脳梗塞は「突然」起こる病気ですが、直前に“前兆”や一過性の神経症状(TIA)を示すことがあります。本記事は、脳梗塞の前兆症状をFASTで見抜く方法、起こった直後に家族が取るべき行動、在宅療養での再発予防までを訪問看護の現場視点でわかりやすく整理しました。医療・介護の専門用語は最小限にし、今日からできる実践ポイントとチェックリスト、**見逃しやすい“あるある”**もあわせて紹介します。1. 脳梗塞の「前兆」とは?—まず知っておくべき基本脳梗塞は脳の血管が詰まることで、脳細胞への血流と酸素が不足し、片側のしびれや言葉のもつれなどの神経症状が出ます。とくに一過性脳虚血発作(TIA)は、症状が短時間で消えても“警告”として極めて重要です。前兆は次のような“突然”始まる症状として現れます。片側の手足・顔の麻痺/しびれ(半身)ろれつが回らない、言葉が出ない、理解できない片側の視野が欠ける、二重に見える、急な視力低下ふらつき、歩けない、バランスがとれない経験のない強い頭痛(出血性で多いが鑑別が必要)重要:症状が数分〜1時間以内に消えても受診は必須。TIA後は早期に完成型の脳梗塞へ進行するリスクがあります。在宅・家族の“あるある”見逃し例「少し休んだら治ったから様子見」→再発・進行の危険。「日曜で病院が閉まっている」→#7119(地域の救急相談)や119へ。2. FASTで前兆を見抜く:家庭でできる一次評価救急の現場や家庭で使えるFASTは、脳卒中の疑いがあるかを手早く確認するシンプルな合言葉です。FASTはFace(顔)・Arm(腕)・Speech(ことば)・Time(時間)の頭文字で、どれか一つでも異常なら脳卒中を疑うのが基本です。表1|FASTチェック表(家族・介護者向け)項目確認方法よくある異常例家族がすぐできることF (Face) 顔「イーッ」と歯を見せる、笑顔片側の口角が下がる、左右差写真・動画で左右差を記録A (Arm) 両腕目を閉じ両腕を前に伸ばす片腕だけ下がる・力が入らない時刻をメモ、支えながら転倒予防S (Speech) ことば「今日は良い天気です」等を復唱ろれつ不良、言葉が出ない、理解できない短い文で問いかけ、返答を記録T (Time) 時間発症時刻の特定「いつから?」が不明になりがち発見時刻と最終正常確認時刻をメモポイント:FASTのいずれか一つでも該当すれば脳卒中疑い。119番要請を検討し、最後に正常であった時刻(Last Known Well)を救急隊・病院へ伝えましょう。表2|症状×想定される障害部位(早見表|一般向け)症状の中心よくある訴え想定部位(ざっくり)緊急度の目安片側の脱力・しびれ物を落とす/片脚がもつれる大脳半球(運動野・内包)高(FAST該当)言葉の異常ろれつ・理解・書字の異常左半球(言語優位半球)高視野の欠け・二重視片側が見えない/二重に見える後頭葉・視路/脳幹高激しい頭痛今までにない突発の痛みくも膜下出血など最優先で救急ふらつき力はあるのに歩けない小脳・脳幹高受診前チェック(家族用メモ)最終正常時刻/発見時刻(T)既往歴(脳卒中・心臓・糖尿病・脂質異常症)服薬(抗凝固薬・抗血小板・降圧薬)アレルギー/ワクチン直近歴連絡先(主治医・訪問看護)出典:日本脳卒中学会「脳卒中の予防・発症時の対応(ACT FAST)」PDF:https://www.jsts.gr.jp/common/asset/pdf/onset.pdf国立循環器病研究センター「脳卒中・脳血管の病気|こんなときどうする?」:https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/case/brain/消防庁「救急安心センター事業(#7119)ってナニ?」:https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/appropriate/appropriate007.html東京消防庁「東京消防庁救急相談センター」:https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/kyuu_adv/soudan-center.html3. 見逃しやすい前兆の詳説:症状別に理解する前兆は症状の組み合わせで出ることが多く、突然始まるのが特徴です。軽くても早期発見が鍵です。運動機能(片側の脱力/まひ)ペットボトルや箸を落とす、片足がもつれる。片側の手足に力が入らない/しびれ。言語(構音障害・失語)「言葉が出ない」「聞いて理解できない」「同じ語を繰り返す」。電話の会話で違和感を家族が先に気づくことも。視覚(視野欠損・複視・視力低下)片側の視野が欠ける、二重に見える、急な視力低下。感覚(しびれ・感覚鈍麻)片側の顔/手足のしびれ。体半分の温冷感が違う。バランス(ふらつき・歩行障害・めまい)力はあるのに立てない/歩けない、まっすぐ歩けない。頭痛(突然の激しい頭痛)とくに出血性で多いが、鑑別が必要。迷ったら救急へ。注意:心房細動がある人は心臓由来の血栓で心原性脳塞栓症を起こしやすく、突然の重い症状に。抗凝固薬の内服アドヒアランスは生命線です。4. 症状が出た直後の対応:受診・救急要請まで119番:FASTで一つでも異常、もしくは症状が進行・反復する場合。#7119(地域の救急相談):迷ったら相談。東京など一部地域は24時間対応。してはいけないこと:車での自己搬送(運転中悪化の危険)、様子見、就寝。家族の準備リスト発症時刻/最終正常時刻をメモ服薬手帳(抗凝固薬・降圧薬・糖尿病薬など)既往歴(脳卒中・心臓病・糖尿病・脂質異常症)アレルギー、主治医・訪問看護の連絡先重要:救急搬送時、血圧・血糖・酸素飽和度の測定は早期治療選択(tPA、血栓回収など)に関わります。家庭では安静保持と誤嚥予防を。5. TIA(一過性脳虚血発作)を正しく理解するTIAは「症状が短時間で消える」ため軽視されがちですが、再発(完成型脳梗塞)リスクが高い警告発作です。症状は突然始まり、多くは数分〜1時間で消失します。症状が消えても緊急受診し、原因検索と早期治療につなげましょう。表3|TIAと脳梗塞のちがい(家庭向け)項目TIA(前触れ)脳梗塞(完成型)症状の持続多くは数分〜1時間で消失(24時間以内)持続し悪化や後遺症が残りやすい画像所見MRIで急性変化なしのことも拡散強調MRIなどで虚血巣緊急度超緊急(その後48時間以内が危険)緊急(時間=脳細胞)再発・進行数日〜90日以内に発症リスク高い再発予防が重要(服薬・生活)受診先脳卒中診療体制のある救急/脳神経内科同左(救急要請)家族・在宅ケアのポイント症状が治っても必ず受診(“治った=安全”ではない)服薬アドヒアランスを点検(抗凝固薬・抗血小板薬)頸動脈狭窄や心房細動など原因別の治療に早く到達すること出典:国立循環器病研究センター「一過性脳虚血発作は、早期に完成型脳梗塞を発症する可能性が高い」:https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/scd/cvmedicine/tia-torikumi/Medical Note「脳梗塞の警告発作、一過性虚血発作(TIA)とは」:https://medicalnote.jp/diseases/%E4%B8%80%E9%81%8E%E6%80%A7%E8%84%B3%E8%99%9A%E8%A1%80%E7%99%BA%E4%BD%9C/contents/160120-037-MAメモ:症状が“治った”場合も受診し、**原因(頸動脈狭窄・心房細動・血栓)**に応じた治療開始が再発予防の要です。6. 脳梗塞の仕組みとタイプ:予防の視点で押さえる脳梗塞は大きくアテローム血栓性(太い動脈の動脈硬化)、ラクナ梗塞(細い穿通枝の閉塞)、心原性脳塞栓症(心臓の血栓が飛ぶ)の3タイプに分けられます。タイプごとに再発予防の重点が変わります。アテローム血栓性:高血圧・脂質異常症・喫煙・糖尿病などの生活習慣と関連。頸動脈プラークの安定化が鍵。ラクナ梗塞:高血圧による小血管病。微小出血の管理と塩分制限が重要。心原性脳塞栓症:心房細動や弁膜症が主因。抗凝固療法の継続が鍵。表4|タイプ別の再発予防フォーカスタイプ主因急性期後の主治療在宅での重点アテローム血栓性動脈硬化抗血小板 + 危険因子是正血圧・LDL管理、禁煙、減塩ラクナ梗塞小血管病抗血小板 + 血圧管理降圧の継続、塩分6g/日目安心原性脳塞栓心房細動抗凝固薬(DOAC/ワルファリン)内服忘れ防止、不整脈の観察出典:日本脳卒中学会(公式):https://www.jsts.gr.jp/日本脳卒中学会「脳卒中の予防・発症時の対応(ACT FAST)」PDF:https://www.jsts.gr.jp/common/asset/pdf/onset.pdf7. 危険因子と生活習慣:在宅でできる再発予防生活習慣の整え方は“難しくしない”がコツ。数値を意識しつつ毎日続けられる工夫を取り入れます。表5|主要な危険因子と“今日からの対策”危険因子目安/指標家庭での対策訪問看護の支援例高血圧目標:診察室で**<130/80mmHg**(<75歳)/<140/90mmHg(≥75歳)※個別化減塩(塩分相当6g/日目安)、規則正しい服薬血圧カレンダー、内服アドヒアランス確認糖尿病HbA1c目標は個別化食事の栄養バランス、低血糖予防、運動血糖測定の記録、フットケア助言脂質異常症LDL目標は個別化揚げ物・加工肉を控える検査結果の見える化、主治医へ報告喫煙受動喫煙含め禁煙禁煙外来、代替行動家族巻き込みの禁煙計画飲酒多量飲酒を避ける休肝日、ノンアル活用量の自己記録支援不整脈(心房細動)抗凝固療法の継続服薬忘れ対策(ピルケース・タイマー)有害事象の早期拾い上げ、主治医連携睡眠時無呼吸いびき・日中眠気受診・CPAP導入の支援機器装着の見守り脱水夏・入浴後・発熱時こまめな水分、とくに高齢者飲水量の声かけ、誤嚥に配慮実践メモ:続ける工夫減塩は「出汁・酸味・香辛料」で満足度UP/汁物は**“半分残す”**飲酒は1日平均純アルコール20g以下を目安/休肝日を作る喫煙は家族全員での環境整備が成功率を上げるストレスマネジメント:深呼吸・短時間の散歩・日記出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「脳血管障害(脳卒中)の危険因子」:https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-05-006.html日本高血圧学会 一般向け解説冊子(JSH2019):「一般的な治療目標 75歳未満<130/80mmHg、75歳以上<140/90mmHg」:https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_gen.pdf厚生労働省「健康日本21(第二次)」:節度ある適度な飲酒=1日平均純アルコール約20g程度の普及:https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.htmle-ヘルスネット「健康日本21(第二次)におけるアルコール対策」:https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-06-002.htmlコラム|定期健診・脳ドックの活用年1回の健康診断・検診で、血圧・血糖・脂質のコントロール状況を確認。頸動脈エコーやMRIを含む脳ドックは、リスクに応じて検討。早期発見に役立ちます。体重・腹囲のモニタリング、栄養バランスの見直しは家庭で継続可能。Tip:ストレス過多や不規則な生活は血圧・血糖を乱しやすい。睡眠の質にも目を向けましょう。8. 訪問看護ができること:前兆の観察から救急連携まで在宅療養中の方では、家族と訪問看護が“早期発見”の両輪です。現場で役立つ実務フローを共有します。10分でできる観察ルーチン(毎訪問)意識・見当識(今日の日付/場所)表情・顔面左右差、構音、嚥下上下肢の挙上・片脚立位(安全に)歩行・ふらつき、転倒痕血圧・脈拍(不整有無)、SpO₂、血糖(必要時)もし“前兆”に気づいたら(現場の一次対応)FASTで再確認、発症時刻を特定安静・誤嚥予防(座位保持、ベッド上で無理に歩かせない)119番または**#7119**へ。主治医・家族へ同時連絡服薬・既往・抗凝固薬の有無を救急隊に伝える“あるある”対策(家族教育)「次の訪問まで様子見」→その場で受診判断へ切り替え「日曜で病院に行きづらい」→救急外来・#7119を案内塩分の“隠れ摂取”(漬物・汁物)→減塩レシピと器具(軽量スプーン)テンプレ付録|家族・介護者の“連絡カード”氏名/生年月日/主治医・訪問看護連絡先既往歴(脳卒中・心臓・糖尿病など)服薬(抗凝固薬・抗血小板・降圧薬)アレルギー/意思表示(DNARなどの有無)発症時刻/最終正常時刻/FAST結果(F/A/S)出典:総務省消防庁「救急安心センター事業(#7119)」:https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/appropriate/appropriate007.html東京消防庁「東京消防庁救急相談センター」:https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/kyuu_adv/soudan-center.html日本脳卒中学会「脳卒中の予防・発症時の対応(ACT FAST)」PDF:https://www.jsts.gr.jp/common/asset/pdf/onset.pdf9. 検査と治療の流れ:病院で何をするの?画像検査:CTで出血の有無、MRIで虚血の範囲。早期で陰性でも臨床症状が優先されます。血液検査:血糖、凝固系、脂質など。急性期治療:静注tPA(適応と時間制限あり)、血栓回収療法、血圧・体温・血糖管理。再発予防:抗血小板薬/抗凝固薬、危険因子の是正(血圧・糖尿病・脂質・禁煙・節酒)。表6|CTとMRIの違い(急性期の考え方)項目CTMRI目的出血の有無を迅速に確認虚血範囲や早期変化の描出所要時間(目安)短時間やや長い(施設差)長所すばやい、広く利用可能虚血の早期検出に優れる注意早期虚血は映らないことも金属・閉所恐怖などで制限出典:国立循環器病研究センター「脳卒中|診察・検査・治療」:https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/10. Q&A:よくある疑問に短く答えますQ1. 症状が5分で消えました。受診は必要?A. **必要です。**TIAの可能性があり、48時間以内に本格的な脳梗塞を起こす例があります。迷わず受診。Q2. 片側のしびれだけでも脳梗塞?A. ほかの症状(言葉、視覚、バランス)と組み合わさることが多いですが、突然始まった片側症状は要注意。Q3. 予防にサプリは効きますか?A. 高血圧・糖尿病・喫煙・飲酒などの是正が最優先。サプリは補助に過ぎません。Q4. 在宅でできる簡単な運動は?A. 安全第一で、座位での足踏み・握力グーパー、短時間の散歩など。ふらつきがあれば中止し受診を。まとめ脳梗塞の前兆は突然起こる軽い症状として現れ、FASTで早期に見抜くことができます。症状がすぐ消えてもTIAの可能性があり、受診は必須。危険因子(高血圧・糖尿病・喫煙・飲酒・不整脈など)への対策と、家族+訪問看護の観察・連携が再発予防の鍵です。困ったら**#7119や119へ。東京都町田市でご自宅での管理や不安があれば、ピース訪問看護ステーション** にご相談ください。関連記事高齢者の転倒予防と対策:健康寿命を延ばすためにできること訪問リハビリで受けられる言語聴覚士(ST)の嚥下・失語支援とは?脳梗塞の訪問リハビリとは?自宅で行う効果的なリハビリ方法と注意点本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。