新型コロナウイルス(COVID-19)の流行から5年以上が経過しました。ワクチンの普及や治療薬の開発によって「命の危険性」は以前より減ってきたとはいえ、特に高齢者や持病を抱える方にとっては依然として深刻な病気です。本記事では、一般の方にも分かりやすく「致死率」の基本と最新データを整理し、さらに訪問看護の現場で役立つ知識やチェックリストをご紹介します。在宅療養を安心して続けるためのヒントも多数盛り込みました。1. 「致死率」とは?基礎から理解コロナ関連のニュースで頻繁に使われる「致死率」には大きく2種類あります。CFR(症例致死率):診断された人のうち、亡くなった人の割合。IFR(感染致死率):無症状を含め、実際に感染した人すべての中で亡くなった人の割合。CFRの方が数字は大きく出やすいのが特徴です。たとえば検査対象が重症者に偏るとCFRは高くなり、軽症者を幅広く検査すれば下がります。ニュースで見かける数字は前提条件によって大きく変わることを意識しましょう。用語まとめ表用語意味特徴CFR診断された症例に対する致死率実際の臨床現場で報告されやすいIFR感染した全体に対する致死率調査や推定が必要、数値は小さく出やすい超過死亡例年より多い死亡者数の差分実際の社会的影響を測る指標2. 年齢と持病によるリスク差コロナは「誰でも重症化の可能性がある病気」ですが、特に高齢者や基礎疾患を持つ方の致死率が高いことがデータで明らかになっています。年齢別致死率(CFR)厚生労働省がとりまとめたデータ(2022年7~8月に診断された症例、石川県・茨城県・広島県の協力データ、暫定値)では以下のような傾向があります。年代致死率(CFR)0~9歳0.00%10~19歳0.00%20~29歳0.00%30~39歳0.01%40~49歳0.00%50~59歳0.02%60~69歳0.07%70~79歳0.34%80~89歳1.27%90歳以上2.60%注目点:高齢になるほど致死率が上がる傾向は一貫しています。特に80代では1~2%前後、90代では2~3%台と、若年層との差が大きいことが分かります。出典:厚生労働省「(2023年4月版)新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識」https://www.mhlw.go.jp/content/000927280.pdf年齢×持病のリスクイメージ年齢持病なし持病あり(1つ)持病が複数~64歳低やや注意注意65~79歳注意高いさらに高い80歳~高いさらに高い特に高い重要ポイント:年齢と持病の組み合わせがリスクを大きく左右します。訪問看護では「その方の背景を理解する」ことが命を守る第一歩です。3. インフルエンザとの違い「インフルエンザと同じ程度なのでは?」と考える方もいますが、実際には高齢者や持病を持つ方ではコロナの方が重症化リスクが高いことが分かっています。オミクロン株以降は致死率が下がったものの、依然として注意が必要です。インフルエンザとコロナの比較項目インフルエンザコロナ(2022年以降の傾向)重症化のしやすさ低い低下したが高齢者で高い致死率極めて低い高齢者や持病のある人で有意に高い後遺症少ない長期にわたる後遺症が残る場合あり医療体制への影響中程度波ごとに病床や救急が逼迫出典:国立感染症研究所「コロナウイルス感染症」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html4. 訪問看護でチェックする「危険サイン」在宅療養の方を守るためには、日常の観察で「小さな変化」に気づくことが大切です。以下のリストはご家族でも参考になります。チェックリスト酸素の数値(SpO₂)が93%以下息苦しさ、会話が続かない高熱が続く、または解熱後に再び発熱水分や食事がとれない、尿の回数が減る意識の混乱、せん妄のような症状受診・連絡の目安サイン救急車を呼ぶ医師に連絡様子を見るSpO₂が90%以下●SpO₂が91~93%●急な意識障害●食事がとれない●出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」https://www.mhlw.go.jp/content/001248424.pdf5. データをそのまま信じない理由「致死率は〇%」と聞いても、それだけで判断してはいけません。検査体制の違いで数字が変わる死亡の分類方法によっても差が出る集計の遅れで最新の状況を正確に反映できない場合がある複数の指標(CFR、IFR、超過死亡など)をあわせて理解することが重要です。6. 在宅でできる予防とケアワクチン:接種の最新状況を確認し、特に高齢者や持病がある方は早めに相談しましょう。薬の服用:抗ウイルス薬は早期投与が効果的。飲み合わせに注意。持病の安定化:心臓病、糖尿病、腎臓病、肺の病気の管理を普段通りしっかり続けることが重症化予防になります。栄養と活動:食欲がないときは少量を複数回に分けて摂取。軽い運動やリハビリも回復につながります。在宅ケアの工夫例項目ポイント水分補給こまめに少量ずつ摂取食事高カロリー・高たんぱくを意識活動短時間の歩行、体位変換睡眠昼夜のリズムを保つ7. 感染対策の基本を続ける「もう終わった」と気を抜かず、家庭内でも基本的な対策を続けましょう。家庭内の工夫場所対策補足玄関手指消毒、マスク外から帰ったらすぐ実施居間換気、湿度管理CO₂センサーで1000ppm以下を目安に換気トイレタオル共用禁止フタを閉めて流す出典:厚生労働省「感染拡大防止のための効果的な換気について」https://www.mhlw.go.jp/content/001020788.pdf厚生労働省「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」https://www.mhlw.go.jp/content/000680008.pdf8. 罹患後症状(ロングコビッド)について新型コロナにかかったあと、回復しても長期間症状が続く場合があります。これを「罹患後症状」や「ロングコビッド(Long COVID)」と呼びます。主な症状倦怠感(体がだるい)咳や息苦しさ味覚や嗅覚の異常集中力低下や物忘れ頭痛、関節痛、抑うつ症状発症の頻度厚生労働省のまとめでは、感染者の数%~数十%程度に症状が残る可能性があるとされています。若い人でも起こり得るため注意が必要です。症状は数週間から数か月続く場合があり、生活の質を下げる要因となります。出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状のマネジメント(別冊)」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001097600.pdf訪問看護でできること症状の聞き取りと記録睡眠・栄養・活動リズムの調整支援医師やリハビリスタッフとの連携精神的なサポート(不安やうつ症状への対応)ポイント:ロングコビッドは「誰にでも起こり得る」ことを知り、症状が長引くときは医療者に早めに相談することが大切です。9. よくある質問Q1. コロナはもう「ただの風邪」?A. 若い健康な人にとっては軽い場合が多くなりましたが、高齢者や持病がある方にとっては依然として危険です。Q2. パルスオキシメータの基準は?A. 安静時で93%以下なら注意。90%以下なら救急を検討。歩行時の低下も要注意です。Q3. ワクチンは必要ですか?A. はい。特に高齢者や基礎疾患をお持ちの方は、医師と相談して適切な時期に接種しましょう。まとめコロナの致死率は一律ではなく、年齢や持病によって大きく変わります。また、回復後も罹患後症状(ロングコビッド)が生活に影響する可能性があるため、注意が必要です。在宅での療養を安心して行うためには、日常の観察や家族との連携が不可欠です。訪問看護は「危険サインを見逃さない」「受診の判断をサポートする」だけでなく、「回復後の支援」にも重要な役割を担っています。支援が必要な場合は、ピース訪問看護ステーションへお気軽にご相談ください。関連記事インフルエンザはいつ流行する?時期・予防・受診の目安を、訪問看護の視点でわかりやすく解説【2025年最新】新型コロナ自宅待機期間は何日?陽性者・濃厚接触者の最新ルールまとめ季節の変わり目に体調不良が起きやすい理由と対策まとめ—自律神経・睡眠・栄養で整える参考文献一覧WHO “Estimating mortality from COVID-19”https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/estimating-mortality-from-covid-19厚生労働省「新型コロナの重症化率・致死率とその解釈に関する留意点について」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001027743.pdf厚生労働省「(2023年4月版)新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識」https://www.mhlw.go.jp/content/000927280.pdf厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」https://www.mhlw.go.jp/content/001248424.pdf厚生労働省「感染拡大防止のための効果的な換気について」https://www.mhlw.go.jp/content/001020788.pdf厚生労働省「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」https://www.mhlw.go.jp/content/000680008.pdf厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状のマネジメント(別冊)」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001097600.pdf国立感染症研究所「コロナウイルス感染症」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html総務省統計局「新型コロナウイルス感染症の『感染状況等の見える化』」https://www.stat.go.jp/dstart/case/pdf/r5/r5_case03.pdf本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。