透析をしない選択、いわゆる保存的腎臓療法は、治療をあきらめることではありません。透析を使わずに、腎臓の働きが落ちて出てくる症状を薬とケアで和らげながら暮らす道です。日本透析医学会は、この選択を本人・家族・医療チームがどう話し合って決めるかの道筋を提言としてまとめています。「先生から透析の話が出たけれど、本人が首を縦に振らない」。腎不全のある方のお宅へ伺うと、繰り返し聞く言葉です。本人は「もう十分に生きた」と言い、家族は「透析さえすれば生きられるのに」と思う。どちらも相手を思う言葉です。この判断は、感情のもつれの中で決めるものではありません。日本透析医学会は2020年の提言で、保存的腎臓療法(CKM)の情報提供から合意形成、緩和ケアまでを整理しています(出典:日本透析医学会「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」透析会誌53巻4号173〜217頁・2020年)。この記事でわかること保存的腎臓療法とは何をする治療で、透析とどう違うのか透析をしない場合に体に起こることと、余命の考え方提言が示す、誰がどの順番で決めるかのプロセス本人が意思表示できないときに家族が問われる「代弁」撤回のしかたと、期間を限って試す中間の選択肢腎不全の経過は腎不全患者の在宅ケア完全ガイド、訪問看護の専門視点からにまとめています。透析をしない選択(保存的腎臓療法)とは|4つ目の選択肢透析をしない選択(保存的腎臓療法)は治療の放棄ではなく、透析を使わずに症状を抑えて生活を守る、末期腎不全の正式な治療の一つです。日本腎臓学会も、末期腎不全の選択肢として血液透析・腹膜透析・腎移植・保存的腎臓療法の4つを示しています(出典:日本腎臓学会「11.腎代替療法」(一般のみなさまへ))。保存的腎臓療法とは何を行う治療か腎臓の働きを機械で肩代わりせず、腎臓内科的な管理と緩和医療で症状を抑える治療です。選択肢主に行うこと通院・拘束の目安血液透析血液を体外に出し老廃物と水を除く通院で週3回、1回3〜5時間腹膜透析腹膜を使い自宅で透析液を交換通院は月1〜2回、交換は1日3〜4回腎移植提供された腎臓を移植する手術と生涯の免疫抑制薬保存的腎臓療法血圧・電解質の管理と症状の緩和在宅中心、通院は体調に応じて腹膜透析のCAPDは、1回の交換に20〜30分かかります(同出典)。何もしないのではありません。高血圧や電解質異常の管理に加え、むくみには利尿と水分調整、かゆみには外用薬と保湿、吐き気には制吐薬。日本腎臓学会は、今後は保存的腎臓療法が第4の腎代替療法として認知され、選択肢の一つとして示されるようになると見込んでいます(同出典)。「透析をしない」と「治療をしない」は違う透析をしないと決めても、腎臓の薬も、吐き気やかゆみの薬も通院も続きます。よくある受け取り方実際に行われることもう病院に行かなくていい体調確認と症状緩和のため通院は続く薬もやめることになる血圧・貧血・かゆみの薬は続ける決めたら二度と変えられないいつでも撤回でき、透析を始められる家で放っておかれる在宅医・訪問看護が緩和ケアを担う透析を見合わせた後も適切に緩和ケアを行う。提言にはそう明記されています。放置とは正反対です。ご家族が最も驚かれるのは、通院が続く点です。決めた後に何が続くのかは、決める前に確かめてください。いつ、どのように選択肢として示されるか腎代替療法の情報は腎機能が一定まで下がった時点で、保存的腎臓療法の情報は透析開始が必要な時点で示されます。目安はeGFRという数値です。腎臓が老廃物をこし取る力の推算値で、小さいほど働きが落ちています。時期医療チームが行うことeGFRが30mL/分/1.73m²未満になった時点将来必要になる腎代替療法の情報提供近い将来に透析が必要と見込まれる時点腎代替療法と末期腎不全の自然経過の説明透析の開始が必要な時点選ばない場合に保存的腎臓療法の情報提供選択した後受診のたびに意思の変更がないか確認保存的腎臓療法の情報を出す時期は慎重に判断すべきだ。提言はそう釘を刺しています。強い尿毒症症状が出ると意思を変えて透析を受け入れる人が多いからです。医療者が慎重なのは、気持ちを軽んじているからではなく、時間をかけて何度も話す設計だからです。慢性腎臓病の段階からの暮らし方は慢性腎臓病(CKD)の在宅療養|家族ができる食事・血圧管理と注意点を解説へ。国内の患者は推定2,000万人、人工透析を受ける方は約34万人です(出典:厚生労働科学研究費補助金「慢性腎臓病(CKD)における治療と仕事の両立に関する手引き」)。透析をしない場合、体と暮らしはどう変わるか透析をしない選択では、むくみ・だるさ・かゆみ・吐き気が強まり、やがて呼吸困難や意識障害に至りますが、症状ごとに和らげる手立てがあります。腎臓の働きが落ちると、水分を出せずむくみ、造血ホルモンが減って貧血になり、尿毒症(老廃物が体にたまって全身に不調が出る状態)の物質がたまって倦怠感やかゆみが出ます(出典:日本腎臓学会「3.腎臓がわるくなったときの症状」)。現れる症状と、その一つひとつへの手立て出てくる症状は予測でき、だからこそ先回りして薬とケアを用意できます。症状在宅での主な対応全身のむくみ・呼吸困難利尿薬の調整、水分と塩分の見直し、体位の工夫、酸素食欲不振・嘔気・嘔吐制吐薬、少量頻回の食事、匂いの調整貧血・出血しやすさ貧血の治療薬、転倒予防、歯磨きの工夫しびれ・全身倦怠感動作の分割、休息の確保、環境の調整皮膚のかゆみ保湿、外用薬、爪と寝具の管理けいれん・意識障害抗けいれん薬、鎮静の相談、家族への事前説明この一覧は、提言が示す「透析の見合わせに関する確認書」に並ぶ6つの症状に沿っています。確認書には「苦痛を和らげる処置が行われます」とも書かれています。深い持続的な鎮静を行うなら、事前に本人・家族から同意を取ることが望ましい。提言に置かれた注意書きです。水分と塩分の扱いは透析中の方と変わります。指示は主治医と管理栄養士に確認してください(腎臓病のカリウム制限ー食事の工夫・注意点・透析中の安全な管理方法を解説)。余命はどのくらいか、言えること・言えないこと余命は「透析をしないから何カ月」と一律には決まらず、腎機能がどれだけ残っているかで変わります。状況報告されている見通し透析が永続的に必要と診断された後に見合わせた場合数日から数週で死亡する可能性が高い保存的腎臓療法を続けた場合(オーストラリアのコホート報告)3年以上の予後もありうる80歳以上(海外の単一施設の報告)予後に差がみられなかった。ただし同じ報告で70歳以上では透析を開始した人の予後が良く、心血管系の合併症があると差はなくなった全体をまとめた比較生存率は腎代替療法が良好、生活の質は同等かCKMが良好な傾向いずれも提言が引用する海外の報告で、いつ選んだかで見通しが変わると読み取れます。ただし、これらを日本にそのまま当てはめるのは難しいとも提言は述べています。欧米は説明の時期が早く、前提が違うためです。主治医には「あとどれくらいですか」より「今見合わせた場合と、余力がある段階で続ける場合で見通しはどう違いますか」と尋ねてください。暮らしの側から見た違い透析を続ける暮らしと保存的腎臓療法の暮らしは、時間の使い方と負担が正反対です。項目血液透析を続ける場合保存的腎臓療法の場合通院週3回、1回3〜5時間外来と在宅医の訪問血管への処置内シャントの作成と毎回の穿刺行わない送迎・付き添い週3回分が家族の負担になりやすい訪問中心のため負担は減る症状透析で軽くなるものが多い薬とケアで緩和する内シャントは、透析の針を刺しやすくするため腕の動脈と静脈をつなぐ手術です。作った腕には血圧計を巻かない、強く圧迫しないという約束事が一生続きます。高齢の方では、送迎と付き添いが決定を左右します。誰が支えるか見えないまま始めると、家族が疲れ切ります。町田市内で腎不全のある方に伺っていると、冬場の朝一番の透析がこたえるという声を聞きます。暗いうちに起きて着替え、送迎車を待ち、帰宅は昼過ぎ。それが週3回です。通院困難・透析中の低血圧・穿刺痛。提言はこれらを、介入で解決できる可能性のある理由と位置づけています。送迎の調整、透析時間の見直し、穿刺の工夫。解決できる困りごとを先につぶす。この順番を飛ばさないでください。誰が、どう決めるのか|日本透析医学会が示す意思決定プロセス透析をしない選択を決めるのは本人であり、家族と医療チームは話し合いを重ねて合意をつくる共同意思決定(SDM)で支えます。提言は7項目から成ります。本人の意思決定の尊重、共同意思決定、人生会議(ACP。望む医療とケアを本人・家族・医療者で前もって繰り返し話し合っておくこと)、見合わせの提案、申し出への対応などです。決めるのは本人、支えるのが家族と医療チーム意思決定権は本人にあり、家族と医療チームの役割はその決定を助けることだと提言は言います。立場果たす役割本人説明を受け、質問し、自分の価値観に沿って選ぶ家族等本人の価値観を伝え、話し合いに同席し、支える医師病状・治療の利益と不利益・自然経過を説明する看護師生活と気持ちを聞き取り、話し合いの場を整える医療チーム全体話し合いを記録し、文書にまとめて共有する意思決定能力のある本人には、人生の最終段階かどうかにかかわらず、医療を受ける権利と拒否する権利がある。提言が最初に置く原則です。家族の同意がなければ決められない仕組みではありません。ただ、本人が家族の顔色をうかがって黙る場面はよくあります。家族が合意しない場合は、本人の意思が尊重されるべきことを繰り返し説明し、合意を得るよう努力する。これが提言の求める対応です。話し合いの記録と共有も求められています。同席したご家族には、その日のうちにメモを残すようお伝えしています。共同意思決定で確認される5つのこと共同意思決定が踏まれたかは、提言のプロセス図にある5つの確認事項で見分けられます。確認事項家族が言い換えると腎代替療法と保存的腎臓療法を十分に話し合ったか4つの選択肢すべての説明を受けたか価値観・意向・懸念事項を明らかにしたか何を大事にしたいかを聞かれたか本人に助言・提案を示したか医療者としての考えを聞けたか本人ならどう言うか家族に確認したか家族の希望ではなく代弁を求められたか保留・変更・セカンドオピニオンが伝わったか決め直せると聞いているか抜けやすいのが1つ目です。血液透析・腹膜透析・腎移植の3つは説明されても、保存的腎臓療法だけ説明されないことがあります。日本透析医学会の提言も、5学会が作成した腎不全の治療選択に関するパンフレットに保存的腎臓療法が含まれていないと指摘しています(前掲)。説明がないと感じたら「透析をしない選択について教えてください」と尋ねて構いません。外来で全部を確認するのは難しく、この5項目を紙に書いて持参するご家族もいます。家族の中で意見が分かれたとき、どこに持ち込むか意見が割れたまま押し切るのではなく、話し合いを重ねる場が用意されています。場面提言・ガイドラインが示す対応家族の中で意見がまとまらない話し合いを繰り返し、合意形成に努める本人・家族と医療チームが合意できない施設長に相談し、専門家や倫理委員会で検討本人の意思を推定できない家族等と十分に話し合い、最善の方針をとる家族等がいない介護従事者や自治体の福祉担当者と相談する厚生労働省のガイドラインも、家族等の中で意見がまとまらない場合は、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置して検討と助言を行う必要があるとしています(出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」平成30年3月改訂)。家族だけで結論を出す必要はありません。こじれたら「委員会で検討してもらえますか」と伝えます。現場でよく見るのは、遠方の親族が終盤に現れて方針をひっくり返す場面です。初期から関係者を呼んでおくほうが、結果として早く着地します。家庭での話し合いが噛み合わないうちから相談できます。外来に同席する看護師が一人いるだけで、論点が整理されることも。お問い合わせからご連絡ください。本人の意思が確認できないとき、家族はどう関わればよいか本人が意思表示できないときに家族へ求められるのは「自分ならどうしてほしいか」ではなく「本人ならどう言うか」を伝えることです。厚生労働省のガイドラインは、本人の意思確認ができない場合、家族等が推定できるならその推定意思を尊重することを基本とすると定めています(前掲)。「家族の希望」ではなく「本人の代弁」であることの確認医療チームは、家族の申し出が本人の意思の代弁かどうかを必ず確かめます。医療チームが確認すること家族が用意しておくとよいもの事前指示書があるか書面、エンディングノート、手紙口頭での意思表示があったかいつ・どこで・誰に言ったかの記憶そう考える理由は何か本人の口ぐせや大事にしていたこと申し出は家族の希望ではないか本人の言葉として語れるかどうか意思決定能力のない方について家族から見合わせの申し出があったとき、医療チームは事前指示と理由を確認し、家族の希望ではなく本人の代弁かを判断します。提言の手順です。問い方も決まっています。「ご本人がもし意思表示できるとしたらどうおっしゃると思いますか」。この一言を尋ねるよう提言は求めています。「延命はしたくない」の一言でも、どんな流れで出たかを覚えていれば手がかりになります。なお、成年後見人や任意後見人には、医療とケアに同意する権限が現時点では認められていません(提言)。推定意思が分からないときの決め方推定できないときは、家族と医療チームが「本人にとっての最善」を話し合います。状況ガイドラインが示す手順家族等が本人の意思を推定できる推定意思を尊重し、最善の方針をとる家族等が推定できない本人に代わる者として話し合い、最善の方針をとる家族等がいない、判断を委ねられた本人にとっての最善の方針をとることを基本とするいずれの場合も話し合った内容をその都度、文書にまとめるこの手順は腎不全に限らず、人生の最終段階の医療・ケアに共通します(前掲)。注目したいのは「心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う」という一文です。今日決めたことは今日の状態への答えで、状態が変われば作り直せます。判断を丸投げされたと感じたら「医療チームとしての考えを教えてください」と伝えてください。委ねられた場合は医療チームが最善の方針を説明する、と提言にも書かれています。認知症があるだけでは「人生の最終段階」にならない認知症が進んでいるだけを理由に透析をしない方向へ流れるのは、提言と異なります。よくある受け取り方提言に書かれていること認知症が重いから人生の最終段階だ重度の認知機能障害だけでは該当しない透析が必要な腎不全は末期だそれだけでは人生の最終段階といえない認知症の人には意思決定できない意思決定権は本人にあり、支援して意思を引き出す家族が決めれば足りる本人の意思の代弁であることの確認が必要重度の認知機能障害があっても、それのみでは人生の最終段階に該当しない。提言はここをはっきり書き分けています。意思決定能力の評価は、理解・論理的思考・認識・表明の4つを総合して行います。分かる言葉で、体調の良い時間帯に確かめてください。認知症のある方の終末期は認知症の終末期ケア、在宅看取りで家族が迷う選択肢もあわせて読んでください。一度決めても変えられる|揺れる気持ちとの向き合い方透析をしないと決めた後でも、その決定はいつでも撤回でき、透析を始めることも再開もできます。いつでも撤回できることを説明したうえで確認書を取得し、開始を申し出れば口頭の意思表示で透析を実施する。提言の定めです。撤回できることは、決める前に説明されている確認書と撤回書の2枚の書式が、気持ちの変化を織り込んで用意されています。書式書かれている主な内容見合わせに関する確認書末期の状態であることの説明を受け理解した同見合わせると症状が出て死亡すること、苦痛を和らげる処置が行われること同いつでも撤回できること、撤回時は迅速・安全に透析を開始できない可能性見合わせに関する撤回書一時的な血液透析、または継続的な腎代替療法を希望する確認書は強制的に取るものではなく、取得しないこともあると提言は注記しています。撤回時の状況によっては迅速・安全に透析を開始できない可能性がある。確認書にはそこまで書かれています。揺れているなら、症状が出る前に伝えてください。現場では、署名した数週間後に「やっぱり一度だけ試したい」という言葉が出ます。「もう決めたでしょう」と返すと、次に本音は出ません。家族の役割は、決定を守らせることではなく、気持ちが動いたことを医療チームに橋渡しすることです。迷いは自然なこと、意思が変わる人は少なくない末期腎不全の治療選択で気持ちが変わる人は、他の病気より多いと提言は述べています。気持ちが揺れやすい場面家族の関わり方尿毒症の症状が強く出たとき「今なら変えられる」と選択肢を思い出させる家族に負担をかけていると感じたとき負担の実際を具体的な言葉で伝える説明を受けた直後決断を急がせず、持ち帰る時間を作る孫の入学や法事など先の予定が見えたとき予定を口実に希望を聞き直す腎代替療法を選ばなかった方の多くは、強い尿毒症症状を経験すると意思を変えて受け入れる。提言が海外の報告から引く傾向です。症状が出てから気持ちが変わるのは、弱さではありません。透析を経験していない人の拒否はまれではなく、通院を続けるうちに受け入れる方が多いとも書かれています。相模原市のご自宅に伺っていたある方は、確認書を書いた後も月に一度は「あれでよかったのかな」と口にされていました。答えを出させず、その言葉が出るたび主治医へ報告する。それだけで、最後まで意思を変えられる状態を保つことにつながります。期間を限定して試す、回数や時間を減らすやる・やらないの二択ではなく、試す・減らすという中間の選択肢もあります。中間の選択肢内容期間を限定した透析期間を決めて試し、その後に継続するか決める透析時間・回数の減少段階的に時間や回数を減らす症状緩和のための一時的な透析苦痛を和らげる目的に限って実施する治療法の変更血液透析と腹膜透析を切り替える腎代替療法を選ばない方には、期間を限定した透析の情報も提供する。提言が求める説明の一つです。人生の最終段階と診断された方には、時間と回数を段階的に減らす道も示されます。日本腎臓学会も、保存的腎臓療法には症状を軽減するためだけの一時的な血液透析を含む場合があるとしています(前掲)。一度だけ試して、つらければやめる。この選び方を知るだけで、話し合いは追い詰められた二択でなくなります。訪問看護でできる支援|在宅での症状緩和と相談先透析をしない選択をした後の在宅生活では、訪問看護が症状の緩和と病状の見守り、家族の支え、在宅医や病院との橋渡しを担います。在宅での看取りを希望した場合、医療チームは在宅医へ情報を引き継ぎ緩和ケアを託す。提言が描く流れです。在宅で行う症状緩和と日々の観察訪問看護は、予測される症状に先回りして薬とケアを整え、変化を早くつかみます。場面訪問看護が行うこと呼吸が苦しい呼吸状態と体重の確認、体位の工夫、酸素や薬の相談むくみが強い体重・尿量・皮膚の観察、水分と塩分の調整を主治医へ報告かゆみで眠れない保湿と外用薬の塗り方の指導、寝具と爪の調整食べられない食事の形と回数の見直し、制吐薬の効き方の確認急な変化主治医・在宅医への連絡と受診の判断訪問のたびに押さえるのは、体重・尿量・血圧・むくみの押し跡・呼吸の速さの5つ。なかでも体重は条件をそろえないと比較になりません。朝トイレの後、同じ服装、同じ体重計。ここを家族と決めてから記録を始めます。連絡の目安も紙1枚にまとめ、電話機のそばに貼っていただきます。症状ごとに、まずどこへかけるのか。夜中に迷わずにすみます。夕方の訪問で必ず耳にするのが、横になると息が苦しくなるという訴えです。町田市内の集合住宅で暮らす方のお宅では、ベッドの背上げの角度を変え、枕を1段高くし、体重の推移を毎週主治医へ送りました。この積み重ねで、救急車を呼ぶ回数が減ったケースもあります。在宅で耐えるという意味ではありません。息苦しさで横になれない、尿がほとんど出ない、呼びかけへの反応が鈍い。こうした変化は時間帯を問わず連絡してください。病院から在宅へ引き継がれる情報在宅へ移るときは、検査結果だけでなく話し合いの経過も引き継がれます。引き継がれるものなぜ必要か臨床経過と検査データ在宅で何を見張るかの基準になる意思決定の過程と人生会議の情報どんな話し合いを経たかを共有する本人・家族の価値観迷いが出たときの判断材料になるキーパーソン、認知症の有無と治療歴連絡窓口と説明のしかたに関わる見合わせに関する確認書の写し在宅チーム全員が方針を共有するこれらを病院の医療チームが在宅医へ提供する。提言が列挙する引き継ぎ項目です。引き継ぎが薄いまま在宅が始まると、訪問した看護師が方針を知らず救急搬送を勧めかねません。退院前カンファレンスにこの表を持参し、一つずつ確認してください。在宅医との連携を望まない場合は、病院の医療チームが緩和ケアを続けます(前掲)。家族へのケアと、決めた後に残る思い家族へのケアは、看取りの後まで提言に位置づけられています。家族が抱えやすい思い支えになること自分が透析をさせなかったのではないか話し合いの記録を一緒に読み返す症状を見ているのがつらい緩和の手立てと連絡先を具体的に持つ仕事と介護が両立できないサービスの追加とレスパイトを検討する亡くなった後も気持ちが晴れないグリーフケアの相談先につながる看取りとグリーフケアを含む心理的ケアを家族等へ行うことも、提言は医療チームの務めに数えています。相模原市のご自宅で看取りを終えたご家族から、四十九日を過ぎた頃に「あれでよかったのでしょうか」と連絡をいただくことがあります。訪問記録を一緒にめくり、本人が残した言葉を確かめる時間が、答えの代わりになります。最期を迎えた後の手続きは自宅で看取り 息を引き取ったとき最初にすべきこと|連絡先と流れにまとめました。在宅で症状を見ていけるか自信がない、夜間にどこへ連絡すればよいか分からない。退院が決まる前でも、決まった後でも間に合います。お問い合わせからお声かけください。よくある質問(FAQ)Q. 透析をしないとどうなりますか。余命はどのくらいですか。A. むくみ、だるさ、かゆみ、吐き気が強まり、やがて呼吸困難や意識障害が起こります。透析を永続的に必要とすると診断された後に見合わせた場合、日本透析医学会の提言は数日から数週で死亡する可能性が高いとしています。保存的腎臓療法を続けた場合は3年以上の予後もありうるとオーストラリアの報告があり、今どの段階かで見通しは変わります。Q. 保存的腎臓療法とはどのような治療ですか。A. 透析や腎移植を行わずに、血圧や電解質の管理と症状の緩和で暮らしを支える治療です。日本腎臓学会は、末期腎不全で腎代替療法を選ばない場合や透析を中止する場合に、尿毒症症状と苦痛を軽くするために行う保存的な治療と説明しています。何もしない選択ではなく、薬も通院も続きます。Q. 透析をしない選択は誰が決めるのですか。A. 決めるのは本人です。意思決定能力のある本人には、人生の最終段階かどうかにかかわらず、説明を受けたうえで医療を受ける権利と拒否する権利がある。提言はそう明記しています。家族と医療チームは、情報を出し、価値観を聞き取り、合意をつくる役割です。医療者が勝手に決めるのでも、本人に丸投げするのでもありません。Q. 本人が意思表示できない場合、家族が決めてもよいのですか。A. 家族は代諾者にならざるをえませんが、問われるのは家族の希望ではなく本人の推定意思です。医療チームは事前指示書や口頭での意思表示、その理由を確認します。面談では「ご本人がもし意思表示できるとしたらどうおっしゃると思いますか」と尋ねられます。推定できないときは、家族と医療チームで本人にとっての最善を話し合います。Q. 一度「透析をしない」と決めたら、あとから透析を始めることはできますか。A. できます。決定はいつでも撤回でき、口頭で意思を伝えれば透析を実施すると提言に明記されています。撤回書という書式もあり、一時的な血液透析か継続的な腎代替療法かを選べます。ただし確認書には、撤回時の状況によっては迅速・安全に開始できない可能性があるとも書かれています。早めに伝えてください。Q. 透析をしない場合、痛みや苦しさはどう和らげますか。A. 予測される症状ごとに薬とケアを組み合わせます。むくみと呼吸困難には利尿薬の調整と体位の工夫や酸素、吐き気には制吐薬、かゆみには保湿と外用薬です。見合わせる前でも緩和ケアは提供されるべきだ、というのが提言の立場です。Q. 家族の中で意見が分かれたときはどうすればよいですか。A. まず情報量の差を埋めてください。外来に同席する、説明の内容をメモで共有する。それでも割れる場合は、話し合いを繰り返して合意形成に努めることが提言の求める対応です。合意できないときは施設長に相談し、専門家からなる委員会や倫理委員会で検討してもらえます。Q. 透析を始めた後でも、途中でやめる(中止する)ことはできますか。A. できます。提言は開始を差し控える場合と継続を中止する場合の両方を扱い、維持透析中の方が中止する場合も保存的腎臓療法の対象としています。ただし、通院がつらい、透析中に血圧が下がる、穿刺が痛いといった理由は、介入で解決できる可能性のあるものと位置づけられています。まず解決できる困りごとを洗い出してください。まとめ透析をしない選択(保存的腎臓療法)は、治療をあきらめることではなく、透析を使わずに症状を和らげながら暮らす、末期腎不全の正式な治療の一つです。決めるのは本人であり、家族と医療チームは情報を出し、価値観を聞き取り、合意をつくる役割を担います。見通しは、いつの段階で選んだかで変わります。透析が永続的に必要と診断された後で見合わせれば数日から数週、保存的腎臓療法を続けて3年以上という報告もあります。本人が意思表示できないときに家族へ問われるのは「自分ならどうしてほしいか」ではなく「本人ならどう言うと思うか」です。一度決めても撤回できます。期間を限定して試す、時間や回数を減らすという中間の選択肢もあります。まずは主治医に4つの選択肢すべての説明を求め、話し合った内容を日付とともに記録に残してください。在宅での症状緩和と見守りは、在宅医と訪問看護が引き受けます。ピース訪問看護ステーションにご相談くださいこんな方はぜひご相談ください:透析をするかしないかで家族の意見が分かれ、話し合いが止まっている方透析をしない選択をした後、自宅で症状を見ていけるか不安な方本人が意思表示できず、何を基準に決めればよいか分からないご家族ピース訪問看護ステーションができること:体重・尿量・呼吸の変化を記録し、主治医や在宅医への報告に使える形へ整えますむくみ・かゆみ・吐き気・息苦しさへのケアを在宅で行い、受診の判断をお伝えします退院前カンファレンスに同席し、意思決定の経過や確認書の共有漏れを防ぎます町田市・相模原市・多摩市など東京都南部を中心に対応しています。まずはお気軽にお問い合わせください。関連記事腎不全患者の在宅ケア完全ガイド、訪問看護の専門視点から慢性腎臓病(CKD)の在宅療養|家族ができる食事・血圧管理と注意点を解説腎臓病のカリウム制限ー食事の工夫・注意点・透析中の安全な管理方法を解説終末期に食べられない時、点滴や胃ろうの判断と自然な経過認知症の終末期ケア、在宅看取りで家族が迷う選択肢参考文献一覧出典:日本透析医学会「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」透析会誌53巻4号173〜217頁・2020年https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/53/4/53_173/_article/-char/ja2.出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」平成30年3月改訂https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197721.pdf3.出典:日本腎臓学会「11.腎代替療法」(一般のみなさまへ)https://jsn.or.jp/general/kidneydisease/symptoms11.php4.出典:日本腎臓学会「3.腎臓がわるくなったときの症状」https://jsn.or.jp/general/kidneydisease/symptoms03.php5.出典:厚生労働科学研究費補助金(腎疾患政策研究事業)「慢性腎臓病(CKD)における治療と仕事の両立に関する手引き」令和7年10月https://www.mhlw.go.jp/content/CKD_ryoritsu-shien_manuel.pdf【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理、地域医療連携、在宅看取り支援に積極的に取り組んでいる。island-piece.jp 株式会社isLand|訪問看護・居宅介護支援・訪問介護|町田市