脳卒中は、日本人の死亡原因の第4位、要介護となる主な原因では第2位(第1位は認知症)といわれています。最大の危険因子は高血圧であり、食事や運動、薬の力で発症や再発を減らすことができます。ただし、年齢や家族歴、不整脈(心房細動)など、生活では変えられない要素も関わっています。この記事では、最新の医学的な知見と訪問看護の現場での工夫を交えて、「原因」と「危険因子」を整理し、一般の方にも分かりやすく脳卒中の予防と再発予防の方法を解説します。具体的な生活習慣改善のヒントやチェックリストも掲載しているので、日常生活に取り入れやすい内容になっています。1. 脳卒中の基礎知識:種類と仕組み脳卒中は大きく3種類に分けられます。脳梗塞は脳の血管が詰まる病気で、日本の脳卒中の約7割を占めます。脳出血は脳の血管が破れて出血するタイプで、主に高血圧が原因です。くも膜下出血は動脈瘤という血管のこぶが破れることで起こり、突然の激しい頭痛が特徴です。どのタイプも、発症してから数分で脳細胞が傷んでしまうため、FASTというチェック方法で早めに気づくことが大切です。表1|脳卒中の種類と背景種類直接の原因主な背景要因代表的な症状脳梗塞脳の血管が詰まる高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動、動脈硬化、喫煙片側の手足のしびれや麻痺、言葉が出にくい、一時的なめまいなど脳出血脳の血管が破れる高血圧、加齢、血管のもろさ突然の頭痛、吐き気、意識が薄れるくも膜下出血動脈瘤の破裂による出血喫煙、高血圧、家族歴、女性、妊娠・産後など激しい頭痛、嘔吐、意識障害出典:厚生労働省「脳血管障害・脳卒中」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-05-006.html出典:国立循環器病研究センター「脳卒中」https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/2. 「原因」と「危険因子」をどう分ける?脳卒中の「直接の原因」は、血管が詰まるか破れることです。一方で、高血圧や喫煙、糖尿病、不整脈(心房細動)などは危険因子であり、発症しやすくなる要素です。これらは大きく分けて、生活改善で減らせるもの(可変因子)と、年齢や遺伝など変えられないもの(不可変因子)に分かれます。生活習慣を整えることが最大の予防策です。出典:WHO「Stroke, Cerebrovascular accident」https://www.emro.who.int/health-topics/stroke-cerebrovascular-accident/index.html3. 主な医学的要因:高血圧・動脈硬化・心房細動など高血圧:最も大きな要因。血圧が高いほど心血管や脳血管のリスクは連続的に増えていきます。薬や生活改善で血圧を下げると再発率を30〜40%減らせることが報告されています。動脈硬化:糖尿病や脂質異常症、喫煙、肥満などが原因で血管にプラークができ、詰まりやすくなります。心房細動:不整脈の一つで、心臓の中に血のかたまりができ、それが脳に流れて詰まることがあります。薬での予防が必要です。アミロイド血管症:高齢者に多く見られ、脳の表面の血管がもろくなり出血を起こしやすくなります。出典:国立循環器病研究センター「脳卒中」https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/出典:厚生労働省「脳血管障害・脳卒中」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-05-006.html出典:WHO「Stroke, Cerebrovascular accident」https://www.emro.who.int/health-topics/stroke-cerebrovascular-accident/index.html4. 生活習慣と環境要因WHOは、高血圧と喫煙が最も重要な危険因子としています。日本人の平均食塩摂取量は近年でも約9.7〜9.8g/日と多く、目標(男性7.5g未満、女性6.5g未満)を上回っています。塩分を減らすことは最優先の対策です。飲酒も多すぎるとリスクが上がります。さらに、大気汚染、長時間労働、睡眠不足やストレスなど、生活環境が関わるリスクも注目されています。表2|生活習慣と対策リスク因子リスクの理由対策補足高血圧血圧上昇でリスク増減塩・薬家庭血圧は135/85未満を目標喫煙血管を傷める禁煙家族の受動喫煙対策も重要飲酒大量飲酒でリスク増節酒週に2日の休肝日運動不足肥満・動脈硬化に関与有酸素運動速歩30分×週5糖尿病・脂質異常血管を硬くする食事・運動+薬総合的な管理が必要大気汚染血管や心臓へ影響曝露を減らすマスクや経路変更出典:厚生労働省「脳血管障害・脳卒中」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-05-006.html出典:WHO「Stroke, Cerebrovascular accident」https://www.emro.who.int/health-topics/stroke-cerebrovascular-accident/index.html出典:WHO「Environmental risk factors and NCDs」https://www.who.int/teams/noncommunicable-diseases/integrated-support/environmental-risk-factors-and-ncds出典:厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39835.html5. 年齢・性別・家族歴と病気の影響加齢:年を重ねると誰でもリスクが上がります。高齢者でも予防は効果的です。家族歴:家族に脳卒中の人がいるとリスクが高くなります。女性特有の背景:妊娠や出産、更年期のホルモン変化、避妊薬の使用などが関わります。合併症:糖尿病や腎臓病、睡眠時無呼吸症候群があるとさらにリスクが増えます。出典:WHO「Stroke, Cerebrovascular accident」https://www.emro.who.int/health-topics/stroke-cerebrovascular-accident/index.html出典:国立循環器病研究センター「脳卒中」https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/6. 初期症状と注意すべききっかけ表3|FAST(脳卒中を疑うチェック)項目内容Face(顔)片側の顔がゆがむArm(腕)片方の腕が上がらないSpeech(ことば)言葉が出にくい、呂律が回らないTime(時間)一つでも当てはまれば救急要請脳卒中は突然発症することが多いですが、脱水や大量飲酒、寒さ、便秘でのいきみ、急な血圧の変化が引き金になることもあります。TIA(一過性脳虚血発作)は一時的に症状が出ても再発リスクが高いため、必ず病院での精査が必要です。出典:国立循環器病研究センター「脳卒中」https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「脳血管障害・脳卒中」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-05-004.html7. 家庭でできる予防の工夫減塩・禁煙・節酒・運動・定期受診に加えて、睡眠とストレス対策を含めた「7つの生活習慣改善」を提案します。表4|生活習慣とチェックポイント項目目標家庭での工夫ポイント減塩男<7.5g/女<6.5g栄養成分を確認薄味に慣れる工夫禁煙完全禁煙禁煙補助薬活用家族の協力が大切節酒20g/日以下酒量を決めておく休肝日を設ける運動速歩30分×週5歩数を記録継続が大切血圧家庭血圧 <135/85朝夕に測定家庭血圧は135/85mmHg以上で高血圧と定義睡眠6–7時間いびきや眠気を観察睡眠の質に注意ストレス負荷を減らす趣味や散歩気持ちの切り替え出典:厚生労働省「脳血管障害・脳卒中」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-05-006.html出典:国立循環器病研究センター「生活習慣改善で全国84万件の脳卒中を含む循環器病発症を予防」https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_48191/出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版) 高血圧章」https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf8. 再発予防と訪問看護の役割脳卒中の経験がある方は、再発予防がとても大切です。薬をきちんと飲み続けること、血圧や体重を日々確認すること、食事や運動を整えることが必要です。訪問看護は、薬の管理、体調チェック、栄養やリハビリの支援、再発のサインを家族と一緒に確認する役割を持っています。自宅で安心して生活するために、専門職が伴走します。出典:日本看護協会「訪問看護の必要性とその機能」https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/research/12-001.pdf9. 地域の取組:町田市の例町田市医師会では、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、心房細動、喫煙、大量飲酒を脳卒中の主なリスクとして住民に周知しています。地域の医師会と行政、訪問看護が連携し、健診や生活習慣指導から専門医紹介まで支援の仕組みを整えています。特に以下のようなサービスが提供されています。表5|町田市の地域連携サービスサービス内容リンク健康診査特定健診・がん検診などを市民向けに実施https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/iryo/kenkoushinsa/index.html特定保健指導生活習慣病予防のための個別支援https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/iryo/tokuteihoken/index.html禁煙外来支援市内医療機関の禁煙外来案内https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/iryo/kinen/index.html減塩教室市主催の健康づくり講座で減塩実践を学ぶ(※2025年度は開催されていません)https://www.call-center.jp/faq_machida/faq.asp?faqno=MAC02002出典:町田市医師会「脳卒中って何?」(2023年)https://www.machida.tokyo.med.or.jp/?page_id=10489出典:町田市公式サイト 健康・医療ページ(2023年)https://www.city.machida.tokyo.jp/出典:町田市コールセンター「健康づくり講座 減塩教室」(2025年)https://www.call-center.jp/faq_machida/faq.asp?faqno=MAC02002まとめ脳卒中は血管が詰まるか破れることで起こりますが、その背景には高血圧、喫煙、飲酒、運動不足、糖尿病や脂質異常、不整脈などがあります。生活習慣を改善することが最大の予防策です。再発を防ぐためには薬を続けることと訪問看護を含む地域の支援が欠かせません。不安や疑問がある方は、ピース訪問看護ステーション にご相談ください。関連記事コロナと酸素濃度の関係性とは?自宅療養で知っておくべきポイント経口補水液の正しい作り方と飲み方、脱水症・熱中症を防ぐ家庭の知恵介護保険で受けられるリハビリのすべて、種類・内容・利用の流れを解説参考文献一覧厚生労働省「脳血管障害・脳卒中」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-05-006.html国立循環器病研究センター「脳卒中」https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/WHO「Stroke, Cerebrovascular accident」https://www.emro.who.int/health-topics/stroke-cerebrovascular-accident/index.htmlWHO「Environmental risk factors and NCDs」https://www.who.int/teams/noncommunicable-diseases/integrated-support/environmental-risk-factors-and-ncds国立循環器病研究センター「生活習慣改善で全国84万件の脳卒中を含む循環器病発症を予防」https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_48191/厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39835.html厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版) 高血圧章」https://www.mhlw.go.jp/content/本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。