高齢者の食事中に起こる窒息事故は、発生すれば短時間で命を脅かす重大なリスクです。特に加齢による嚥下機能や咀嚼力の低下、持病や口腔機能の衰えは窒息リスクを高めます。東京消防庁の令和5年(2023年)データによると、「ものがつまる等」による救急搬送は3,609人(全年齢)で、その約9割は住宅等居住場所で発生しました。また、この事故類型は「ころぶ」「落ちる」と比べて重篤・死亡の割合が高いことも報告されています【出典:東京消防庁PDF】。本記事では、最新の公式データと専門的知見をもとに、高齢者の窒息リスク要因と予防策を徹底解説します。1. 高齢者に多い窒息事故の現状高齢者の窒息は、家庭や施設での食事中に発生することが多く、発見・対応が遅れると致命的になりやすい事故です。東京消防庁の統計(令和5年)では、事故種別「ものがつまる等」で救急搬送された人員は3,609人(全年齢)。年齢別では0〜4歳が最多ですが、高齢者は一度発生すると重篤化や死亡に至る割合が高いことが指摘されています。表1:東京消防庁データによる「ものがつまる等」事故概要(令和5年)指標内容救急搬送人員(全年齢)3,609人発生場所約9割が住宅等居住場所年齢層の特徴0〜4歳が最多、次いで高齢層も多い重症度ころぶ・落ちるより重篤・死亡の割合が高い出典:東京消防庁『救急搬送データから見る 日常生活事故の実態(令和5年)』2. 誤嚥しやすい食べ物ランキング以下は、訪問介護事業者ケアリッツのコラム記事で紹介された高齢者が誤嚥しやすい食べ物ランキングです。公式統計による順位ではありませんが、現場での注意喚起に役立ちます。順位食べ物例1位お茶・ジュース・牛乳2位きな粉・抹茶・ココアパウダー3位スープや汁物4位水分の多い果物(ぶどう・柿など)5位パン・クッキー・カステラ6位ナッツ類7位イカ・タコ8位生野菜9位そぼろ・ひじき10位お餅・焼き海苔出典:ケアリッツ「高齢者が誤嚥しやすい食べ物ランキングTOP10」※誤嚥しやすい食品と、実際の窒息原因食品は必ずしも一致しません。3. 喉に詰まりやすい食品の特徴高齢者の窒息リスクを高める食品には、共通する物理的特徴があります。表2:食品の特徴とリスク特徴例リスク理由粘着性が高い餅・団子喉や気道に貼り付きやすい粉状きな粉・抹茶吸い込むと気道に直接入る水分多く滑りやすいぶどう・トマト噛まずに飲み込みやすいパサつくパン・カステラ唾液不足で固まりやすい出典:ハートページ「喉に詰まりやすい食品ランキング」、厚生労働省窒息事故防止資料4. 誤嚥と窒息の違い誤嚥:食べ物や飲み物が誤って気管に入る。むせや咳が生じる。繰り返すと誤嚥性肺炎の原因に。窒息:気道が完全に塞がれ呼吸できない状態。数分で致命的になる危険がある。高齢者では誤嚥が繰り返される中で窒息に至ることがあり、区別して対応策を考える必要があります。5. 窒息リスクを高める要因要因説明嚥下反射の低下加齢や脳血管障害後の影響で飲み込み反射が鈍化。咀嚼力の低下歯の欠損や義歯不適合で噛み砕きが不十分。唾液分泌の減少薬の副作用・脱水などで食品がパサつきやすくなる。反射機能の鈍化むせ返し・咳反射が弱まり排出できない。会話や笑いながらの食事注意が散漫になり誤飲を誘発。速すぎる食事ペース噛む・飲み込む動作が追いつかず窒息リスク上昇。出典:消費者庁 窒息事故防止に関する注意喚起6. 自宅でできる予防の工夫小さく切って柔らかく調理 噛みやすく、喉を通りやすくする。とろみを付ける 液体にとろみを加え、誤嚥リスクを減らす。食事中は口に集中 テレビやスマホを避け、咀嚼・嚥下に専念。正しい姿勢で座る 背筋を伸ばし直角に近い姿勢で食事する。食べ物と水分の併用 少量の水分を間に挟むと喉に残りにくい。食後は安静に 15〜30分の安静で誤嚥リスクを下げる。出典:東京消防庁「餅などによる窒息事故に注意」7. 介護・医療現場での対応策口腔ケアの徹底 唾液分泌促進・口腔内清潔維持で誤嚥予防。 出典:消費者庁資料嚥下訓練 舌や口周りの筋トレ・発声訓練を行う。 出典:厚労省資料見守りと声かけ 食事ペースを調整し、むせの兆候を早期対応。窒息時の応急手当訓練 背部叩打法・腹部突き上げ法(※乳幼児・妊婦は方法が異なる)を習得。 出典:東京消防庁 応急手当ページ多職種連携 看護師・作業療法士・言語聴覚士等で評価・支援計画を策定。まとめ高齢者の窒息事故は、予防可能なケースが多いものの、発生すると命に関わります。日々の食事環境整備と緊急対応法の習得が不可欠です。ピース訪問看護ステーションでは、訪問看護・訪問リハビリを通じて安全な食生活の支援を行っています。お気軽にご相談ください。関連記事食中毒の原因と予防対策、家庭でできる安全な食事管理嚥下機能に効果的!パタカラ体操の正しいやり方と注意点【高齢者の食事を考える】健康で豊かなシニアライフを支える栄養と工夫本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。