「病気が治ったから、もう安心」。そう思って退院したものの、家に戻ってから「歩くのがつらい」「体がだるい」「食欲がない」と急に体が弱ってしまう方は少なくありません。その原因の一つが廃用症候群(はいようしょうこうぐん)です。簡単に言えば「体を使わないことで心身の機能が落ちてしまう状態」です。特に高齢の方は、ほんの数日動かないだけでも筋力や体力が大きく落ちてしまいます。この記事では、廃用症候群の基本知識、家庭でできる予防法、訪問看護・リハビリの役割について、市民の方にもわかりやすく紹介します。1. 廃用症候群ってなに?廃用症候群とは「体や心を使わないことによって起こる衰え」のことです。たとえば…足腰が弱る(筋力低下)関節が動かしにくくなる(こわばり)長く座っていると疲れる(持久力低下)少し動いただけで息切れする(心肺機能低下)気持ちが落ち込み、外に出るのが億劫になる(意欲低下)食欲がなくなり、体重が減るつまり「動けないから動かない」のではなく、「動かないから動けなくなる」という悪循環です。ポイント:廃用症候群は病気ではなく「生活習慣の問題」でもあるため、誰にでも起こり得ます。2. どうして起こるの?廃用症候群のきっかけはさまざまです。入院や手術で「安静に」と言われ、そのまま体を動かさなくなる体の痛みやだるさ、呼吸の苦しさがあって活動を控える一人暮らしで声をかけてくれる人がいない家の中に段差が多く、動くのがおっくう感染症や災害で外出を控えてしまう特に退院直後の数週間は要注意。病院ではリハビリスタッフや看護師に支えられていた生活が、家に帰ると「自分や家族だけ」になります。結果として活動量が急に落ち込み、体の衰えが一気に進むことが多いのです。3. よくある症状とサイン家庭で気づきやすいサインをまとめました。表1 廃用症候群のサイン分野よくあるサイン家庭での気づき方体の動き立ち上がりが遅い、歩幅が小さい「立ち上がるのに手を使う」「外出を嫌がる」呼吸・心臓息切れ、立ちくらみ「台所に行っただけで座り込む」食事・消化食欲低下、便秘「残す量が増えた」「排便が3日以上ない」皮膚おしりやかかとの赤み「同じ姿勢で長時間座っている」気持ち無気力、昼夜逆転「昼間ずっと横になっている」重要:小さなサインを早めに見つけることが、寝たきり防止につながります。4. なぜ早めの対策が大事?高齢者が要介護になる原因の一つに「活動量の低下」があります。特に「退院して安心した直後」が危険。自宅に戻ると、病院のように毎日リハビリや看護師の声かけがあるわけではありません。そのため、動く機会が急激に減るのです。廃用症候群が進むと…立ち上がりが難しくなる転倒や骨折のリスクが増える肺炎や尿路感染、褥瘡(床ずれ)が起こりやすくなる意欲や認知機能が低下するポイント:数日から数週間で進行することもあるため、早めの対策が欠かせません。5. 家でできる予防法「特別な運動」よりも「日常生活の中で体を動かすこと」が大切です。表2 家庭でできる予防の工夫分野工夫の例動く習慣毎朝「立ち上がり回数」をカレンダーに記録食事肉・魚・豆腐など、たんぱく質を毎食とる口腔食後の歯磨きと義歯の手入れ睡眠毎朝同じ時間に起き、昼寝は30分以内家事配膳や洗濯物たたみを「役割」としてお願いするコツ:小さな動作を「生活の中の役割」として習慣にすること。6. 家族ができるサポート「全部やってあげる」ではなく「一緒にやる」声をかけながら安全を見守る「今日はこれをお願いしていい?」と役割を渡す食欲がないときはプリンやヨーグルトなど少量でも栄養があるものを注意:家族が介助を頑張りすぎると、本人が動く機会を奪ってしまいます。7. 地域での相談先と連携の流れ廃用症候群の予防やリハビリは、家庭だけで解決しようとすると難しいこともあります。そんなときは、地域の支援窓口を活用しましょう。相談の流れ地域包括支援センターに相談高齢者や家族の総合的な相談窓口です。介護や医療、生活全般の相談を受け、必要な機関につないでくれます。訪問看護ステーションにつなぐ看護師やリハビリスタッフが自宅に訪問して体調を確認し、必要に応じてリハビリや主治医との連携を行います。デイサービス・通所リハビリを利用家でこもりがちな生活を防ぎ、食事・入浴・運動支援、仲間との交流も得られます。病院のリハビリテーション科に相談より専門的な評価やリハビリ計画が必要な場合は、医療機関のリハ科につなげてもらえます。再評価と計画の見直し状態は変化するため、定期的に関係者で話し合い、サービスや支援内容を見直します。表:地域連携のフローステップ担当機関内容1. 相談地域包括支援センター介護・医療・生活の総合相談2. 初期支援訪問看護体調確認・生活指導・主治医連携3. 活動支援デイサービス/通所リハ運動・入浴・食事・交流4. 専門医療病院リハ科詳細な評価と専門訓練5. 再評価各機関で共有状態に応じて計画を修正8. 訪問看護・リハビリの役割訪問看護や訪問リハビリを利用すると、次のような支援が受けられます。血圧や酸素など体調のチェック立つ・歩く・食べるなど、生活に直結したリハビリ栄養や口腔ケアの指導褥瘡(床ずれ)の予防家族への介護アドバイス安心感が増し、再入院の予防にもつながります。9. 事例:80代女性のケース退院して1週間は元気だったのに、2週間後には「歩くのがつらい」と言い出したAさん。訪問で確認すると、ほとんどソファで横になりっぱなしでした。→ そこで、まずは朝にお茶を入れる家事から始めてもらいました。慣れてきたら食器洗い、さらに洗濯物たたみと、少しずつ家事の内容を増やしました。こうして段階を追って「できること」を広げた結果、3週間後には近所のポストまで歩けるようになりました。表3 家事を使った段階的リハビリの工夫(Aさんの例)段階家事の内容ポイントステップ1朝にお茶を入れる短時間で達成感があるステップ2食器を洗う立ち座りや手の動きを自然に取り入れるステップ3洗濯物をたたむ腕を動かし、座る時間を延ばせるステップ4ゴミを出す軽い外出になり、歩行練習になる10. 今日からできる10の習慣朝起きたらカーテンを開けて日光を浴びるコップ1杯の水を飲む2時間ごとに立ち上がるイスからの立ち座りを1日10回食事は3食、たんぱく質を意識歯磨きと舌の清掃を毎食後買い物やゴミ出しなど「小さな外出」を週1回家事を家族と一緒に分担昼間はベッドで過ごさない就寝・起床の時間を毎日そろえる生活習慣に取り入れることが最大の予防策です。11. よくある質問Q:安静にと言われているけど動いていいの?A:医師から特別な制限がなければ、軽い動きはむしろ推奨されます。無理のない範囲で始めましょう。Q:どんな運動がいいの?A:立ち座りや家の中の歩行など、日常の動きが効果的です。Q:一人では続けられない…A:訪問看護やデイサービスを利用することで継続できます。まとめ廃用症候群は「病気」ではなく生活の問題です。退院直後や体調を崩した後こそ、早めに体を動かし、家事や役割を少しずつ取り戻すことが大切です。小さな一歩が、寝たきりを防ぎ、元気な生活につながります。ご不安のある方は、ピース訪問看護ステーション にぜひご相談ください。関連記事高齢者が元気に過ごすための食事の工夫家族ができる認知症予防のサポート在宅介護で注意したい「転倒リスク」対策初めての訪問看護利用ガイド参考文献一覧厚生労働省「生活不活発病(廃用症候群)と『生活機能低下の悪循環』」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0917-6a_0007.pdf厚生労働省「介護予防マニュアル 第4版」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25277.html国立長寿医療研究センター「リハビリテーション科」https://www.ncgg.go.jp/hospital/shinryo/shinryoka/rehabili.htmlWHO「WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour」https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/336656/9789240015128-eng.pdf日本老年医学会「フレイルに関するステートメント」https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。