介護保険施設(特養・老健・介護医療院・ショートステイ)を利用すると、介護サービス費の自己負担とは別に食費・居住費(滞在費)がかかります。一定の低所得要件を満たす方は「負担限度額認定」を受けると、これらの費用が軽減されます。2025年(令和7年)8月から一部の施設・居室で基準費用額の見直し(室料相当額の導入など)もあり、制度理解と準備がますます重要です。本稿では、制度の仕組み、最新の改正点、申請準備、よくある落とし穴、実際の費用シミュレーションまで、実例や表を交えて網羅的にまとめます。1. 「負担限度額認定」とは(制度の目的と対象)負担限度額認定は、低所得の方が施設利用時の食費・居住費の負担を軽減する仕組み(介護保険の補足給付)です。対象は主に、介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護医療院、短期入所(ショートステイ)利用者。世帯全員(世帯分離中の配偶者を含む)の課税状況・収入・資産などで判定され、段階区分(第1~第3段階、非該当)に応じて上限額が設定されます。出典:厚生労働省「令和6年8月1日から変わります(補足給付の見直しリーフレット)」https://www.mhlw.go.jp/content/000778218.pdf2. 2025年(令和7年)に押さえるべき改正ポイント2025年8月から、一部の施設(老健「その他型・療養型」や介護医療院II型など)の多床室に室料相当額(月額8,000円=1日260円相当)が導入されます。これにより基準費用額(居住費)の扱いが見直されます。対象は限定されますが、契約している施設・居室が該当するかを事前に確認することが重要です。利用者負担の限度額そのものは維持されるため、認定を受けている方は急な大幅負担増にはなりません。また、年度更新(多くは8/1〜翌7/31適用)のタイミングで再申請が必要です。出典:厚生労働省「令和7年8月からの 室料相当額控除の適用について」https://www.mhlw.go.jp/content/001507306.pdf3. 判定の仕組み──課税区分・収入・資産要件の全体像負担限度額の判定は、市町村民税の課税状況を基礎に、年金収入(非課税年金を含む)+合計所得金額と資産(預貯金等)を総合的に見ます。主な基準(2025年8月〜)第2段階:年金収入等が80.9万円以下、資産650万円以下(夫婦1,650万円以下)第3段階①:80.9万円超〜120万円以下、資産550万円以下(夫婦1,550万円以下)第3段階②:120万円超、資産500万円以下(夫婦1,500万円以下)資産上限の代表値:単身1,000万円/夫婦2,000万円を基準とする自治体も多いさらに世帯・配偶者の収入や資産も対象に含まれます。適用期間多くの自治体で「8/1〜翌7/31」が有効期間。申請した月の1日から適用されますが、申請を忘れた月にはさかのぼれません。表1|要件の整理(代表例)見るポイント基準の例実務メモ課税区分世帯全員が住民税非課税世帯分離中の配偶者も含む資産要件単身1,000万円/夫婦2,000万円以下 等預貯金等の残高証明が必要収入要件年金収入+合計所得が80.9万円以下 等段階に応じて細分化あり適用期間多くは8/1〜翌7/31毎年更新必須出典:鹿角市「令和7年度 特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)」https://www.city.kazuno.lg.jp/soshiki/chojushien/chojuseikatsu/gyomu/1/1/2/13379.html町田市「介護保険負担限度額認定制度について(2025年度)」https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/kaigo/hutan/hutangendogaku.files/gengakuannai2025.pdf福生市「介護保険負担限度額認定」https://www.city.fussa.tokyo.jp/life/health/nursing/1009215.html4. いくら軽減される?──段階区分と日額の考え方負担限度額認定には第1〜第3段階があり、段階ごとに食費・居住費の上限が設定されています。表2|負担限度額の目安(2025年8月〜)区分食費(日額)居住費(日額・多床室)第1段階約300円0円第2段階約600円約430円第3段階約1,000円約430円認定なし(基準費用額)1,445円915円(特養等)/437円・697円(老健・医療院)5. 申請の流れと必要書類(年度更新も忘れずに)市役所や町役場の介護保険窓口で申請書を提出必要書類を添付介護保険被保険者証預貯金の残高証明書年金額のわかる書類本人・配偶者の収入証明など認定されると負担限度額認定証が発行施設に提示すると、軽減額が適用される※更新は毎年1回(8月〜翌7月)。更新を忘れると軽減が受けられません。6. よくある落とし穴と対処法配偶者の資産を忘れて申請が却下→ 別居していても原則含まれます。残高証明の取得に時間がかかる→ 銀行によっては1〜2週間かかるため早めに準備。更新を忘れて軽減が途切れる→ 市からの通知を必ず確認し、早めに手続き。7. 実際にいくら安くなる?シミュレーション(町田市の例)表3|モデルケース(町田市例)ケース条件食費(日額)居住費(日額・多床室)月額合計(30日)ケース①年金月8万円、預貯金300万円、非課税約300円約430円約21,900円ケース②年金月12万円、預貯金500万円、非課税約600円約430円約30,900円ケース③年金月16万円、預貯金800万円、非課税約1,000円約430円約42,900円ケース④年金月20万円、資産基準超過施設設定額施設設定額約75,000円〜8. 制度を上手に使うための工夫更新を忘れない金融機関での証明書は早めに依頼施設に見積を依頼し「認定あり/なし」で比較ケアマネや包括支援センターに相談9. 全国平均との比較(基準費用額ベース)表4|基準費用額の代表値(2025年8月〜)区分食費(日額)居住費(日額・多床室)認定なし(基準額)1,445円915円(特養等)/437円(老健・医療院:室料徴収なし)/697円(老健・医療院:室料徴収あり)第3段階約1,000円約430円第2段階約600円約430円第1段階約300円0円10. 在宅サービスとの費用比較表5|在宅 vs 施設ケース月額費用の目安在宅介護(介護度3、自己負担1割)約8〜9万円(生活費込み)施設利用(認定なし)約10万円施設利用(第2段階)約5.4万円11. よくある質問Q&AQ1. 誰でも受けられるの?→ いいえ。非課税・収入基準・資産基準を満たす必要があります。Q2. 預貯金はいくらまで?→ 単身1,000万円/夫婦2,000万円以下が目安です。Q3. 別居の配偶者も対象?→ はい。収入や資産も含まれます。Q4. 一度認定されればずっと有効?→ いいえ。毎年更新が必要です。Q5. ショートステイでも使える?→ はい。短期入所にも適用されます。まとめ「負担限度額認定」は、介護施設を利用する際の大きな助けになる制度です。2025年の改正は一部施設に限定されますが、制度を知らないと月5万円以上の差になることもあります。関連記事訪問看護における緊急時訪問看護加算とは?制度の理解と実務での対応ポイント訪問看護の【初回加算】完全ガイド、算定要件・点数・注意点を徹底解説【2025年対応】訪問看護における退院時共同指導加算とは?算定要件や注意点を解説 参考文献一覧厚生労働省「令和6年8月からの補足給付の見直し(リーフレット)」https://www.mhlw.go.jp/content/001266890.pdf厚生労働省「令和7年8月からの 室料相当額控除の適用について」https://www.mhlw.go.jp/content/001507306.pdf厚生労働省 介護保険施設の基準費用額(食費1,445円 等)https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html山口市「介護保険施設入所時の食費・居住費軽減(2025/8/1更新)」https://www.city.yamaguchi.lg.jp/site/korei/120685.html町田市「介護保険負担限度額認定証 更新のご案内(2025年度)」https://www.city.machida.tokyo.jp/iryo/kaigo/information/hutangendogakukousin.files/futangendokousin2025.pdf福生市「介護保険負担限度額認定」https://www.city.fussa.tokyo.jp/life/health/nursing/1009215.html本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。