新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、「酸素濃度」や「パルスオキシメーター」といった用語が一般にも広く知られるようになりました。とくに、自宅療養中の患者やその家族にとって、酸素濃度の把握は重症化リスクを見極めるための大きな指標です。本記事では、訪問看護の視点からコロナと酸素濃度の関係性や対応方法についてわかりやすく解説します。1. 新型コロナと酸素濃度の関係新型コロナウイルスに感染すると、肺に炎症が起きやすくなり、肺胞のガス交換機能が低下することで、血中の酸素飽和度(SpO2)が下がることがあります。特に問題なのは、この低酸素状態が本人に自覚されにくい点です。いわゆる「ハッピーハイポキシア(Happy Hypoxia / Silent Hypoxemia)」と呼ばれる状態で、息苦しさを自覚しないままSpO2が大きく低下していることがあります。これは2020年以降の多くのCOVID-19入院症例からも報告されており、早期のモニタリングの重要性を再認識させられました(Frontiers in Public Health, 2021)。状態SpO2値の目安対応正常96〜99%特に問題なし軽度低下93〜95%観察を続ける、医師に相談中等度90〜92%医療機関への相談が推奨される重度89%以下医療機関への緊急連絡が必要このような理由から、SpO2の常時モニタリングがとても重要になります。特に在宅で療養している場合、定期的な数値チェックが重症化を未然に防ぐ第一歩となります。参照元: 東京保健生活協同組合2. パルスオキシメーターとは?パルスオキシメーターは、小型で持ち運びが可能な機器で、指先に挟むことで血中の酸素飽和度(SpO2)と脈拍を瞬時に測定できます。病院や訪問看護の現場はもちろん、一般家庭にも普及が進みました。非侵襲的に使える点が大きなメリットで、誰でも簡単に扱えるのが特徴です。ただし、正確な数値を得るためにはいくつかの注意点があります。特に、2021年に米国FDAが発表した報告では、「パルスオキシメーターは80%以下のSpO2において精度が下がる可能性がある」ことや、「暗い肌色の人で過大評価される可能性がある」といった注意も示されています(FDA公式サイト)。したがって、数値の絶対値だけでなく、日々の変化や測定条件にも留意する必要があります。パルスオキシメーターを使用する際の注意点注意点内容手の冷え測定値が低く出ることがあるため、温めてから使用する爪の色や汚れ赤系のマニキュアや汚れがあると、センサーが正確に反応しない場合がある測定時の動き測定中に手が動くと誤差が出るので、数秒間は静止した状態を保つ肌の色や血流濃い肌色や低血流時には数値に影響することがある(FDA指摘)また、測定は安静時と活動後の両方で行うのが望ましく、数値の推移を見ることがポイントです。3. 自宅療養時に酸素濃度を測る意義軽症で自宅療養が指示された場合でも、症状が進行していることに気づかないケースがあります。特に高齢者や基礎疾患を持つ方は、症状の出方が穏やかなことが多いため、日々の健康観察が極めて重要です。酸素濃度(SpO2)の測定は、その健康観察の一環として有効です。訪問看護の現場でも、看護師が定期的にSpO2を測定し、その他のバイタルサイン(体温、脈拍、血圧など)と総合的に判断して、医師との連携や病状の報告を行います。症状が落ち着いているように見えても、酸素濃度が低下している場合は早急な対応が必要になることもあるのです。4. どのようなときに医療機関に連絡すべき?SpO2の低下以外にも、重症化を示す兆候があります。以下のような変化が見られた場合には、迅速に医療機関や訪問看護師へ連絡してください。SpO2が92%以下になった会話が困難なほど呼吸が苦しい安静にしていても息切れする顔色や唇が青白くなる(チアノーゼ)意識がもうろうとし、呼びかけに反応しにくくなるこれらの兆候がある場合は、酸素投与や入院による管理が必要なレベルに達している可能性があり、時間の経過とともに状態が急速に悪化することもあるため、即座の判断が重要です。5. 訪問看護での支援内容とは?訪問看護は、医師の指示に基づいて看護師などが患者の自宅を訪問し、医療的ケアや療養支援を行うサービスです。新型コロナウイルス感染症による在宅療養者にとって、訪問看護は安心・安全な生活を支える重要な役割を担っています。支援内容詳細バイタルチェックSpO2、体温、脈拍、血圧などを定期的に測定・記録し、変化をいち早く察知する呼吸リハビリ呼吸機能を高める訓練や排痰支援、呼吸法の指導などを実施する医師との連携異常の早期発見時には、迅速に医師と情報を共有し、必要な対応を検討する家族への指導看護師がパルスオキシメーターの使い方や数値の見方、異常時の対応方法などを丁寧に説明する訪問看護師の存在があることで、患者本人もご家族も安心して在宅療養を続けることができ、万が一の変化にも迅速に対応できる環境が整います。6. 酸素投与が必要になる基準重症化の予防や適切な治療介入のためには、「いつ酸素投与を始めるべきか」の判断が非常に重要です。以下に、国際的なガイドラインで示されている基準を表にまとめました。患者状態酸素投与開始基準(SpO2)推奨される維持目標一般成人(非高炭酸血症リスク)92〜94%未満92〜96%高炭酸血症リスク群(例:COPD)88%未満88〜92%蘇生後またはショック時状況により判断90%以上(妊婦は92〜95%)**とくにSpO2が88%を下回る場合、酸素投与を急ぐ必要があるとされており、この段階では医療機関への即時連絡が求められます。**過剰な酸素投与による副作用にも注意が必要であり、訪問看護師や医師の管理のもとで適切な濃度の酸素を使用することが推奨されます。7. 高齢者や基礎疾患のある人への配慮高齢者や慢性疾患(心疾患、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患など)を抱える人は、新型コロナウイルスに感染した場合に重症化リスクが高くなります。特に肺機能が低下している場合、酸素濃度の低下が急激に進行するケースもあるため、慎重な観察と支援が求められます。訪問看護では、身体的なサポートに加えて、精神的な不安の軽減も重視しています。感染症による社会的孤立や、呼吸苦への恐怖は、高齢者のQOL(生活の質)に大きく影響を与えるため、寄り添った声かけや、安心できるケア環境の提供が不可欠です。まとめ新型コロナウイルス感染症において、酸素濃度の管理は重症化を防ぐうえで重要な役割を果たします。パルスオキシメーターを活用した定期的なSpO2チェックと、必要時の訪問看護による対応が、安心した在宅療養のカギとなります。困ったときは、**ピース訪問看護ステーション**にご相談ください。 ▶ https://island-piece.jp/service/houmonkango関連記事コロナ今どうなってる?最新感染者数・流行株・症状を徹底解説【2025年夏】【2025年最新】コロナ禍と訪問看護の現状と対策、安全なケア提供のために高齢者の水分摂取量ガイド:健康維持のために必要な知識と実践法を紹介本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。