高次脳機能障害は、脳卒中や事故による頭のけがなどの後に表れることがある「目に見えにくい障害」です。記憶力や集中力、段取りを組む力、言葉の理解や使い方、気持ちのコントロールなどに影響します。「性格が変わった」「家事の流れがうまくできない」といった形で生活に支障をきたすことも少なくありません。この記事では、訪問看護や訪問リハビリの視点から、代表的な症状や家庭での工夫、利用できる支援制度について、わかりやすく解説します。1. 高次脳機能障害とは?高次脳機能障害とは、脳の病気やけがの後に「覚える」「集中する」「段取りを考える」「言葉を使う」「人と関わる」などの力が弱くなる状態です。見た目ではわかりにくいですが、生活には大きな影響を与えます。原因には、脳卒中や交通事故、脳炎、脳腫瘍などがあります。複数の症状が重なって出ることも多いため、「どこが苦手で、どこはできるか」を見極めることが大切です。前頭葉が傷つくと → 計画や我慢が苦手になる側頭葉が傷つくと → 記憶や言葉に影響が出やすい頭頂葉が傷つくと → 動作の手順や空間の把握に問題が出やすい家庭では「指示は短くシンプルに」「手順を見える形にする」ことが基本的な工夫になります。出典:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害を理解する」https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai2. よくみられる症状と家庭での困りごと大切なのは、症状名だけでなく“実際の困りごと”に合わせて考えることです。 以下は家庭でよく見られる症状と困りやすい場面の例です。注意障害(集中できない)特徴:同時に二つのことが苦手、家事の途中で別のことを始めてしまう。困ること:料理の火を消し忘れる、薬を飲み忘れる、外出中に危険に気づきにくい。工夫:テレビや会話を減らす、タイマーやメモを使う、作業は一つずつ行う。記憶障害(新しいことが覚えにくい)特徴:同じ質問を繰り返す、約束を忘れる。困ること:薬の管理、ゴミ出しの日を間違える。工夫:カレンダーやホワイトボード、スマホの通知を活用。書く場所は一か所に統一。遂行機能障害(段取りが苦手)特徴:順番を考えるのが難しい、やりかけで終わってしまう。困ること:料理や掃除、通院準備など。工夫:写真や絵で手順を示す、大きな作業は小さなステップに分ける。失語症(言葉が出にくい・理解しにくい)特徴:言いたい言葉が出てこない、相手の話がわかりにくい。困ること:薬の説明が理解できない、役所の手続きが難しい。工夫:短い言葉で話す、絵やジェスチャーを使う、Yes/Noで答えられる質問にする。失行・失認(やり方がわからない・見えているのに気づかない)特徴:歯ブラシの使い方がわからない、服の前後を間違える、左側を見落とす。困ること:着替え、料理、外出での事故。工夫:動作を一緒にやって見せる、道具の置き場所を決める、見やすいように色を工夫する。社会的行動障害(感情や行動のコントロールが難しい)特徴:怒りやすい、周囲への配慮が減る、こだわりが強くなる。困ること:家族との関係悪化、サービスの拒否、金銭トラブル。工夫:短時間でこまめに関わる、予定をあらかじめ伝える、気持ちを落ち着ける場所を作る。出典:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害を理解する」https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai3. 症状と困りごとの早見表家庭でよくある「あるある場面」と症状の対応をまとめました。訪問看護やリハビリの場面でも、こうした気づきを手がかりに支援を考えます。困りごと(家庭での具体例)可能性のある症状試せる工夫買い物に行っても必要な物を忘れる注意障害/遂行機能障害リストにチェック欄をつけ、店の順路に合わせて並べ替える洗濯機を回した後に干し忘れる記憶障害/注意障害タイマーをセットし、洗濯機に「終わりカード」を貼る外出すると左にぶつかる半側空間無視大事な物を右に置く、左側に目印テープを貼る料理中に火を消し忘れる遂行機能障害一度に一品だけ調理、自動消火機能のあるコンロを利用家族に怒りっぽくなる社会的行動障害予定を見える化、刺激を減らす、クールダウン場所を作る出典:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害を理解する」https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai4. 家庭でできる簡単なチェックと工夫目的は「診断」ではなく、支援の方針を考える手がかりを得ることです。領域チェックの方法工夫のポイント注意新聞から特定の数字に線を引いて探す2分以内で終了、疲れる前に切り上げ記憶5つの言葉を覚えて3分後に思い出すメモや絵を使ってもOK段取り簡単な料理手順をカードで並べる工程を分けて少しずつ確認言葉物の名前を言ってもらうジェスチャーや選択肢を使う空間認識時計の絵を描く机上の配置を固定して再現性を確認出典:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害を理解する」https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai5. 在宅での支援プランの立て方「できる・できない」ではなく「工夫すればできる」に視点を変えることが大切です。目標は「具体的で測れる」「生活に関係がある」「達成可能」で設定する。環境調整の基本:①刺激を減らす ②手がかりを増やす ③失敗しても安全にする。家族の役割:叱るより仕組みづくりを優先する。家の中の工夫表示は大きく・少なく・具体的に。「薬→朝食後」「外出→鍵・財布・スマホ」動線に合わせて物を置く(キッチンは使用順に並べる)。アラームと表示の二重で忘れ防止。役割の再設計「以前の役割に戻す」より「できる役割に置き換える」。例:買い物は“牛乳担当”から再スタート。成功体験を重ねて自信回復につなげる。6. 訪問看護・訪問リハの役割ポイント:医療の安心と暮らしの工夫をつなぐ“ハブ役”です。 病状の観察・治療のサポートと、日常生活の再建を同時に進めます。以下では、できること・連携の流れ・保険の使い分けを、一般の方向けに丁寧にまとめました。訪問看護でできること(例)病状の観察:血圧や脈拍、体温、呼吸、むくみ、睡眠など日々の変化をチェック。服薬支援:飲み忘れ防止の工夫(1包化、カレンダー、タイマー)や副作用の確認。医療的ケア:創傷ケア、ストーマ・カテーテル管理、点滴・在宅酸素・人工呼吸器などのサポート。症状コントロール:痛み・不眠・不安の相談、主治医への報告連携。緊急時の初期対応:急な発熱・けいれん・転倒時の助言や受診調整(契約内容により24時間連絡体制)。家族への支援:介護手技の練習、介護負担を減らすコツ、心のケア。訪問リハビリでできること(例)作業療法(OT):料理・掃除・着替え・金銭管理など日常生活に必要な動作を一緒に練習。高次脳機能障害では「メモを取りながら家事を進める」「手順表を見て料理する」などの工夫を生活に組み込みます。理学療法(PT):歩行や立ち上がり、バランス練習。転倒しにくい動作のコツを伝え、必要なら住宅改修の提案も行います。言語聴覚療法(ST):ことばの訓練や発声練習、カードやアプリを使ったコミュニケーション支援。飲み込み(嚥下)の評価も行い、むせを防ぐ工夫を提案します。訪問リハビリの事例事例1:注意障害のある方60代男性。料理中に工程を飛ばして火をつけっぱなしにしてしまう。→作業療法士が「一品ずつ調理する」「タイマーを必ずセットする」方法を導入し、事故リスクを減らすことができました。事例2:言葉が出にくい方(失語症)70代女性。相手に伝えられず落ち込みがち。→言語聴覚士が「Yes/Noカード」「写真付き会話ボード」を導入し、家族とスムーズに会話できるようになり、笑顔が増えました。事例3:半側空間無視がある方50代男性。左側の物を見落としてしまい、外出中に壁や人にぶつかることが多くありました。→作業療法士が「大事な物は右に置く」「外出時は家族が声かけをして左側を確認する」といった工夫を提案。これにより自宅での転倒が減り、安心して散歩を楽しめるようになりました。」「外出時に声かけで左確認」を提案。自宅での転倒も減り、安心して散歩できるようになりました。出典:厚生労働省「在宅医療における 看護師(主に訪問看護)の役割とは」https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001477711.pdf連携のしかた(医師・ケアマネ・地域の窓口と)主治医:病状の指示・治療方針の決定。訪問看護は医師の「指示書」に基づいて動きます。ケアマネジャー(介護保険を利用する場合):ケアプラン作成、サービスの調整と見直し。地域包括支援センター:困りごとの総合相談や、介護保険の申請支援。家族・本人:生活の目標と優先順位を共有し、負担の少ない方法を一緒に探します。役割分担の早見表担い手主な役割かかわる場面連絡の流れ主治医診断・治療方針、訪問看護指示書の発行受診時、急変時医師→訪問看護→家族へ共有訪問看護病状観察、医療的ケア、家族支援定期訪問、緊急時訪問看護↔主治医/ケアマネ訪問リハ(OT/PT/ST)生活動作・運動・ことばの支援リハ訪問時リハ↔訪問看護↔主治医ケアマネケアプラン作成・見直し介護保険利用時ケアマネ↔各サービス地域包括支援センター相談・制度案内はじめての相談時本人家族↔地域包括→各機関出典:日本看護協会「在宅療養を支える訪問看護」https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/home-visit/医療保険と介護保険の訪問看護の使い分け(概要)要点:病気の状態・年齢・要介護認定の有無で使い分けます。 高度な医療管理が必要な一部の病気(厚生労働大臣が定める疾病等など)は、介護保険の認定があっても医療保険で利用する場合があります。比較項目医療保険の訪問看護介護保険の訪問看護申込の入口主治医(指示書が必要)ケアマネ(ケアプランに位置づけ)主な対象治療中・医療管理が必要な方等要介護・要支援の認定を受けた方利用の枠組み原則は週3回程度※/30〜90分が目安ケアプランに沿って時間区分で利用特例厚労大臣が定める疾病等や特別な管理が必要な場合は週4日以上・1日複数回も可医療的管理が少ない場合に適する費用健康保険等を使用(自己負担あり)介護保険を使用(自己負担あり)※一般的な説明のための目安です。実際の回数・時間は病状や契約により異なります。出典:厚生労働省「訪問看護のしくみ」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000123638.pdfよくある質問(Q&A)Q:訪問看護の「指示書」って何?A:主治医が記載する書類で、病状や必要なケア、訪問頻度の目安が示されます。これに基づいて訪問内容を組み立てます。Q:夜間・休日も対応してもらえますか?A:事業所と契約内容により、24時間の連絡体制や緊急訪問に対応するところがあります。まずは事前に確認しましょう。Q:家族の負担が心配…A:看護師やリハ職が「やりやすい手順」や「道具の置き場所」などを一緒に整えます。がんばりすぎない仕組みづくりが大切です。出典:厚生労働省「訪問看護(統計・調査の概要)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123919.pdf7. 町田市在住の方向け:ピース訪問看護ステーションの使い方はじめての方へ: 町田市では、主治医や地域包括支援センター(市内各地の「あんしん相談室」)が相談の入り口になります。高次脳機能障害の在宅生活でお困りなら、ピース訪問看護ステーションでもご相談をお受けしています。利用開始までの流れ(例)相談:主治医、またはお近くの地域包括支援センター(あんしん相談室)へ。介護保険を使う場合は、要介護認定の申請から始めます。事業所選び・連絡:訪問看護ステーション(例:ピース訪問看護ステーション)に連絡し、日程調整。主治医の指示書:医療保険で利用する場合は主治医が指示書を発行します。介護保険の場合はケアマネがケアプランに位置づけます。初回訪問(契約・アセスメント):生活の困りごとを聞き取り、目標と計画を一緒に決めます。利用開始:定期訪問+必要時の連絡で、暮らしをサポートします。町田市の主な相談先相談先できること参考情報地域包括支援センター(あんしん相談室)介護保険の申請支援、総合相談、地域資源の紹介町田市内に複数設置。開設場所・連絡先は市HPをご確認ください。訪問看護ステーション病状の観察、医療的ケア、在宅療養の相談町田市の訪問看護ページから概要を確認可能。ピース訪問看護ステーション高次脳機能障害を含む在宅生活のご相談・訪問看護お問い合わせはこちら。出典:町田市「訪問看護ステーション」 https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/syougai_hukushi/nitijoseikatsushien/homon/hokan.html出典:町田市「身近な相談窓口」 https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/old/shiminnokatae/mijikanasodan/index.htmlよく使う制度・支援のヒント介護保険:65歳以上(または40〜64歳で特定疾病)の方は要介護認定を受けてから利用。申請は地域包括支援センターや市役所でできます。医療保険の訪問看護:治療や医療管理が必要な方は、年齢にかかわらず主治医の指示書で利用できます。特定の病気や状態では回数の特例が適用されます。高次脳機能障害の相談・支援:障害者総合支援法の枠組みで、都道府県の支援拠点による専門相談や就労支援等につながる場合があります。出典:厚生労働省「訪問看護のしくみ」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000123638.pdf出典:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害支援に関する制度」 https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/seido利用前の準備チェックリスト(印刷して使えます)チェック項目記入欄困っていること(例:薬の飲み忘れ、火の消し忘れ)目標(例:朝の服薬を忘れない)主治医名・診療科処方薬リスト(お薬手帳の写し)ケアマネの有無/連絡先連絡してよい時間帯(家族・本人)ピース訪問看護ステーションへ(町田市の皆さまへ)高次脳機能障害のある方やご家族の「困った」に寄りそい、家庭で続けやすい工夫をご一緒に考えます。まずはお気軽にピース訪問看護ステーションへご相談ください。症状や生活の状況に合わせて、主治医・ケアマネと連携し、無理のない計画をご提案します。まとめ高次脳機能障害は、見た目ではわかりにくいけれど生活に大きく影響します。一人ひとりの「できること」と「苦手なこと」を見極めて、環境や工夫で支えることが大切です。 家族だけで抱え込まず、訪問看護や訪問リハビリと一緒に取り組むことで、安心して暮らしやすい環境を整えることができます。町田市周辺で支援をお探しの方は、ぜひピース訪問看護ステーションにご相談ください。関連記事脳卒中の原因を徹底解説!予防につながる知識と生活の工夫脳梗塞の前兆を見逃すな!FASTで気づく初期症状と予防策を解説脳梗塞の訪問リハビリとは?自宅で行う効果的なリハビリ方法と注意点参考文献一覧国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害を理解する」https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai日本看護協会「在宅療養を支える訪問看護」https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/home-visit/厚生労働省「在宅医療における 看護師(主に訪問看護)の役割とは」https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001477711.pdf厚生労働省「訪問看護のしくみ」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000123638.pdf厚生労働省「訪問看護(統計・調査の概要)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123919.pdf町田市「訪問看護ステーション」https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/syougai_hukushi/nitijoseikatsushien/homon/hokan.html町田市「身近な相談窓口」https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/old/shiminnokatae/mijikanasodan/index.html国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害支援に関する制度」https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/seido日本リハビリテーション医学会「高次脳機能障害に対するリハビリテーションのガイドライン」https://www.jarm.or.jp/academic/info/guideline/日本高次脳機能障害学会「高次脳機能障害の評価と支援」https://www.jsnr-higherbrain.org/日本老年医学会「高齢者ケアにおけるリハビリテーションの推奨」https://jpn-geriat-soc.or.jp/World Health Organization (WHO) “Neurological disorders: public health challenges”https://www.who.int/publications/i/item/9789241563369National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS) “Rehabilitation after Traumatic Brain Injury”https://www.ninds.nih.gov/health-information/traumatic-brain-injury/rehabilitation本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。