パーキンソン病の方に多い症状のひとつに、「足が前に出ない」「床に足が貼り付いたように動けない」と感じるすくみ足があります。ほんの数秒間のことでも、転倒や外出への不安につながり、生活の範囲を大きく制限してしまいます。しかし、薬の調整やリハビリ、住環境の工夫によって改善が見込める場合もあります。この記事では、現場での訪問看護や訪問リハビリの経験を交えながら、すくみ足の原因や対処法、日常で取り入れられる工夫をわかりやすく解説します。町田市にある「ピース訪問看護ステーション」の取り組みも紹介し、地域で安心して暮らせるためのヒントをまとめました。1. すくみ足とはどんな症状?項目内容どんな症状?足が前に出なくなり、その場で立ちすくむような歩行障害よく起こる場面歩き始め、方向転換、狭い通路や段差の手前継続時間数秒〜十数秒ほど影響転倒しやすくなる、外出が怖くなる、生活範囲が狭まるすくみ足は、パーキンソン病の中期以降に多く見られる症状です。患者さんからは「玄関の段差で立ち止まってしまう」「トイレに入ると急に足が止まる」といった声がよく聞かれます。実際には「転びそうになって怖い」と不安が積み重なり、外出や活動を避けるきっかけにもなってしまうのです。2. すくみ足が出やすい場面ときっかけ場面具体例工夫のヒント歩き出し座ってから立って、最初の一歩を出すとき声をかけてリズムを作る、床にテープで目印をつける方向転換台所やトイレで方向を変えるとき大きく回る、歩数を数える狭い場所玄関やドアの敷居、エレベーター視線を前方へ、一歩ずつ意識二つの作業を同時にするとき歩きながら会話、荷物を持ついったん止まってから再開薬の効き目が切れたとき服薬の効果が薄れてきた時間帯服薬時間を工夫し、主治医に相談「ここで止まりやすい」というパターンを知っておくと、本人も家族も予防の工夫をしやすくなります。3. 薬の効き目とすくみ足薬の調整でできること項目ポイント主な薬レボドパ、ドパミン作動薬注意点効き目が出る時間と切れる時間がある工夫食事や活動のタイミングに合わせて調整注意薬向精神薬や一部の吐き気止めは悪化させることもあるパーキンソン病の症状は薬の効き目に左右されやすく、動きやすい「オンの時間」と動きにくい「オフの時間」があります。外出や練習は「オンの時間」に合わせると効果的です。受診の目安状況気をつけたいサイン転倒転ぶ・つまずきそうになることが増えた薬の効き目薬を飲んでも動ける時間が短くなった新しい薬飲み始めてから歩きづらくなったこうした変化を感じたら、「そろそろ薬の調整が必要かもしれない」と考え、主治医や訪問看護師に早めに相談することが大切です。4. 家でできるリハビリの工夫方法やり方ポイント音を使うメトロノームや「1・2」の掛け声テンポに合わせると歩きやすい目印を使う床にテープを貼って「またぐ」ように歩く足を出すきっかけになる声を出す「右・左」と声に出す注意を歩行に集中できる立ち上がり練習「立つ→一呼吸→一歩出す」に分ける最初の一歩が出やすい数字で細かく決める必要はなく、「いつもより少し大きめの歩幅」「少し速めのテンポ」を意識する程度で構いません。自分に合うやり方を見つけることが一番のポイントです。5. 自宅環境を整える工夫場所リスク対策玄関段差でつまずくスロープやテープで目印廊下や角曲がるときに止まる手すりを続けて設置、広めに曲がるトイレ狭くて焦るL字の手すり、脱ぎ着しやすい服居間散らかった物通路を広げる、コード類を整理夜間暗くて不安足元ライトやセンサーライトちょっとした環境の工夫が転倒を防ぎます。特に「片付け」と「照明」はコストもかからず効果が大きい対策です。6. 家族にできるサポート短く具体的に声をかける:「ここをまたいで」「1・2で歩こう」歩くときは歩くに集中:話しかけや用事は止まってから予定は薬の効き目が良い時間に合わせる「頑張って!」よりも「右足から出してみよう」のような具体的な声かけが効果的です。焦らせず、安心できる環境を作ることが大切です。7. 訪問看護での支援ステップごとの取り組み週目標看護・リハの内容家族の協力1状況を把握症状日誌をつける、歩き方を観察家具配置を見直す2工夫を試すメトロノームやテープを使った練習テープを貼る、照明を増やす3外出に挑戦玄関や狭い場所で練習靴の工夫、手すりの検討4定着させる成果を測り、改善点を共有スケジュールの工夫訪問看護やリハビリでは、無理に難しい課題を与えるのではなく、「できた!」という体験を少しずつ積み重ねることを大事にしています。ピース訪問看護ステーションのご案内(町田市在住の方へ)スタッフ(2025年9月時点)人数特徴看護師9名医療的ケアや症状観察、夜間対応も可能リハビリスタッフ13名理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が在籍ケアマネジャー6名医療と介護をつなぐ役割を担当特徴夜間の急な体調不良や転倒にも対応リハビリ専門職が多く、在宅生活に合った支援が受けられるケアマネジャーとの連携で、医療・介護・リハをまとめてサポートパーキンソン病の支援経験が豊富町田市や周辺で訪問看護・リハビリをお探しの方は、ピース訪問看護ステーション へぜひご相談ください。8. 症状が悪化しやすい要因体調の変化:熱、便秘、脱水で動きにくくなる薬の影響:一部の薬は症状を悪化させることがある生活リズム:睡眠不足や夜間の頻尿も負担になる「最近動きが悪いな」と思ったら、体調や生活習慣も見直してみましょう。10. フレイル(心身の衰え)を防ぐ工夫流れ起こること防ぐ工夫活動が減る筋力が落ちる家でできる簡単な運動筋力が落ちる外出が不安になる手すりをつける、家族と一緒に出かける外出が減る気分が落ち込む近所を短時間歩く意欲が下がるフレイルや介護が必要になる家族や訪問看護と一緒に工夫する大事なのは「できることを小さく続ける」こと。 1日数分でも習慣にすると、負の連鎖を防げます。まとめすくみ足は薬だけでなく、環境・体調・生活の工夫で大きく変わります。音や目印を使った工夫薬の効き目に合わせた予定づくり家族の声かけや支え住環境の改善これらを少しずつ積み重ねることが、安心して暮らす第一歩です。ご不安や「具体的にどんな練習をしたらいいか」については、ピース訪問看護ステーション にお気軽にご相談ください。関連記事パーキンソン病のウェアリングオフ現象とは?症状と対応策を解説パーキンソン病リハビリ徹底ガイド、訪問看護と在宅支援で生活機能を守る最新実践パーキンソン病の症状と訪問看護の役割、在宅療養を支えるプロの視点パーキンソン病の初期症状を見逃さないために—在宅生活を支える訪問看護の実践ガイドパーキンソン病と暮らす町田市の方へ、治療と訪問看護で実現する在宅生活を紹介参考文献一覧厚生労働省「006 パーキンソン病(概要・症状・経過)」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089954.pdf日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018:薬物療法(薬剤性パーキンソニズム)」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_25.pdf日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018:すくみ足の治療(Q&A)」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018:リハビリテーション」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_19.pdf日本理学療法士協会「転倒を予防して いつまでも元気に」https://www.japanpt.or.jp/activity/asset/pdf/handbook18_whole_compressed.pdf世界保健機関(WHO)「Package of Interventions for Rehabilitation: Parkinson’s disease」https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/370394/9789240071155-eng.pdf国立長寿医療研究センター「HEPOP 在宅運動プログラム」https://www.ncgg.go.jp/hospital/guide/anywhere.html本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。