パーキンソン病の重症度の把握は、治療やリハビリ、在宅生活の支援計画を立てるうえで欠かせません。本稿では、もっとも広く使われる「ホーエン・ヤール(Hoehn & Yahr)重症度分類」と、わが国の制度運用にも直結する「生活機能障害度分類(厚生労働省)」の違いと使い分けを詳しく解説します。併せて、各ステージでのリハビリ・環境整備・家族支援の工夫、町田市を例にした制度活用の要点、地域での支援体制まで、網羅的にまとめました。1. ホーエン・ヤール重症度分類とはヤール症状の核典型の悩み0症状なし違和感はあるが診断に至らない1片側性の振戦・固縮細かい手作業・靴下履きがしづらい2両側性だがバランスは保たれる家事の時間が倍に、疲労感3姿勢反射障害、転倒リスク上昇方向転換でふらつく・すくみ足4高度障害だが介助なしで歩行・起立は「どうにか可能」立ち上がり・移乗に不安5車いす/臥床中心(介助なしには生活不可)体位変換・褥瘡・嚥下低下ホーエン・ヤール分類は、症状の進行度を国際的に評価するための基準です。0から5までの段階で、運動症状が軽度から重度へと進行する様子を示します。特にヤール3以降では転倒リスクや姿勢保持の困難が顕著となり、生活に大きな影響を及ぼします。出典:厚生労働省「パーキンソン病(指定難病6) 診断基準・重症度分類(抜粋PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173440.pdf2. 生活機能障害度分類(厚労省)——制度・支援量の目安生活機能障害度生活像の目安在宅支援の視点1(ほぼ自立)通院・日常生活は基本自立、部分的な困難あり予防的支援:転倒予防の住環境、小さな成功体験の積み上げ2(部分介助)入浴・更衣・外出などに介助が要る役割分担の明確化と介助手順の標準化、福祉用具導入3(全面介助)独歩・起立が困難、車いす/ベッド中心褥瘡・嚥下・呼吸のトータルケア、ポジショニング、レスパイト支援生活機能障害度は、介助の必要度を数値化する指標です。訪問看護では、ヤール分類だけでなく生活機能障害度も併せて評価することで、訪問頻度や用具導入、家族支援の度合いが適切に設定できます。たとえば同じヤール3でも、生活機能1なら自立支援が中心、生活機能3なら介助者の負担軽減が優先されます。出典:厚生労働省「パーキンソン病(指定難病6) 診断基準・重症度分類(抜粋PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173440.pdf3. ヤール分類と生活機能障害度の違いを整理観点ヤール分類生活機能障害度評価対象運動症状の進行度生活自立度・介助量評価方法医師による臨床所見医師診断書+介助実態主な用途病態把握・研究国際比較制度・サービス量の調整両者は評価軸が異なります。ヤールは医学的進行度を示す一方、生活機能障害度は介助量やサービス調整の根拠になります。訪問看護では両方を組み合わせることで実態に即した支援計画が可能です。出典:厚生労働省「パーキンソン病(指定難病6) 診断基準・重症度分類(抜粋PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173440.pdf4. 在宅生活における両分類の活用イメージケースヤール生活機能障害度支援の焦点独居・ヤール221運動習慣支援・転倒予防介助者あり・ヤール332移乗・更衣の介助、環境調整ヤール443体位変換、褥瘡・嚥下ケアこのように、ヤールが進行しても生活機能障害度が軽ければ自立支援を重視できる場合もあります。逆にヤール3でも生活機能が3であれば介護負担軽減が優先されます。出典:厚生労働省「パーキンソン病(指定難病6) 診断基準・重症度分類(抜粋PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173440.pdf5. 公的支援との関わり支援制度関わり方補足(支援内容)難病医療費助成重症度要件あり(HY3以上+生活機能2以上)。軽症者特例もあり自己負担軽減(公費負担)障害者手帳判定の参考資料として活用される場合がある税控除、交通機関割引、就労支援など介護保険サービス直接の判定基準ではない訪問看護、訪問リハ、福祉用具貸与、住宅改修など特定医療費(指定難病)の受給には、Hoehn–Yahr 3度以上かつ生活機能障害度2度以上が必要です。症状が要件未満でも、高額な医療を継続して必要とする場合は軽症者特例で助成対象となります。出典:厚生労働省「パーキンソン病(指定難病6) 診断基準・重症度分類(抜粋PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173440.pdf6. 在宅ケアにおける評価活用の注意点注意点内容ヤールのみでは不十分生活困難の度合いを反映できない生活機能障害度のみでは不十分医学的進行を把握できない両者を併用訪問看護・リハが補完的に記録し、多職種連携の基盤にする制度申請に有効両方の評価を記録すると根拠が強化される(例:難病医療費助成、介護保険サービス利用)重症度の判定は「直近6か月間で最も悪い状態」を用いるため、日や時間帯で症状が変動しても均一化して判断されます。出典:厚生労働省「パーキンソン病(指定難病6) 診断基準・重症度分類(抜粋PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173440.pdf7. ステージ別リハビリ&ケア——“できるだけ家で、できるだけ安全に”訪問看護の視点ステージ看護の重点家族支援ヤール1〜2症状観察、内服管理、生活指導自立支援を尊重しつつ過介助を防ぐヤール3転倒・すくみ足対策、嚥下・呼吸の確認方向転換や夜間導線の安全確保ヤール4〜5ポジショニング、褥瘡・呼吸・嚥下管理介助手順の標準化で事故防止と負担軽減訪問看護では、病状観察や服薬管理とともに、進行段階ごとにリスクの高い症状を重点的にチェックします。ヤール3以降では転倒予防や嚥下障害の早期発見が重要であり、ヤール4以降では呼吸・褥瘡管理、介助者の支援が不可欠となります。出典:日本看護協会「在宅(地域)/訪問看護」https://www.nurse.or.jp/nursing/zaitaku/houmonkango/index.html訪問リハビリの視点ステージリハビリ重点環境調整ヤール1〜2リズム歩行・BIG動作・運動習慣づけ靴・衣服・住環境の工夫ヤール3視覚・聴覚キューを使った歩行練習、方向転換段差・敷物除去、夜間照明ヤール4〜5シーティング・立ち上がり分節練習、嚥下訓練ベッド・車いす調整、体位変換スケジュール訪問リハビリでは、ヤール初期は活動性の維持や運動習慣づけが重視されます。ヤール3以降は転倒防止や動作分節化、環境調整が中心となり、ヤール4以降はシーティングや嚥下訓練など安全と安楽の両立を図ります。出典:日本神経学会「パーキンソン病治療ガイドライン2018」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson.htmlピース訪問看護ステーションのご案内(町田市在住の方へ)スタッフ(2025年9月時点)人数特徴看護師9名医療的ケアや症状観察、夜間対応も可能リハビリスタッフ13名理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が在籍ケアマネジャー6名医療と介護をつなぐ役割を担当特徴夜間の急な体調不良や転倒にも対応リハビリ専門職が多く、在宅生活に合った支援が受けられるケアマネジャーとの連携で、医療・介護・リハをまとめてサポートパーキンソン病の支援経験が豊富町田市や周辺で訪問看護・リハビリをお探しの方は、ピース訪問看護ステーション へぜひご相談ください。8. 事例で学ぶ:在宅“あるある”課題と解決のヒントパーキンソン病の在宅支援では、ヤールや生活機能障害度だけでは見えにくい「実際の困りごと」が多くあります。ここでは代表的な3事例を示し、課題→介入→結果の流れを表で整理しました。ケース状況主な課題介入内容結果Aヤール3×生活機能1、独居方向転換で転倒続発(暗がり・敷物・急ぎ歩き)夜間センサー灯、床テープで視覚キュー、「止まる→向き直る→一歩」練習転倒ゼロ更新、買い物外出再開Bヤール4×生活機能2、同居家族が腰痛悪化、介助不統一シーティング再設計、昇降ベッド導入、声かけスクリプトで標準化介助時間短縮、家族疲労が半減Cヤール3、言語・嚥下障害進行食事中のむせ、発話不明瞭ST嚥下訓練・発声練習、とろみ調整、会話支援アプリ誤嚥減少、家族との会話再開これらの事例から、Aでは「住環境調整+動作練習」、Bでは「介護者負担軽減」、Cでは「ST専門介入によるコミュニケーション支援」といった、それぞれの焦点が明確になります。訪問チームはヤールや生活機能評価を土台にしつつ、個別の困りごとに応じた柔軟な対応が重要です。出典:日本看護協会「訪問看護」https://www.nurse.or.jp/nursing/zaitaku/houmonkango/index.html9. 生活を支える制度と地域資源——町田市の例で理解する住宅改修の効果住宅改修は、転倒リスクの軽減や自立度の維持に直結します。特に手すり設置や段差解消、床材変更はヤール3以降で有効です。「できる動作を失わず、介助量を減らす」ことが目的であり、家族の腰痛予防にも寄与します。制度と申請の流れ(町田市の例)テーマポイント相談窓口・手続き住宅改修手すり・段差解消・床材変更など。申請前の事前審査が必須町田市:住宅改修費の給付は着工許可後。ケアマネ経由で申請を。住宅改修アドバイザー建築士・PT・OTが無料で助言。身体・家屋に合わせた提案自己負担なし。高齢者支援センター/介護保険課に相談。固定資産税の減額大規模バリアフリー改修で減額制度が使える工事完了後3か月以内の申請で、100㎡までの床面積に対し1年間3分の1減額住宅改修や制度活用は、ヤールや生活機能障害度と結びつけて説明すると説得力が増します。訪問看護が数値や具体的リスクを示すことで、申請がスムーズに進みます。出典:町田市役所「住宅改修支給申請について(介護保険)」https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/kaigo/business/jutakukaisyu/jyukai_sikyu.html出典:町田市役所「住宅改修・福祉用具(パンフレット)」https://www.city.machida.tokyo.jp/shisei/opendata/kankobutsu/2019-kankoubutsu.files/19-69.pdf10. 医療費・社会的負担の背景知識(世界の動向も一瞥)年世界の患者数(推定)備考1990年約 4.1 百万人高齢化初期段階2019年約 8.5 百万人WHO報告による最新推定2000〜2019年患者数倍増、DALYs(障害調整生命年)約81%増加公衆衛生上の大課題世界的にパーキンソン病は増加傾向にあり、今後も高齢化等で増える見込みです。在宅医療・介護の体制整備の重要性が一層高まっています。出典:WHO「Parkinson disease(Fact sheet)」https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/parkinson-disease11. よくある質問(FAQ)Q1. ヤールは一度上がると下がらない?A. 病勢としては進行性ですが、運動療法・内服調整・環境整備で機能的なパフォーマンスは改善し得ます。**“できる生活”は増やせます。出典:難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/314Q2. 生活機能障害度は誰が決める?A. 医師の診断書等に基づく評価が基本。訪問看護は日常の実態(介助量・転倒・嚥下)を記録し、医師・ケアマネと共有すると適正化に寄与します。出典:厚生労働省「パーキンソン病(指定難病6) 診断基準・重症度分類(抜粋PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173440.pdfQ3. 訪問看護はどんな支援をする?A. 病状観察、内服・副作用チェック、転倒・嚥下・呼吸の看護、家族指導、主治医・ケアマネ等との連携のハブです。出典:日本看護協会「訪問看護」https://www.nurse.or.jp/nursing/zaitaku/houmonkango/index.html12. 学びを深める数字——重症度と“生活のしにくさ”を見える化機能1(ほぼ自立)機能2(部分介助)機能3(全面介助)Y1片側のこわばりで家事に時間——Y2両側性で疲労・外出減少入浴・更衣に一部介助—Y3転倒恐怖・外出縮小移乗の介助が増える—Y4—立ち上がり介助が必須車いす中心/褥瘡リスクY5——嚥下・呼吸ケア、体位変換ヤールと生活機能障害度をクロスさせると、生活上の課題が明確に見えます。訪問看護・リハの支援内容を共有する際に有効な資料になります。出典:厚生労働省「パーキンソン病(指定難病6) 診断基準・重症度分類(抜粋PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173440.pdf13. 国際動向と地域包括ケアへの示唆指標数値備考DALYs(障害調整生命年)約81%増加(2000〜2019年)WHO報告死亡数約2倍増(2000〜2019年)高齢化・環境要因も影響世界患者数2019年時点で約8.5百万人1990年比で倍増WHOは、2000年以降DALYs(障害調整生命年)が約81%増加、死亡数も倍増と報告。在宅ケアの整備と家族支援は、日本でも避けて通れない大命題です。訪問看護の質を高め、多職種連携で支えることが、重症度にかかわらず生活の質(QOL)を守る近道です。出典:WHO「Parkinson disease(Fact sheet)」https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/parkinson-diseaseまとめパーキンソン病におけるホーエン・ヤール分類は、進行度を把握する重要な指標です。生活機能障害度分類と併せて使うことで、より現実的なケア計画が立てられます。本稿では両者の違い、支援制度との関わり、在宅での具体的なリハビリ・看護の工夫を紹介しました。在宅支援では、症状そのものへの対応だけでなく、家族の負担軽減や環境調整が重要です。町田市のように地域資源を積極的に活用することで、生活の質を守ることができます。町田市在住でパーキンソン病のケアでお困りの際は、ピース訪問看護ステーション にぜひご相談ください。参考文献一覧厚生労働省「パーキンソン病(指定難病6) 診断基準・重症度分類(抜粋PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173440.pdf日本看護協会「在宅(地域)/訪問看護」https://www.nurse.or.jp/nursing/zaitaku/houmonkango/index.html日本神経学会「パーキンソン病治療ガイドライン2018」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson.html難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/314WHO「Parkinson disease(Fact sheet)」https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/parkinson-disease町田市役所「住宅改修支給申請について(介護保険)」https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/kaigo/business/jutakukaisyu/jyukai_sikyu.html町田市役所「住宅改修・福祉用具(パンフレット)」https://www.city.machida.tokyo.jp/shisei/opendata/kankobutsu/2019-kankoubutsu.files/19-69.pdf本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。