家での生活を続けるために、「訪問リハビリ(訪問リハ)」や「介護保険」をどう使えばよいのか――。本記事は、市民の方向けにやさしく・実用的にまとめました。対象者、費用の目安、回数の考え方、申し込み手順、訪問看護との違い、家族ができる工夫まで、大事なキーワード(訪問/リハビリ/介護保険)を押さえながら解説します。家の段差、浴室、トイレなど“その家ならでは”の課題に合わせて動けるのが訪問リハの強み。この記事が、はじめの一歩の道しるべになれば幸いです。1. 訪問リハビリとは?(家で受けられるリハの基本)訪問リハビリは、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)などのリハビリ専門職が自宅を訪問し、生活に直結する動作(歩行・入浴・トイレ・食事・会話・嚥下など)を一緒に練習・調整する介護保険サービスです。病院のリハビリと違い、“家で実際に困っている場面”にそのまま対応できるのが特長です。事例紹介(実際の訪問リハのイメージ)80代女性・要介護2:退院後、浴槽をまたぐのが難しく、転倒が心配だった。OT(作業療法士)が浴槽の高さを確認し、バスボードを導入。練習を重ね、1か月後には自分で安全に入浴できるように。70代男性・要支援1:足の筋力低下で外出が不安。PT(理学療法士)が玄関の段差昇降練習と歩行訓練を実施。週2回の訪問で買い物へ行けるようになった。60代女性・要介護1:脳梗塞の後遺症で発声が不明瞭、会話が伝わらないことが増えた。ST(言語聴覚士)が発声訓練と会話の工夫(ゆっくり・短く話す)を実施。家族との意思疎通が改善し、外出先での不安も減少。このように、訪問リハは「家の中や日常生活の困りごと」に直結して改善を目指します。職種ごとの役割(わかりやすくまとめ)専門職主な支援内容具体例理学療法士(PT)歩行・立ち上がり・段差昇降、筋力・バランス、転倒予防杖を使って玄関の段差を越える練習作業療法士(OT)更衣・入浴・トイレ・調理・金銭管理、福祉用具・住宅改修助言浴槽のまたぎ方やバスボードを使った入浴練習言語聴覚士(ST)嚥下訓練、発声・会話支援、認知面のサポートむせを減らす食事姿勢、発話練習家族支援介助の声かけや動作統一「立ち上がるときは“せーの”と声をそろえる」出典:公益社団法人 日本WHO協会「リハビリテーション | WHOファクトシート日本版」https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/rehabilitation/2. 介護保険で使える人・使い方(対象と条件をかんたんに)訪問リハビリは介護保険で利用します。条件をできるだけシンプルにまとめると、以下の通りです。表2:利用条件(かんたん整理)条件内容補足要介護・要支援の認定市役所で申請し、認定を受ける認定がまだの人も申請中から相談可能主治医の指示医師が「訪問リハが必要」と判断指示書が必要になりますケアマネの関与ケアプランに組み込むケアマネが手続きを進めてくれる事業所の決定利用者が事業所を選び、契約を結ぶその後にリハビリが開始されるわかりやすく言うと:「認定を受ける → 主治医が必要と判断 → ケアマネが計画 → 事業所を決定して契約 → リハ開始」この流れで進みます。迷ったら市役所やケアマネに聞けばOKです。出典:厚生労働省「訪問リハビリテーション(報酬・体制の概要)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123920.pdf3. 費用・回数・時間のめやす(やさしく解説)基本の考え方訪問リハビリは20分=1回の単位制が基本です。1回あたりのサービス費用は約3,000円相当で、介護保険の自己負担割合(1〜3割)に応じて実際に支払う金額が決まります。表3:1回(20分)の費用めやす自己負担割合利用者の負担額備考1割負担約300円多くの高齢者が該当2割負担約600円現役並み所得の方など3割負担約900円高所得者が対象※地域の単価や加算・減算によって変わるため、具体額は事業所の見積もりで確認しましょう。シミュレーション例(実際にいくら?)例:40分(2回)×週2回=月8回(16回分)表4:シミュレーション例(40分×週2回のケース)項目数値計算結果単位数(20分あたり)約307単位地域差あり40分(2回)×週2回×4週16回分=4,912単位307単位×16回単価換算(1単位=10円)49,120円総額1割負担約4,912円/月利用者負担額2割負担約9,824円/月利用者負担額3割負担約14,736円/月利用者負担額大事なポイント: 実際の費用は地域区分や加算で異なるため、必ず事業所に確認を。出典:厚生労働省「訪問リハビリテーション(介護予防・介護の報酬の概要)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123920.pdf4. 利用までの手順(市役所での流れ|町田市の例)全国で大きな流れは同じですが、申請先は自治体によって異なります。町田市の公式情報をもとに、はじめての方でも迷わない道筋を6ステップでまとめました。表5:介護保険の申請〜訪問リハ開始まで(町田市の例)ステップすること相談先ポイント1要介護・要支援の認定申請市役所・地域包括支援センター申請は家族やケアマネ代行もOK2認定調査・主治医意見書市の担当課が調整体調や困りごとは正直に伝える3認定結果の通知郵送など非該当なら総合事業を検討4ケアマネ選定・ケアプラン作成居宅介護支援事業所目標(例:風呂・トイレ・買い物)を具体化5主治医の指示書病院・診療所訪問リハの必要性を具体的に共有6事業所を決定・契約→初回評価→開始訪問リハ事業所家の段差・手すり等を一緒に確認出典:町田市役所「要介護・要支援認定申請から介護サービス利用までの流れ」https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/kaigo/nagare/the-step-of-service.html5. 訪問看護と訪問リハビリの使い分け両者とも自宅で受けられるサービスですが、役割が違います。表にまとめると次の通りです。表6:訪問リハビリと訪問看護の違い・使い分け項目訪問リハビリ訪問看護中心となる支援生活のリハビリ(歩行・入浴・トイレなど)病状管理・医療ケア(服薬・症状観察など)主な担い手PT/OT/ST看護師(必要に応じPT/OT/STも関与)目的生活動作や活動参加の向上、環境調整病気や症状の安定、療養生活の支援こんなときに「段差を越えたい」「浴槽に入りたい」「むせを減らしたい」「息切れやむくみが心配」「薬管理が大変」「処置が必要」ポイント: 状況によっては併用も可能です。生活動作の改善は訪問リハ、病状管理は訪問看護、と役割を分けて利用するのがおすすめです。出典:日本看護協会「訪問看護・訪問リハビリテーション 提供体制強化のための調査研究事業 報告書」https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/report/2022/hmnpsy_strforce2022.pdf6. 家庭で役立つ安全チェックリスト(印刷して使える)表7:訪問リハ前後で見直したい“家の安全ポイント”場所チェック項目できているメモ玄関段差に手すりはある?靴の置き場は固定できる?☐廊下夜間の足元照明はある?コード類は邪魔していない?☐トイレ立ち上がりやすい座面高?紙は利き手側にある?☐浴室滑り止めマット、シャワーチェアの高さは合っている?☐寝室ベッドの高さ、つかまる場所はある?動線は広い?☐ひとこと:「危ないから手伝う」だけだとできる力が下がることがあります。安全に挑戦できる環境づくりが大切です。出典:厚生労働省「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について(資料)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000938163.pdf7. 住宅改修・福祉用具はセットで考える玄関・浴室・トイレ・寝室は転倒が起きやすい場所。訪問リハでは、動作×環境×用具をセットで見ます。住宅改修:手すり、段差解消、敷居の調整、扉の変更など。福祉用具:つえ、シャワーチェアの座面高、ベッド周りの柵など。評価:実測(座面高・段差・ドア幅)→試す→調整の繰り返しで安全を高めます。出典:厚生労働省「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について(資料)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000938163.pdf8. よくある質問(Q&A)Q1. 通所リハ(デイケア)と訪問リハ、どっちが良い?A. 家の環境に直結した課題が中心なら訪問リハ。社会交流や長めのプログラムを希望するなら通所リハも選択肢です。Q2. 訪問看護と訪問リハ、併用できる?A. 状況に応じて可能です。病状管理は訪問看護、生活動作の改善は訪問リハ、と役割を分けるとスムーズです。出典:日本看護協会「訪問看護・訪問リハビリテーション 提供体制強化のための調査研究事業 報告書」https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/report/2022/hmnpsy_strforce2022.pdfQ3. 費用はいくらくらい?A. 1〜3割負担が基本で、月4,000〜10,000円程度のケースが多いです。高額介護サービス費制度も利用可能。出典:厚生労働省「訪問リハビリテーション(報酬・体制の概要)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123920.pdf9. まとめ訪問リハビリは、家での困りごとにそのまま効くリハビリです。介護保険の認定→主治医→ケアマネ→事業所という流れを踏めば、難しい手続きも一つずつ解決できます。費用は1〜3割負担が基本。生活に合わせた目標を持ち、家の環境や用具を整えることで、転倒予防・自立度向上・家族の負担軽減につながります。迷ったら、まずは身近なケアマネや事業所に相談を。個別の状況に合わせて最適な回数・時間・進め方が見えてきます。ご不明点や個別相談は、ピース訪問看護ステーション にご相談ください。関連記事廃用症候群を防ぐために、寝たきりを防ぐ訪問リハビリと生活の工夫嚥下機能に効果的!パタカラ体操の正しいやり方と注意点パーキンソン病の症状と訪問看護の役割、在宅療養を支えるプロの視点参考文献一覧公益社団法人 日本WHO協会「リハビリテーション | WHOファクトシート日本版」https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/rehabilitation/厚生労働省「訪問リハビリテーション(報酬・体制の概要)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000661085.pdf厚生労働省「訪問リハビリテーション(介護予防・介護の報酬の概要)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123920.pdf町田市役所「要介護・要支援認定申請から介護サービス利用までの流れ」https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/kaigo/nagare/the-step-of-service.html日本看護協会「訪問看護・訪問リハビリテーション 提供体制強化のための調査研究事業 報告書」https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/report/2022/hmnpsy_strforce2022.pdf厚生労働省「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について(資料)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000938163.pdf本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。