在宅療養を望む高齢者やがん終末期患者が増加する中、訪問看護の重要性は年々高まっています。なかでも「ターミナルケア加算」は、在宅で最期を迎える方への支援を評価する重要な仕組みです。しかし、算定要件や現場対応の実際が複雑なため、誤解や対応漏れも少なくありません。本記事では、制度の背景から実務でのポイントまでを体系的に解説します。1. ターミナルケア加算とは?制度の目的と導入背景ターミナルケア加算は、訪問看護において「ターミナル期」にある利用者への適切な看取り支援を行った場合に算定できる加算です。この加算は、終末期の利用者やその家族への精神的・身体的サポートを医療制度として評価し、在宅看取りの促進を目的としています。制度の背景厚生労働省は、病院中心の看取りから「住み慣れた自宅での看取り」へと政策転換を図っており、その一環としてターミナルケア加算が導入されました。特に、在宅医療の質の向上と訪問看護ステーションの経営支援の両面に資する制度です。区分内容制度名ターミナルケア加算(訪問看護)対象医師により「ターミナル期」と判断された利用者目的在宅での看取り支援の評価・促進適用期間死亡日およびその前14日以内注目ポイント: ターミナル期の明示は必須で、主治医の指示書に明記されている必要があります。2. 算定要件と対象期間の詳細ターミナルケア加算を算定するには、以下のような明確な要件を満たす必要があります。要件項目内容医師の指示主治医の訪問看護指示書に「ターミナル期」である旨の記載訪問日数死亡日またはその前14日以内に2日以上の訪問看護の実施(一部例外あり)書類整備看護記録、訪問記録、計画書、同意書などの記録が揃っていること家族対応同意取得や説明責任を含む包括的なケアの実施この加算は、1ヶ月に何度でも加算できるわけではなく、死亡月に1回のみの算定です。訪問ごとに加算される「訪問看護加算」とは性質が異なり、看取りに至った場合の特例的な評価として位置づけられます。3. ターミナルケア加算の点数と請求方法2024年度改定時点の点数は以下の通りです(※点数や条件は地域や制度改正により異なる場合があります)。制度区分報酬額(2024年度)備考介護保険(ターミナルケア加算)2,500単位/死亡月従来の2,000単位から増額医療保険(訪問看護ターミナルケア療養費1)25,000円自宅等で死亡時医療保険(同 療養費2)10,000円特養等で死亡、看取り介護加算がない場合これらの加算は通常の訪問看護療養費とは別に一括で1回限り請求します。具体的な算定日は、死亡日またはその直前に訪問があった日となる場合が多く、記録上の整合性が非常に重要です。**重要:**加算は遡及して請求できません。条件を満たすことを確認しつつ、リアルタイムで記録・確認を進めることが求められます。4. 現場でよくある課題とその対応策訪問看護の現場では、以下のような実務的な課題が発生しやすいです。課題1:急変時の迅速対応ターミナル期には症状の急変が頻発するため、24時間体制でのオンコール対応が欠かせません。看護師は迅速な判断と行動を求められる場面が多く、電話対応の記録も評価の対象になります。課題2:家族の理解と同意ターミナルケア加算を算定するには、家族の理解と同意も必要です。説明不足があると、クレームや算定トラブルにつながりかねません。事前のインフォームド・コンセントが重要です。課題3:記録の不備いくら適切なケアをしていても、記録に不備があれば加算は認められません。訪問記録や指示書の記載漏れがないよう、日常業務でのダブルチェック体制が有効です。5. 現場スタッフの工夫と成功事例訪問看護ステーションの中には、以下のような工夫でターミナルケア加算の算定精度を高めている事業所もあります。※これらの記録フォーマットは法定様式ではありませんが、加算算定の根拠資料として多くの訪問看護ステーションで活用されています。オンコール体制のマニュアル化看取り前2週間の観察記録表(例:ターミナル期観察用テンプレート)を用いて、症状変化・バイタル・家族対応の内容を毎回記録ターミナルケア専用の記録用紙(提供票)を活用し、訪問目的・実施内容・連絡調整状況・意思確認などを網羅的に記載できるように設計多職種連携ミーティングの定例開催(医師・ケアマネ・リハビリ職等)でケア方針と記録の整合性を確認これにより、ケアの質が向上し、利用者・家族の満足度とともに、加算の適正算定も実現しています。6. よくあるQ&AQ1. 毎回の訪問に加算されるの?A. いいえ。ターミナルケア加算は、死亡月に1回のみ算定です。訪問ごとではありません。Q2. 病院で亡くなったら算定できない?A. 原則、自宅での看取りが対象ですが、最終訪問から24時間以内に病院で死亡した場合など、一部例外的に算定が認められるケースもあります。Q3. 死亡日よりも前の訪問でも加算対象?A. はい、死亡日前14日以内に2日以上の訪問があれば対象になります。7. チェックリストで確認しよう(実務用)ターミナルケア加算の算定前に以下を確認しましょう:チェック項目状況主治医の指示書に「ターミナル期」と記載あり□死亡日前14日以内に2日以上訪問している□ご家族からの同意書がある□看護記録・訪問記録が整備されている□主治医との連携内容が記録されている□まとめターミナルケア加算は、訪問看護師が行う看取り支援を適切に評価する重要な制度です。算定の可否は制度理解と現場での丁寧な対応、記録整備にかかっています。ご利用者とご家族が「自宅で安心して最期を迎える」ために、制度の正確な運用が求められます。関連記事訪問看護における「同一建物減算」とは?仕組みと注意点をわかりやすく解説訪問看護の【初回加算】完全ガイド、算定要件・点数・注意点を徹底解説【2025年対応】訪問看護における退院時共同指導加算とは?算定要件や注意点を解説 ピース訪問看護ステーションのご案内自宅での療養や介護に、不安やお悩みはありませんか?ピース訪問看護ステーションでは、東京都町田市を中心に、医療依存度の高い方や在宅でのリハビリを希望される方への支援を幅広く行っています。24時間緊急対応が可能な体制を整えており、看護師・リハビリ職(PT・OT・ST)・ケアマネジャーが在籍。医療と介護の両面から、ご本人とご家族を多職種で支え、安心して在宅生活を続けられるようサポートしています。退院支援を担う医療機関の皆さま、地域のケアマネジャーの皆さま、訪問看護をご検討中のご本人・ご家族も、どうぞお気軽にご相談ください。新規のご依頼・ご質問は、お電話またはお問い合わせフォームより承っております。📞 鶴川本部 直通TEL:042-860-4404(平日9:00〜18:00)▶ お問い合わせフォームはこちら▶ 訪問看護・訪問リハビリのサービス詳細はこちら本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。