はじめに日本の夏は年々暑さが厳しくなっており、猛暑日が続くことも珍しくありません。そんな中、自宅で療養している方にとって「熱中症」は命にかかわるリスクとなり得ます。外に出ないからといって油断は禁物。実は、熱中症の多くは「室内」で発症しているのです。特に高齢者や持病のある方、体力の低下している方は体温調節機能が弱まっており、気づかないうちに体内に熱がこもってしまうことがあります。また、症状に気づいても「少し休めば大丈夫」と放置してしまうことで、重症化するケースも少なくありません。この記事では、在宅療養中の方が安全に夏を乗り越えるための熱中症対策について、原因・症状・予防・対応方法まで、具体的かつ実践的に解説していきます。まずは、なぜ在宅療養中の方が熱中症になりやすいのか、その理由から見ていきましょう。第1章:在宅療養者が熱中症になりやすい理由在宅療養中の方が熱中症にかかりやすいのには、いくつかの明確な理由があります。以下にその主な要因を解説します。1.1 高齢者や持病のある方は体温調節機能が低下している高齢になると、体温を調整する「自律神経系」の働きが鈍くなり、暑さや寒さを感じにくくなります。さらに、発汗機能も低下しており、体内の熱をうまく外に逃がすことができません。糖尿病や心疾患、脳血管障害などの持病を抱えている方は、薬の影響で脱水を起こしやすくなっていたり、体内の水分バランスが崩れやすくなっていることもあります。1.2 身体をあまり動かさないことで熱がこもりやすくなる在宅療養では、安静が必要なことも多く、ベッドや布団で横になっている時間が長くなりがちです。活動量が減ると、汗をかく機会も減り、体の放熱がうまくいきません。また、部屋の空気がこもりやすくなることで、室温が思った以上に上がってしまうこともあります。1.3 室内でも熱中症は発生する熱中症というと「炎天下の屋外」で起きるイメージがありますが、実は発症場所の約4割は「住居内」とされています(※環境省データより)。エアコンの使用を控えたり、風通しの悪い部屋で過ごしていると、知らぬ間に室温が上昇し、体温が危険なレベルに達することがあります。特に、以下のような環境は要注意です:西日が強く当たる部屋換気が不十分な空間エアコンを「寒い」と感じて消してしまっている状態1.4 自覚症状に気づきにくい熱中症の初期症状(軽いめまいや倦怠感)は、体調不良や病気の症状と混同しやすいため、本人も家族も見過ごしてしまうことがあります。特に在宅療養では「いつものこと」として片付けられてしまうため、発見が遅れる傾向にあります。第2章:熱中症の初期症状と重症化のサイン熱中症は、気づいたときにはすでに進行していることが多く、早期発見と迅速な対応が非常に重要です。ここでは、熱中症の進行段階ごとの症状と、特に注意すべき「重症化のサイン」について解説します。2.1 軽度の熱中症:気づきにくいが最も重要な段階この段階での気づきと対応が、重症化を防ぐカギです。以下のような症状が見られたら、すぐに対処を始めましょう。軽いめまい・立ちくらみ筋肉のけいれん(足がつるなど)全身のだるさ・倦怠感発汗が止まらない、または逆に汗が出ない顔が赤い、火照っているこれらの症状は、脱水や体温上昇の初期サインです。本人が「暑い」と感じていなくても、周囲の人が異変に気づいて声をかけることが大切です。2.2 中等度の熱中症:要注意の段階軽度の症状を放置すると、中等度に進行し、日常生活に支障が出るようになります。頭痛吐き気・嘔吐意識がぼんやりする、反応が鈍い皮膚が乾燥している(汗をかいていない)呼吸が早く浅いこの段階になると、冷房や水分補給だけでは改善しない場合があります。体を冷やしながら安静にし、改善しないようであれば、医師への相談が必要です。2.3 重度の熱中症:命に関わる危険な状態以下の症状が見られた場合は、すぐに救急車(119番)を呼ぶ必要があります。意識がない、または会話が成立しない体温が40℃以上と極端に高い全身のけいれん呼吸が不規則・非常に速い血圧が低下し、脈が弱くなる重度の熱中症は「熱射病」とも呼ばれ、治療が遅れると後遺症が残る可能性があります。在宅療養中は、見守る家族や介護者が「いつもと違う」と感じたときに、ためらわず医療機関に連絡することが重要です。2.4 医療機関へ相談する目安次のような状況では、早めにかかりつけ医や訪問看護師に相談しましょう:体温が37.5℃以上で下がらない水分を取れていない・嘔吐してしまうだるさや頭痛が数時間続いている意識がもうろうとしている第3章:日常生活でできる熱中症対策在宅療養中の方にとって、熱中症の予防は日々の生活の中で「習慣化」することが最も効果的です。この章では、誰でもすぐに実践できる熱中症対策を、環境・食事・水分補給・衣類の4つの視点から解説します。3.1 室温管理:適切な環境づくりが基本エアコン・扇風機を活用する室温は28℃以下、湿度は50〜60%を目安に設定しましょう。エアコンの冷気が苦手な方には、扇風機で空気を循環させるのも効果的です。風が直接体に当たらないよう、風向きを壁や天井に向けて間接的に使う工夫も。遮光・断熱対策カーテンは遮光性・断熱性のあるものを使用しましょう。日中は窓を閉めてエアコンを使い、直射日光を防ぐことが大切です。東・西側の窓は特に熱が入りやすいため、すだれや断熱フィルムを併用すると効果的です。3.2 水分と塩分の補給:のどが渇く前に摂る基本の水分補給1日に1.2〜1.5リットル程度の水分を、こまめに少量ずつとりましょう。のどが渇く前に、1時間に1回を目安にコップ1杯を。塩分も忘れずに発汗により失われる塩分(ナトリウム)も重要です。経口補水液(OS-1など)や、スポーツドリンク(薄めて使用)を取り入れると効果的です。味噌汁や梅干しなど、食事から自然に塩分を補う方法もあります。3.3 食事で体調を整える水分を多く含む野菜(きゅうり、トマト、なす)は水分補給にもなり、夏バテ防止にも有効です。カリウムやマグネシウムを含む食材(バナナ、納豆、豆腐)も、熱中症対策におすすめ。利尿作用のある飲み物(コーヒーや緑茶)は控えめに。代わりに麦茶や白湯を。3.4 衣類・寝具の工夫吸汗性・通気性の高い素材(綿や麻)の衣類を選びましょう。締め付けの少ないゆったりとした服装で、熱のこもりを防ぎます。寝具には接触冷感素材や冷却シートを取り入れると、快適な睡眠環境が保てます。3.5 規則正しい生活リズムも重要睡眠不足や体調不良は熱中症のリスクを高めます。一日の中で最も暑い時間帯(13〜15時頃)は無理な活動を避け、体を休めましょう。朝のうちに換気や活動を済ませておくと、熱がこもりにくくなります。第4章:介護者・家族が気をつけるポイント在宅療養中の方が安全に夏を過ごすには、本人だけでなく、介護者や家族のサポートが重要です。特に、体調変化に気づきにくい高齢者や認知症の方の場合、周囲の気づきと声かけが命を守る行動につながります。この章では、家族や介護者が実践すべきポイントをご紹介します。4.1 定期的な声かけと安否確認声かけの例:「のど乾いてない?」「エアコン、ちゃんとつけてる?」「顔赤いけど、大丈夫?」体調チェックを兼ねた日常会話を意識的に取り入れましょう。特に、一人暮らしや独居高齢者の場合は、1日3回以上の安否確認が望ましいです。4.2 水分補給のタイミングを工夫する本人任せでは飲み忘れることも多いため、生活リズムに合わせたタイミングで促しましょう:朝起きたとき食事前後入浴前後寝る前「今、ちょうど飲む時間だね」と声かけのルーチン化をすると習慣づきやすくなります。4.3 環境のチェックと調整室温・湿度の確認:エアコンの設定温度が高すぎたり、切れていないかをこまめに確認しましょう。窓の開閉やカーテンの使用:日差しの強い時間帯にはカーテンを閉め、夕方以降は換気も忘れずに。水・お茶・経口補水液などを手の届く場所に用意:起き上がらなくても飲めるように配慮することが大切です。4.4 デジタル機器の活用見守りツールの例:スマート体温計:皮膚温度や体調の変化を記録し、異常があれば通知。室内温度センサー付きの見守りカメラ:温度が設定以上になるとスマホにアラート。ウェアラブルデバイス(リストバンド型):心拍数や活動量を測定し、異常を早期にキャッチ。遠方に住む家族や介護サービス事業者とも情報を共有することで、異変への対応がスムーズになります。4.5 家族・介護スタッフとの連携ケアマネジャーや訪問看護師とも情報を共有し、「何かあったら誰に連絡するか」を明確にしておきましょう。「普段の様子」と「いつもと違う様子」を記録・共有しておくと、変化に気づきやすくなります。第5章:非常時の対応マニュアル万が一、在宅療養中に熱中症が疑われる症状が出た場合は、すばやい判断と正しい対応が命を救います。この章では、熱中症の緊急時にとるべき対応を、症状の重さに応じて具体的に解説します。5.1 軽度〜中等度の熱中症が疑われるときまずやるべき初期対応:涼しい場所に移動させるエアコンが効いた部屋や日陰に避難。室温が28℃以下になるよう調整。衣服をゆるめ、熱を逃がす襟元やベルトを緩め、熱がこもらないように。首・わきの下・足の付け根を保冷剤や濡れタオルで冷やすと効果的。水分と塩分を補給する経口補水液や薄めたスポーツドリンクが理想。自力で飲める場合に限り、少量ずつゆっくり飲ませる。嘔吐がある場合や、飲み込みが難しい場合は無理に与えない。30分以内に改善しない場合は医療機関へ連絡回復が見られないときは、早めにかかりつけ医に相談すること。5.2 重度の症状が見られる場合は、すぐに119番!以下の症状があれば、救急車を呼ぶ(119番)のが最優先です:意識がもうろうとしている、返事がない呼びかけに反応しないけいれんを起こしている体温が非常に高い(40℃以上)呼吸が浅く早い、または不規則救急車を待つ間の対応:体を横に寝かせる(横向きが望ましい)頭を少し高くすることで呼吸が楽になります保冷剤・氷嚢で体を冷やす:首・脇の下・脚の付け根が効果的嘔吐がある場合は誤嚥(ごえん)しないよう頭を横に5.3 医療機関に伝えるべき情報救急隊員や医療機関に伝えるとスムーズです:いつからどんな症状が出ているか普段の持病や服薬情報(お薬手帳があれば便利)直前の行動や室温・環境状況(室内で倒れた、外にいた 等)意識の有無・発汗状況・体温などの観察結果事前に家族や介護者の連絡先リストや緊急連絡カードを用意しておくと、いざという時にも落ち着いて対応できます。5.4 「備え」が命を守る事前に以下のような準備をしておくことも重要です:冷却グッズ(保冷剤、冷却スプレー、氷嚢)を常備経口補水液・スポーツドリンクを数本常備緊急時の連絡先リストを目立つ場所に掲示かかりつけ医・訪問看護・介護スタッフとの情報共有おわりに在宅療養中の方にとって、夏の暑さは体力を奪い、思わぬ形で体調を悪化させる危険性があります。特に熱中症は、「室内でも起こる」「症状に気づきにくい」「重症化しやすい」という特徴があり、決して油断できないものです。この記事では、以下のような観点から熱中症対策をご紹介しました:在宅療養中の方が熱中症になりやすい理由初期症状と重症化のサイン日常生活に取り入れやすい具体的な予防法家族や介護者が注意すべきポイントいざという時の対応マニュアル熱中症対策は、一人だけで完結するものではありません。本人・家族・介護者・医療スタッフが連携しながら、日々の小さな変化に目を向けることが最も大切です。これから本格的な暑さが到来しますが、適切な備えと心がけで、安心して自宅での療養生活を続けられるようになります。この記事が、あなたやご家族の安全な夏の一助となれば幸いです。町田市で訪問看護や介護サービスについて知りたい方は、ピース訪問看護ステーションの公式サイトもあわせてご覧ください。▶ https://island-piece.jp/service/houmonkango