働きます。快感を得るために痛みのない人が使う違法薬物とは働き方が異なります。処方された薬を家族や友人に譲り渡すことは麻薬及び向精神薬取締法違反です。Q. 在宅でがんの痛みをどう医師や訪問看護師に伝えればいいですか。A. いつから、どこが、0から10でどのくらい、どんなときに痛むのか、対処した結果はどうだったのかを組にして伝えてください。眠れない、歩けないといった生活への支障も添えます。服薬記録があると調整はさらに早く進みます。まとめがんの痛みは在宅でも和らげられ、我慢することで得られるものはありません。医療用麻薬への不安の中心にある依存症・中毒・寿命の心配は、公的機関の資料がいずれも否定しています。薬の量が増えるのは病状が深刻になった証拠ではなく、その人に合う量を探している途中の出来事です。まず何から始めるか迷ったら、今夜の痛みを0から10の数字にして、時刻とあわせて書き留めてください。その1枚があれば、次の診察や訪問で薬の調整が動き出します。レスキュー薬は痛みが強くなる前に使い、便秘への対策は初めから同時に始めましょう。ピース訪問看護ステーションにご相談くださいこんな方はぜひご相談ください:医療用麻薬を勧められたものの、依存症や寿命への不安から使い始められずにいる方レスキュー薬の使いどきが分からず、痛みが強くなってから飲む生活が続いている方ご本人が痛みを訴えないため、どこまで我慢しているのか分からずにいるご家族ピース訪問看護ステーションができること:痛みの強さと生活への支障を一緒に整理し、主治医へ伝わる形にして届けますレスキュー薬を使うタイミングや服薬記録の付け方を、生活の場面に沿ってお伝えします便秘や眠気などの副作用を継続して確認し、変化があれば主治医や薬局へつなぎます町田市・相模原市・多摩市など東京都南部を中心に対応しています。まずはお気軽にお問い合わせください。関連記事【町田市の在宅医療】訪問診療と訪問看護の連携とは?終末期に食べられない時、点滴や胃ろうの判断と自然な経過看取り期でも自宅で過ごせる?町田市の訪問看護ができること癌末期の安心自宅ケアとは?訪問看護の現場から解説末期がんが急に悪化する理由と対応策、在宅でできる支援とは参考文献一覧出典:厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス」https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/other/iryo_tekisei_guide.html2.出典:国立がん研究センター がん情報サービス「痛み」https://ganjoho.jp/public/support/condition/pain/index.html3.出典:日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」(日本医療機能評価機構)https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00584/4.出典:日本緩和医療学会「ガイドライン」https://www.jspm.ne.jp/publication/guidelines/index.html【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理、地域医療連携、在宅看取り支援に積極的に取り組んでいる。island-piece.jp 株式会社isLand|訪問看護・居宅介護支援・訪問介護|町田市