突然の失神は、日常生活の中でも決して珍しいものではありません。身近な人が急に意識を失って倒れると、不安や混乱を感じるのが自然です。この記事では、失神の原因や種類、対応方法、医療機関の受診の目安について、医療従事者の視点からわかりやすく解説します。この記事を通じて、失神の種類ごとの特徴やリスク、対応の流れについて理解を深め、必要に応じて適切な行動が取れるようになることを目的としています。1. 失神とは?失神(syncope)とは、脳への血流が一時的に低下することにより起こる、一過性の意識喪失状態です。通常は数秒から数分で自然に回復します。代表的な失神の症状としては、急に顔色が青白くなり、その場に崩れ落ちるように倒れるというケースが多く見られます。また、発汗、吐き気、めまいといった前駆症状を伴うこともあります。失神はそのほとんどが一過性で、比較的良性の経過をたどることが多いものの、心臓や脳の疾患が隠れているケースもあるため、軽視することはできません。特に高齢者では転倒による骨折などの二次的被害も大きく、適切な診断と対応が求められます。出典:厚生労働省|意識障害とその対応2. 主な原因以下の表は、失神の主な3分類とそれぞれの特徴・誘因・予防法をまとめたものです。分類主な原因特徴誘因例主な予防策神経調節性失神迷走神経反射、感情ストレスなど若年者に多い、再発しやすい恐怖・痛み・長時間の立位水分・塩分摂取、急な動作回避起立性低血圧自律神経障害、脱水、薬剤など起立時にめまい、ふらつきが出現起床直後、長時間の立ち仕事ゆっくり起立、弾性ストッキング着用心原性失神不整脈、弁膜症、心筋症など前兆がなく突然発症、重症例は致死性も運動中、就寝中専門医の診察、薬物・デバイス療法失神は以下の3つに分類され、それぞれ原因や対処法が異なります。神経調節性失神もっとも頻度が高く、迷走神経反射や極度の緊張、排便や排尿時のいきみ、長時間の立位などによって誘発されます。若年者や健康な人にも見られる一方で、再発しやすい傾向があります。発作前には気分不快や視界の暗転などの前兆を伴うことが多く、早期に座ったり横になることで防げる場合もあります。起立性低血圧起立後に重力の影響で下肢に血液がたまり、脳への血流が不足することで発症します。加齢や自律神経障害、脱水、降圧剤の服用などが関与します。起立してから約3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下した場合、診断の指標となります。心原性失神命に関わる重篤な失神として注目されます。突然死のリスクもあるため、医療機関での精密検査が不可欠です。心房細動や心室頻拍、房室ブロックなどの不整脈、大動脈弁狭窄や肥大型心筋症といった器質的心疾患が原因です。出典:日本医師会|失神のメカニズム3. 危険な失神の見分け方失神の中には、緊急対応が必要なタイプが含まれており、危険なサインを見逃さないことが重要です。以下のような特徴がある場合、ただちに医療機関を受診する必要があります。運動中や興奮時に発症した失神意識消失直前に胸痛や激しい動悸があるけいれんや失禁を伴う意識が数分以上戻らない、あるいは何度も繰り返す家族に心疾患や突然死の既往があるこれらのケースでは心原性や中枢神経系の重篤な疾患が関与している可能性が高く、迅速な評価と専門的対応が求められます。受診時には、失神の状況を詳細に伝えることが診断に役立ちます。出典:WHO|Syncope: Causes and Management4. 失神の診断方法失神の原因特定には、段階的な診断アプローチが必要です。以下の3つのステップを基本に、必要に応じて追加検査が行われます。評価項目内容目的問診発症時の状況、誘因、既往歴、服薬状況など原因の推定、危険サインの特定身体所見バイタル、心雑音、神経学的異常の確認循環器・神経系疾患の鑑別心電図(ECG)不整脈、虚血、伝導障害などの有無を確認心原性失神の評価追加検査ホルター心電図、心エコー、脳波、MRIなど原因が不明な場合の補助的検査起立負荷試験起立時の血圧変動を評価起立性低血圧や反射性失神の判別出典:厚生労働省|失神の診断ガイド5. 治療法と予防策失神のタイプに応じた治療と予防策を講じることで、再発リスクを大幅に減らすことが可能です。神経調節性および起立性低血圧このタイプの失神は生活習慣の工夫で予防可能なケースが多くあります。日頃から十分な水分と塩分を摂取する暑熱環境や長時間の立位を避ける起立時は足を組む、下肢を動かす、壁にもたれるなどで血流を保つ弾性ストッキングや腹部バンデージの使用薬物療法(ミドドリンなど)も検討される場合がある心原性失神心原性失神は重篤化のリスクが高いため、早期の医療介入が不可欠です。原因となる心疾患の診断と治療が最優先抗不整脈薬の処方や、徐脈に対するペースメーカー、致死性不整脈に対するICDの植え込みなど、重症度に応じた管理が必要症状の頻度や持続時間により、入院加療が望ましいこともある出典:日本医師会|失神の治療と予防6. 失神が起きたときの対応方法失神が発生した場面では、冷静な判断と迅速な対応が求められます。ステップ対応内容補足説明①安全な場所に移し仰向けに寝かせる転倒による二次被害を防ぐ②頭部を低くし、足を高く保つ脳への血流回復を促す③呼吸・脈拍・意識の確認呼吸停止や心停止があればCPR開始④意識が戻らない、または異常があれば救急要請119番通報し、状況を冷静に伝える⑤回復後も安静を保ち、急な動作は避ける再発予防と転倒防止のために重要7. 受診の目安と受診先失神は一過性でも、重大な疾患のサインである可能性があります。以下に該当する場合は、早急に医療機関を受診してください。はじめて失神を経験した場合過去に何度も失神を繰り返している発作に伴って胸痛、強い動悸、けいれん、意識回復の遅れなどがある高齢で転倒による外傷が懸念される場合まずはかかりつけ医や内科、総合診療科で相談し、必要に応じて循環器内科、神経内科、精神科など専門医に紹介されることが多いです。出典:厚生労働省|医療機関受診の手引き8. 訪問看護の活用高齢者や慢性疾患を抱える方にとって、失神の再発予防や日常生活の支援には訪問看護の活用が非常に有効です。医療機関への通院が困難な方でも、自宅で専門職によるケアが受けられるため、安心して生活を送ることができます。訪問看護では以下のような支援が可能です。バイタルサインのモニタリング(血圧・脈拍・体温など)起立性低血圧への対策支援(生活環境の工夫や日常動作の指導)内服管理や疾患管理に関する助言医療機関との連携による緊急時の対応体制の構築さらに、訪問リハビリテーションでは以下のような支援が行えます:運動時のバイタルサインの変動を評価し、安全な範囲での運動を実施転倒や失神のリスクを踏まえた生活指導や自主訓練の提案日常生活動作(ADL)の改善を目指す継続的なリハビリ支援これにより、失神の再発を防ぐだけでなく、利用者本人の生活の質(QOL)を高める支援が可能です。まとめ失神は一時的な現象であっても、背景に重大な疾患が隠れている可能性があるため注意が必要です。原因ごとに対応方法が異なるため、失神を経験した際は専門医の診察を受け、正確な診断と適切な予防策を講じることが大切です。特に高齢者や持病を抱える方においては、再発予防や日常的な体調管理のために訪問看護の利用を検討することが望ましいです。不安な症状がある方や、日常生活に支障を感じている方は、ぜひピース訪問看護ステーションにご相談ください。関連記事コロナと酸素濃度の関係性とは?自宅療養で知っておくべきポイント経口補水液の正しい作り方と飲み方、脱水症・熱中症を防ぐ家庭の知恵介護保険で受けられるリハビリのすべて、種類・内容・利用の流れを解説本記事の執筆者・監修者プロフィール【執筆者】作業療法士都内の回復期リハビリテーション病院に7年間勤務し、その後東京都町田市内で訪問看護・訪問リハビリに携わり5年。AMPS認定評価者、CI療法外来の経験を持ち、またOBP(作業に基づく実践)を中心とした在宅支援の豊富な実践経験を有する。【監修者】看護師(訪問看護ステーション管理者)大学病院での急性期看護を経て、訪問看護ステーションの管理者を務める。終末期ケアや慢性疾患管理に長け、地域医療連携や在宅看取り支援にも積極的に取り組んでいる。